頑な

 

指先が軽く触れ合うと、僅かに反応はした。
けれど一護自身は正面を向いたまま知らん振り。
緊張したその指は、構って欲しげに床板に張り付いているというのに。

夏を過ぎて尚、勢いを失わない陽光が部屋の中まで照らしつけ、
俺たちの手が、床に濃い影を落としている。
欲を抑えきれない俺の指が鎌首をもたげると、
その影が一護の指に絡みついた。
けれど光も影も圧をもたず、こんなものでは一護に触れたことにはならない。
何も伝えられてはいない、得られもしない。
一護も何も感じてない。


堪え性の無い俺の指が、一護の爪先に這い寄った。
トン、とわざとらしく触れてみたが、依怙地なまでの無反応。
だからそのまま指の背骨を辿り、内側へゆっくりと廻り込んでみる。
柔らかい肉の表面を撫でて、辿りついた指の付け根に軽く爪を立てると、
一護の指は軽く痙攣し、初めて戸惑いを見せた。
けれどまた沈黙。
今がその頑なさを解くその時なのに、
対抗もせず、負けてもみせず、無駄に強張っていくだけの指。

これでは駆け引きにならない。
経験が浅すぎるせいか?
それともただ意地を張っているだけか?
ならばこれもいい機会だろう。
俺にも、一護にも。


貪欲な俺の指が、捕らえた獲物を喰らう準備に入った。
触れ合う指先の僅かな震えも逃さない。
絡めて掬い取り、撫で上げては離れ、
硬く緊張するのを逃さずに指の腹で押さえ込む。
今、ここで手を退けたら負けなのだと仄めかし、
小狡く勝負事に擦りかえて、幼いその反応をゆっくりとしゃぶりとる。
横目で盗み見ると、僅かに俯いた横顔は、
唇が強く噛まれて色を失くし、眼は頑なに正面を睨み続け、微動だにしない。

だがその頬に一筋、汗が流れ落ちた。
午後の陽光を反射する光が俺の眼を奪った。
そして満足と同時に敗北感をも得た俺は、素知らぬフリで手を引いた。


指先に残るのは僅かな湿気。
俺のものか一護のものかはわからない。
舐めると、甘い汗の味が舌に残った。





2007. 受恋企画寄稿, 2008.3 加筆修正・再録
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