「い、いや、アレだ。ルキア」
「だから何だと言うのだ」
よし。いいぞ、ルキア。そのまま俺の方を見とけ。間違っても恋次の方とか見るなよ?!
「オマエなあ、いくら相手が恋次でもなあ。脱げとかやっぱヤバイだろ」
「何がヤバイのだ。恋次だぞ?」
「いや、確かにそうなんだけどさ」
恋次の眉毛がヒクっとした。
口元も歪んでる。
けど構うものか。
「でもテメーも仮にも貴族なんだろ? 白哉がびっくりすんじゃねーか? テメーが男、ひん剥いてるとこ見たらさ?」
「ひ、ひん剥く…?!」
ルキアは思いっきりまん丸に目を見開いた。
「男をひん剥く? 私がか?! 貴様、それは恋次のことか!!」
ぶはっと盛大に吹き出したのをきっかけに、ひーひーと腹を抱えて笑い転げ出したので、これ幸いとばかりに、恋次はそそくさとルキアの手から逃げて、胸元を掻き合わせた。
「テメー、ルキアッ! そこまで笑うことねえだろッ!!!」
「だ、だって…、一護が…、男をって、恋次のことを…、ぷぷッ」
「ひとの顔見て噴出すなッ!!! テメエもだ、一護ッ」
あー、ダメだ。
さっき以上の大混乱。
ていうか恋次、自分が脱がされかけてたこと、忘れてねえか?
俺、助けてやったんだろーが!
「あー、まあとにかくだ!」
ここは俺が仕切る!
「恋次がフランケンシュタインなんだな? で、他のキャストは?」
「ああ、それなら私が悪魔なのだ! それから乱菊さんが魔女で、あ、井上にも声を掛けようと思ってるのだ」
いつもどおり訳の分からんイラストが突きつけられた。
じゃあアレか。このピンクの水着着たウサギのバケモンみたいなのはテメーか。
ある意味、ぴったりだよな。
つか乱菊さん、こんなに露出する気か?
つか井上? 井上、何、させられんだ?!
「…って他は?」
「なんと日番谷隊長も参加されるのだぞ!」
「冬獅郎が?!」
「そうだ。乱菊さんが、私がおねだりしたら隊長、絶対聞いてくれるからと張り切っておられたからな」
脅すの間違いだろ。
気の毒に。
「だがとにかく突然のことで男衆が足りぬので、恋次の使用許可を兄様に頂いたのだ」
「使用許可…。つか白哉は出ねえのかよ?」
「兄様は生憎の御用で、本日はムリなのだそうだ。兄様であったら西洋の礼装もお似合いであっただろうに…」
「えー? つか白哉を剥いてフランケンシュタイン、させりゃーいいじゃねえかよ。な、恋次?」
だが恋次の反応は薄かった。
「
使用許可かあ、俺、男どころかモノ扱いかあ」と呟きながら窓の外の夕陽を眺めている。
…大丈夫だ、恋次。
俺は心の中で拳を握り締めた。
俺がいるから。
絶対、このアクマの手から護り抜いてみせるから!
「じゃあさ、ルキア。俺も参加させろよ!」
「は? 貴様がか?」
「ああ! せっかくなんだしさ。俺もなんか仮装するぜ!」
そんで恋次のこと、悪魔たちの魔の手から、俺が護ってやるんだ。
「別に構いはせぬが…。まあ貴様も顔が知れていることだし」
「だろ?」
「うーん、どんな仮装にすればいいのか。しょたこんとやらにも受けがいい仮装…」
「は? ちょっと待て、お前、今、何つった?!」
「いや、別に何も」
視線を逸らしたルキアに、俺の何かがピリっと反応した。
「テメエ! 俺ァもう高校生だッ!」
「そうか。そうであったな」
「クソっ、テメエ、棒読みしてんじゃねえッ」
「ならどうしろというのだ。日番谷隊長はともかく、貴様は年齢やサイズ的にいろいろと半端なのだ」
「んだと?! テメエ、高校生をバカにするなよ?!」
「喧しいッ! 私は貴様で出来るはろいーんの仮装を考えておるのだ。邪魔をするな!」
「っせえッ! 俺も伊達に鍛えちゃいねえんだッ! …よし。俺がやる! 俺がフランケンシュタイン、やってやる!」
がばっと上衣を肌蹴ると、ルキアはマジマジと俺の身体を見た。
「うーん…」
「…ど、どうだよ」
いくらルキアとはいえ、こんなに見られるとさすがに居心地悪い。
つか恋次!
テメエ、んな目で睨みつけてんじゃねえよ!
別に俺、ルキアにどうこうってことはねえよ!
つか逆か? 逆なのか?!
「…よかろう」
「は…?」
「ならば貴様、ふらんけんしゅたいんをやるがよい。これはこれで集客が得られるだろう」
「テ、テメエ…、それだけか!」
「しかし恋次は何の仮装をさせればいいものか…。それなりに貴重な人材なのだが」
「…やっぱ、ハロウィンといや、かぼちゃ?」
「かぼちゃ?」
「ああ、こんなの」
ジャック・オ・ランタンの面を付けたところを描いて見せると、ルキアはびりっと破って捨てた。
「あ、テメー、何しやがるッ!!」
「貴様、何も分かっておらぬ。この企画は女性死神協会の大事な資金源なのだ。恋次にはもっと稼げる格好をしてもらわぬと…」
「んだと、テメー! 女性死神協会?!」
「ほかに何か、女性の心をぐっと掴めるようなものは無いのか」
「クソ、無視すんじゃねえッ! つか他にって何が…」
「何か簡単なものがいい。もう時間もないし、衣装の準備も難しい」
「オバケ。ほら、白いシーツを被って…」
「たわけッ! 顔も体も見えぬのでは、その辺の雑魚で充分ではないかッ」
「散々、恋次ごとき呼ばわりしてたヤツのセリフとも思えねえな、それ。つかうーん、他に何があったっけ? 黒猫、もダメか」
「いっそ貴様と二人ふらんけんしゅたいんというのはどうだ。大小で赤とオレンジ、中々賑やかで受けもいいと思うが」
「いや、…いや、ちょっと待て! もう少し考えるから」
そうだった。
すっかり忘れてたけど、今日は恋次の肌を出させる訳に行かない。
俺はぐるぐると見回した。
何か、何か手近にヒントがないものか。
簡単に出来て、ルキアが納得しそうなハロウィンの仮装…。
「そうだ!」
「お、何かあったのか?」
「おう! これならぴったりだ! 簡単で、稼げそうで!」
「おお!」
「ちょっと待ってろッ」
俺は階下に駆け下り、目当ての品を充分量、見つけた。
これで何とかなる!
妹たちの叫び声を背に部屋に走って戻ると、ルキアとルキア作の素晴らしい絵、丸まった大きな恋次の背中が目に入った。
「おお、戻ったか一護。それでだな、恋次。これからが本番なのだ。まずは乱菊さんが…」
ルキアは上機嫌で説明を続けてるが、恋次はもう半無意識で頷き続けてる。
オイ、テメエ、大丈夫かよ?
目ェ、泳いでるぞ?
でももう問題ねえぞ、恋次。俺がついてる。
見ろ、この戦利品を。これで全て解決だ。
「よし! 脱げ、恋次!」
「は…? テメエ、一護、何言ってやがる」
「なんだ、それは。包帯ではないか」
「これでグルグル巻きにして、恋次にはミイラ男になってもらう」
「は? それでは肌が見えぬ! 恋次ではなくなってしまうではないか! あの入墨だらけの筋肉がいいというマニアも多いのだぞ!」
「オマエなあ、ルキア…。そのセリフ聞いたら、白哉、卒倒するぞ。普段、どんだけ猫被ってんだテメエ…」
「とにかく却下だ! もっとこう、刺激的な…」
「落ち着けって。ルキア。いいか? 包帯で直にグルグル巻きだぞ?」
「だから見えぬのではないか!」
「そうじゃねえ。上から下まで包帯だけだぞ?」
「…包帯だけ?」
「そう。包帯だけだ」
ルキアの表情がぱぁーっと明るくなった。
「…そうか! それなら身体の線が出る!」
「そうだ。普段、死覇装の尸魂界のことだ。かなり刺激的なんじゃねえか?」
「流魂街ならともかく、確かに瀞霊廷の中でそんな格好をするものはおらぬ。ないすあいでぃあだ、一護!」
「だろ?」
俺とルキアは顔を見合わせて、次の瞬間、恋次に振り向いた。
「脱げ、恋次」
「脱ぐのだ、恋次」
「は…?!」
「あ、ルキア。テメーは外に出てろ」
「何故だ? 恋次の裸なぞ見慣れておるわ。今更、珍しくもない」
…んだとテメエ。
テメエら一体、どういう仲なんだ?!
じろりと恋次を睨んだら、眼を逸らされた。
テメエ、後で見てろよ? きっちり問い詰めてやる。
「…つかルキア。下まで全部脱いで包帯巻くんだぜ?」
「うぬ?」
「そうなったら恋次が緊張して、やりにくいだろ。だから出ててくれ」
「そうなのか?」
恋次がコクコクと激しく頷くのを見てさすがに諦めたのか、「ならば終わったら呼んでくれ。すぐに尸魂界に向かうから」と言い残して、ルキアは屋根に上った。
静かになった部屋の中で俺は、「さて」と拳を鳴らした。
何でルキアがテメエの裸なんか見慣れてるのかどうか、何から聞かせてもらおうか。
一歩近づくと、恋次がうっと呻きながら後ずさった。
「んだよ。さっさと脱げよ。包帯巻いてやっからよ」
「…なんかスゲー、身の危険、感じるんだが…」
「っせえッ! 脱げったら脱げ! じゃねえとルキアにまた脱がされるぞ、見られるぞ? それでいいのか、あァ?!」
「つかテメエのせいだろうがッ!! テメエがあんな跡、つけなきゃ、俺はふらんけんでよかったんだよッ!」
「んだとテメエ! テメエが散々、煽ってくるからだろうが、このエロ死神ッ」
「そりゃテメエだろ! 少しは抑えやがれッ」
「ああもう煩せェ、とにかく脱げッ」
「う…、うわぁぁぁッ」
その後、勢いあまって頭までグルグル巻きにしてしまったが、
ルキアを初め、女性死神協会の面々には何故か大好評だった。
すっげえ褒められもした。
だが俺は、緊張の連続で楽しむどころではなかった。
だって考えてもみろよ?
全裸の恋次に包帯を巻くなどという、かなり初体験な特殊プレイの後だった上に、そのミイラ男はノリノリで目の前をウロウロウロウロしてたんだ。
女共はきゃーきゃー煩せえし、男だっていつ、どこから包帯が解けるのか賭けてる連中までいる始末。
ったく堪ったもんじゃねえ。
けどキッチリ俺が護るって決めたから、側にいなきゃなんねえ。
おかげで無意識に目で追っては、慌てて逸らすというダメっぷり。
仏頂面のせいで本物のフランケンシュタインみたいと評判は良かったみたいだったが、そんな賞賛、嬉しくもなんともねえ!
んだよ、何で俺がこんな苦労しなきゃなんねえんだよ?
ああ、チクショウ。
この借りは恋次に返してもらうと尸魂界の空を見上げると、折りしも満月が煌めいている。
だけど滲んだ涙のせいで歪んで、カボチャにしか見えない。
やってらんねーよチクショウと呟くと、いつの間にか隣に来てたミイラ男が、よぉどうしたよシケたツラしてよ、と包帯の下からくぐもった笑い声を立てた。
その眼も髪も、いつもよりうんと扇情的で、俺はただ、なんでもねーよと眼を逸らすことしかできなかった。
(終わり)
あまりにも本誌ハロウィンカラーが衝撃的だったので、暴走の限りを尽くしてみました タイトルは某名作・狼男だよ、よりお借りしました。あー楽しかった!
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