認識の相違
「オイ、いい加減に起きろ、メシだぞ」
と蹴り飛ばされてやっと、眠りこけてたことに気がついた。
「う…」
───
ここはどこだっけ? 何で俺は寝てるんだ? 恋次の部屋に転がり込んだとこまでは覚えてるが、その後がはっきりしない。とにかく眩しくて、なかなか眼が開けられない。
「腹減ってんだろ。喰え」
ぶっきらぼうな言葉と共に、ゴトンと重めの音が降ってきた。
「んー…」
なんだかやたらと旨そうな匂いに誘われて体を起こし、指の隙間から覗くと、
座卓の上に、ほかほかと湯気を立てる大皿が二つ置いてあった。
「… あ、メシ!」
目が覚めた。
グウと腹が威勢よく鳴った。
「これ、恋次が作ったのか?」
「あ? ああ、まあな」
「へえ…、メシとか作れるのか」
─── かなり、意外。
「んだそりゃ。当たり前だろ、それぐらい」
「…偉そうに。つか、コレ、何」
「肉」
「あ、いや、そりゃあ見りゃ分かるけど、何の肉?」
「え…? 肉は肉だろ」
─── いや、そうじゃなくて。
「いや確かに肉は肉なんだけど、でもそういうことじゃねえっつーか、」
─── 牛とか豚とか鶏とかその他とか。つか俺、何か変なこと訊いたか? 特にこういう、米飯、焼いた肉塊、以上、みたいなメシだと、普通に知りたいだろ、そういうの。
だが俺の素朴な疑問は、既に肉を口いっぱいに頬張った臨戦態勢の恋次のカンに触ったらしい。
「ああ、もう、煩せェなあッ! 肉は肉に決まってんだろッ! うめぇ肉だ、奮発したんだ、とにかく食えッ」
箸を握り締めて、青筋立てて怒鳴りつけてきた。
なのに米粒ひとつ落としゃしねえ。
器用だよなあ。
俺は、呆気に取られて箸を取った。
いただきます、と手を合わせると、恋次は一瞬ぽかんとして、
「オウ。食え」
と、言った。
腹がいっぱいになって落ち着いたところでもう一回、さりげなく訊いてみた。
すると恋次は、肉屋でいちばん旨い肉と注文したと言った。
だから何の肉とか知らないって。
論外ってツラされて、へぇとしかコメントできない俺に、やっぱ高い肉はうめぇもんだなと、恋次は丸々と膨れた腹と、重そうな瞼を擦った。
きっと一護のメシは、遊子の細々とした解説付き。気を抜くと、ごちそうさまの時ももつい手を合わせちゃう男の子だと思います。
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