すずめのおやど びーえる版/むかし鰤ばなし

映画化というより一護さん・蛇尾丸騎乗記念。
なつかしのメロディー、♪坊やよい子だねんねしな♪ にのせてお送りします。
注)日本昔話に夢とか思い出とかある人は見ないでください。



むかーしむかし、あるところに黒崎さんと白崎さんという夫婦が住んでいました。 二人はいがみ合う一方で、全然上手くいっていませんでした。
問題は、どちらが家庭内覇権を取るか、という一点なのですが、 ふたりとも王様になりたいタイプだったので、全然妥協できなかったのです。

ある日、黒崎さんが山へ芝刈りへ行くと、赤いすずめの子が落ちていました。 怪我をしてて動けないようですが、ちゅんとも鳴かず、そっぽを向いたまま。 でもそのどこか意地っ張りな様子が黒崎さんにはとても可愛らしく思えました。 そこで黒崎さんは家庭不和で生まれた渇きを癒すためにも、 そのすずめの子をうちに連れて帰ったのでした。

黒崎さんはそのすずめの子に、恋次、と名前をつけて大事に大事に育てました。 苦労したせいか恋次さんはたいそうひねくれたすずめで、「あーん」とされても絶対口をあけません。 でも、見ない振りをしているとご飯粒をかっさらっていって隅っこで食べます。 食べ終わると嬉しそうにげっぷして、ちらっと黒崎さんのことを見ます。 そのヒネクレ具合が黒崎さんのツボを見事に突いていました。 また恋次さんも、若さの特権・押しの一手の黒崎さんにガッツリやられたようでした。 この際、テク無しなところも新鮮で、ツボだったようです。

そういうわけで、人間とすずめという種を超えた二人の愛は急速に高まっていきました。

さて、面白くないのが白崎さんです。
ぶっちゃけ黒崎さんのことはもうどうでもいいのですが、赤いすずめの子はとてもかわいらしいのです。 自分も欲しいのですが、絶対白崎さんからはご飯を食べようとはしません。 ご飯粒を見せても、「けっ」とすずめらしからぬ鳴き声を立てて恋次さんは近づいてもきません。 好物の鯛焼きまで自腹を切って買って見せびらかしたのですが、威嚇までしてきます。

すずめのくせに。

キレた白崎さんは、赤いすずめの子の舌をチョキンと切ってしまいました。 すずめの子は、泣きもせずに飛び去っていきました。

さて、今日も芝刈りから戻ってきた黒崎さんは、恋次さんを探しました。
「おーい、恋次ィ? どこいったんだー? メシだぞ、メシ?」
いつもならピューッと飛んできて、それでいて距離を取って視界の隅に留まる恋次さんの姿が見えません。 黒崎さんが気がつかないときの
「こっちだバカ、目ェついてんのか」
という揶揄った声も聞こえません。だんだん黒崎さんは不安になってきました。

「恋次? どこいったんだ?」

そこへ白崎さんがやってきました。
「アイツならもういねぇぜ? 俺が舌を切ってやったからな!」
いつものようにいやな笑い方をしました。 カキ氷でも食べ過ぎたのか、ブルーハワイカラーの舌が目に付きます。 ブッチリ切れた黒崎さんは白崎さんを殴り倒そうとしました。

「ヘッ。テメーみてーな下手糞に俺を倒せるかよ」

久々の派手な夫婦喧嘩です。 二人とも卍解したせいで、すっかりおうちは壊れてしまい、白崎さんは下敷きになってしまいました。

恋次さんのことが心配でならない黒崎さんは、恋次さんを拾ったあたりに行ってみました。
「おーい、恋次ィ! どこ行ったんだ、出てこいよ」
すると恋次さんが竹やぶの中からすっ飛んできて、黒崎さんに蹴りをかましました。 血だらけの恋次さんをみて、黒崎さんは悲しくなりました。
「悪かったよ。しっかりアイツを止められなかった俺のせいだ、ごめん」
「油断した俺のせいだ。テメーにゃ関係ねぇ。それにもう治してもらったから大丈夫だ」
そうやってぷいっとソッポを向く様子はいつもの恋次さんで、一護さんは少しほっとしました。
「そっか。それなら良かった。じゃ、さっさと帰ろうぜ」
でも恋次さんはいいました。
「・・・ワリィ。俺、もうこれ以上テメーといるわけにゃいかねぇ。俺とオマエじゃ住む世界が違うんだ」

いつかそんな時が来る。 黒崎さんは覚悟はしていたものの、突然の別れの言葉に頭を殴られたようでした。

「・・・なぁ。本当にダメなのか? 俺達、もうやりなおせねぇのか?」
「すまねぇ」
悲しそうに顔を背ける恋次の前に、一羽のつばめが立ちふさがりました。
「なんだてめぇは?」
「大層な口をきくな、小僧」
つばめは、小さいくせに妙に偉そうです。 頭の上の白いチクワも気になります。

「恋次が世話になったそうだな。貴様には褒美をくれてやろう」
「すまねぇ、一護。今までありがとうな」
そういって恋次さんは、大きさの違うつづらを三個出しました。
「どれでも好きなつづらを持って行くがいい」
つばめは顎をしゃくってつづらを指すと、去っていきました。 恋次さんは、何度も何度も振り返りながら、つばめの後をついていきました。

黒崎さんは、愛しい恋次さんとの永遠の別れにつづらどころではありません。 悲しくて、涙をこらえるので精一杯です。 と、そこへ、壊れた家から自力で這い出したらしい白崎さんがやってきました。

「なんだぁ? あのすずめ、もういなくなっちまったのか。てめぇは本当にヘタレだな」

そんな厳しい言葉にも反応できません。
「お?なんだこれ」
「返せ! 俺んだ!」
でも白崎さんは、一番大きいつづらを笑いながら持っていってしまいました。 黒崎さんは本当はつづらなんていらなかったのですが、 恋次さんとの思い出に、と手の平にのるような一番小さい箱を選びました。

「・・・恋次」

空を見上げると、恋次さんとの思い出が走馬灯のように駆け巡ります。
隅っこで警戒しながらご飯粒をつつく恋次さん。
がっつきすぎて鯛焼きを喉に詰まらせる恋次さん。
タンポポ頭の中に巣を作ってくつろぐ恋次さん。
悲しくってやり切れません。

「ちくしょうっ」

黒崎さんは思わず手の中にあったつづらを地面に投げつけました。

どっかーん!

つづら、大爆発です。
煙がもうもうと立ち上がりました。中で何かが蠢いています。 恐怖より先に好奇心が先にたった黒崎さんは、煙のほうに恐る恐る近づいていきました。 すると、

「いってーな、何しやがるんだテメー、こんのクソ一護っ!!」

巨大な赤鬼が出てきて、黒崎さんに回し蹴りを二連発かましました。 地面に顔から激突した黒崎さんが鼻血を押さえつつよーく見ると、赤鬼ではありません。 角のある場所にはハゲ、いえソリがあって、派手な入墨が入っていました。 その恐ろしげな赤い髪の大男は黒崎さんの襟元を掴んで締め上げ、こういいました。

「よう、一護。よく俺だってわかったな」

ちょっとだけ嬉しそうに笑い、視線を逸らします。 その偉そうな口調、覚えのある赤色、そしてツンデレ。

「も、もしかしててめー、恋次か?」
「おうよ! てめーが正しいつづらを選んでくれたおかげでこうして人間に戻れたって訳よ!」

人間ってーよりはほとんど鬼だよな、と思いながらもヘタレな黒崎さんは突っ込めません。 それになにより、あのちっちゃくてかわいい恋次さんの正体は、こんなに巨大な派手系入墨オトコだったのです。

ど、どうしよう。

でも恋次さんがあまりにも嬉しそうだし、すずめではできなかったあんなコトやこんなコトもできるし、 よく見るとキレイだし、なによりまた恋次さんと一緒に暮らせると思ったので、お持ち帰りすることにしました。

さて、一方の白崎さんは、ニヤニヤ笑いながら大きなつづらを開けるところでした。

どっかーん!

爆発した煙の中に何か蠢いています。 なんだ?と思いつつ近づいていった白崎さんの耳に聞こえたのは低く静かな声。

「散れ、千本桜」

煙の中から幾千にも煌く光の花びらが舞い散り、それが一団となって白崎さんを襲います。

「・・・おもしれえ!」

白崎さんも戦闘体勢に入りました。

丁度その頃、山を一緒に下る黒崎さんと恋次さんにもその巨大な霊圧の衝突が感じられました。 恋次さんがその方向を指差して呟きます。

「てめーが欲の張った人間じゃなくてよかったぜ、一護。もし一番大きいつづらを選んでたら、隊長が出てきててめーを斬るところだったんだ」

黒崎さんはぞっとしましたが、とりあえず恋次さんは手に入ったし、 つばめ隊長は白崎さんを足止めしててくれるし、なんだかとっても大団円だと思いました。

「ヤベェ、さっさと逃げようぜ」
「おお!」

そうして二人は、霊圧のカケラも感じられないところまで逃げに逃げて、幸せに暮らしましたとさ。

とってんからりのしゃん。

 



 
素朴な疑問。つばめにしゃくるような顎があるのか?

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