香
香といえば、妓楼の娼婦たちを思い出す。
夜に咲く花々の宴、色と香りの洪水を泳ぐ様は魚の群れ。
一夜限りの夢とばかりに薫り、砕け散る。
愛しいほどの儚さ。
が、彼の人が纏うのはただ久遠の香。
衣服の、髪の、爪の先まで焚き染められたその香は
何者をも寄せ付けぬ殻となり、彼の人を護り包む。
その香に反応するようになったのはいつ頃だったか。
気配よりも、香りで跡を辿れるようになった。
まるで恋のようだ、汚らわしい。
俺の存在に気がついているか?
あんたのあとをヒタヒタとつけ狙う追剥のような、
あるいは寝首をかこうとする夜盗のようなその存在を知っているか。
いつ頃だったろう、その残り香が俺にも染み付いてきたのは。
あんたには甘い薫りか。
俺には悔恨に似た苦味としか感じられない。
諦めの如き平穏で感情の表面を滑らかに支配するかと思えば、時に激しく掻き乱す。
未熟な俺はそれに対抗する術を持たない。
故にその香を俺は厭う。
心の底から。
2006.11.11 恋→白 11番隊時代
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