灯台守
沈黙は苦手だと思っていた。
あるはずの会話、立てるはずの音、凍結された動作。
欠如で構成される不完全さ、あるいは時の間隙が沈黙だと思っていた。
でも。
カサ、と紙同士が擦れ合う微かな音。
髪を梳き上げる様、呼吸、指の動き。
窓から差し込む光、流れ込む風と枯葉の匂い、喧騒の欠片。
何一つ、欠けてはいない。不足は無い。
でもそれは哀しいことだ。
誰もそこに入れない。手も触れられない。
干渉すると不足が生じる、不完全に堕ち、悲しみに満ちる。
だから俺は外に立つ。
灯台守のように、その光を乱すものが来ぬように。
ただそこに立ち尽くす。
2006.11.10
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