ツンデレラ 10
「う・・・・・、なんだ、こりゃ?」
大扉を開けた途端、恋次さんはあまりの喧しさに耳をふさぎました。
もうもうと立ち上る煙、霊圧で歪む景色、そして響く金属音。
そうです。
そこは格闘場なのでした。
「・・・舞踏会じゃねえのかよ?!」
そのために、ほんの一瞬とはいえルキアさんとダンスのステップの練習までしたのです。
ちみっこいルキアさんを相手に、女性パートを踊るのは骨がいりました。
でもルキアさんの手を握ることができた上、たわけ莫迦者と罵られて恋次さんはとても幸せだったのです。
あのひと時を無駄にしないために、と西瓜の馬車の中でズンチャッチャと高速ステップの練習までしたのです。
西瓜の床がグズグズに崩れてしまうのも構わぬほど。
それなのに目の前の会場では踊ってる人なんかいません。
先ほどの喧しい音楽は幻聴だったのでしょうか?
「どうなってんだよ、これ・・・!」
パンパカパーン!
お決まりのファンファーレが鳴り響きわたり、水を打ったように会場が静まり返りました。
霊圧のせいで妙に歪んだ空気の向こうの光景に、恋次さんは目を見張りました。
広い広い会場がびっちりと黒い死覇装に身を包んだ人々に埋め尽くされています。
なんか間違ったか?と恋次さんは凍り付いてしまいました。
「さあっ、新しい候補者の入場です。その名も、アバライレンジー!」
全く空気を読めてない甲高い声が、音楽と共に響き渡りました。
というかほとんど歌ではありません。なにやら呟きというかリピート系。
数々の伝説を残した某悪魔プロデュースの例のキャラソンというやつです。
アバライって誰だ知ってるか、いや知らねえ、誰だそれ、という囁きが会場を満たしました。
「188cm、78kg! 11番街所属、一般市民〜!」
アナウンスの声と共にスポットライトがピカピカと恋次さんを照らします。
おお〜!という声が沸き起こりました。
とりあえず名前を呼ばれたところをみると、会場間違いではなさそうです。
というか身長と体重も申告済みのようです。
スリーサイズももしかしたら知られているかもしれません。
しかもギラリとこちらを睨んでいる眼を見れば、それが余りいいことではないことは一目瞭然です。
もちろん恋次さんの人相も目つきの悪さもそれ相応です。
厳しい視線の応酬が稲妻のように会場を満たしました。
「派手な髪しやがって・・・」
「見かけが少しイイからってスカしやがって」
「気にくわねえ!」
「コイツからやっちまおうぜ!」
周囲の一団が刀を構えて、じりっと恋次さんににじり寄りました。
そういえば恋次さんは、小さい頃から目立っては苛められ、反発しては強くなりという無限ループを繰り返し、
そのサバイバルな環境をポジティブに生き抜くため、どMの素質を開花させたのでした。
またかよ、と恋次さんはちょっと暗い気持ちになりました。
その暗い目つきが虐めっ子の嗜虐心を煽るとも気づかないところを見ると、天然としかいいようがありません。
「君、何してるの? 早く刀を抜かないと!!」
すっかりターゲットとなった恋次さんの前に金髪頭が一人、立ちはだかりました。
「ほら、はやく!」
頭一つ小さいその人は、刀を抜くように恋次さんを促し、
「君、知らなかったの?勝ち残ったものだけが本選考に行けるんだよ!
だから可能性の高そうなヤツ、つまり僕や君みたいなのは纏めて袋叩きなんだよ」
と言って刀を握り返しました。
「可能性・・・?」
「お后候補の第一条件は、容姿がいい上に強いってことだよ」
気の弱そうな割に、言うことは自信満々です。
「テメーは?」
「僕は吉良イヅル。ちなみに書類審査は主席合格だから、そういう意味ではかなり優良株だね」
にやりとした吉良に恋次さんは白い目を向けました。
「・・・へぇ、そーかい。俺は阿散井恋次だ。まあよろしく」
「っと言っている間に!!」
いきなり周りの奴らが切りかかってきました。
恋次さんとイヅルさんも刀を抜いて応戦します。
「君、阿散井くんだっけ。結構やるじゃないか!」
「テメーもな!」
更木三姉妹に鍛えられていた恋次さんにとっては、周りの雑魚の動きは鈍すぎて動きが止まっているようです。
それにいつも孤独だった恋次さんにとって、久々の背中合わせでの闘いはなかなか楽しいものなのです。
仏頂面に笑顔らしきものが浮かんできました。
「オラオラオラァァァッ!」
恋次さんが調子に乗ってきました。
「こんなもんじゃねえぞっ? ソコのヤツ、かかって来いっ! 行けえっ蛇尾丸ッ!」
もうノリノリです。こうなったら止められません。
イヅルさんは、ちょっと呆れた目で恋次さんのことを見ました。
「君って・・・。あ、危ないっ」
すると、目前の敵に夢中になっている恋次さんの死角をついて、雑魚が数人で一斉に切りかかっていくところでした。
間に合わない!
イヅルさんは息をのみました。
カキーン!
「うああっ!」
雑魚を刀一本でなぎ払ったのは、細身の体に、ありえない感じのノースリーブの死覇装。
端正な顔には無駄に派手な刺青。
そして鋭い目つき。
「あの人は・・・!」
ゴシップに無駄に詳しいイヅルさんは叫びました。
「眉目秀麗かつ優秀な成績で、時代を席巻した伝説の人物。
けれど実はちょっとおちゃめさんでやたら人気が高かったこの人は・・・!」
「・・・誰?」
「知らないの? 檜佐木修兵でしょ!!!」
件の人物はじろっと恋次さんとイヅルさんを見ました。
その三白眼に浮かぶ冷たい光に、恋次さんは胸を貫かれたような気がしました。
軽いドタバタとギャグで連載を始め、
調子に乗ってきたらシリアス&格闘もの(勝ち抜き戦)に持ち込むという黄金の流れ。
でもさすがにシリアスと過去暴露話までは・・・。
ってなわけで、広がりすぎる妄想と総受け恋次さんの運命やいかに?! 続きは
>> ツンデレラ 11 へGO! (準備中)
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