希望の沸き上がる場所











―――痛い。

指のあいだの燃えるような感覚に彼は眉を顰めた。
トン、と音を立ててボールが足元を転がった。
泥に塗れた皮膚が破け、赤い花弁を形造る。


”もう、どれくらい投げたのだろう?”


記憶を返しても正確な数は思い出せず、思考はしんと静まり返る闇に消えてゆく。
いつも、ずっと昔から、その闇の中には誰かが住んでいた。

耳鳴りがする。見上げた空には静寂の星々だけ。
昼間は暖かかい春の空気に満ちていたが、夜は思ったより冷える。


”今日は、もう、上がろうか…”


考える間にも赤は道を作り、ぬるぬると彼の掌を汚していった。

痛い痛い痛い痛い―――!

傷口をぎゅうっと押さえ、祈るようなポーズでその場に蹲る。


”オレハ、ドウシテ、マダナゲルンダロウ?”


唐突に浮かんだ疑問に、闇の中の誰かはニヤニヤと顔を歪ませるだけで何も答えない。
孤独感に打ちひしがれ、俯いた彼の頬には涙が伝っていた。



いつも、誰も周りには居なかった。
ずっと、独りきりで戦い続けてきた。
だけど、寂しいと感じた事も無い。
努力し続けて居れば、いつか必ず誰かが見てくれると信じていたから。

―――けど、そのいつかはいつ来るの?
―――誰も見てくれなかったらどうするの?

闇は、彼に問いかける。

報われる努力など無いのだ、夢が叶う日など来ないのだ―――と。
そうして、また笑いながら影の中へ消えていく。


気配が完全に消え、本物の夜と入れ替わっても、耳障りな笑い声だけは残り続け彼を取り巻いていた。

彼はどこか思いつめた顔をしながらまだ顔を上げずにいたが、
先程までぽろぽろと零れ落ちていた涙だけは消えていた。


”―――君の、言うとおりなのかも知れない”

絶望でも自棄でも無く、彼はただ穏やかにそう思った。


”だけど、だけど、それでもいいんだ。
願いなんて叶わなくてもいい。
誰も認めてくれなくてもいい。
イチバンになりたいけど、一番じゃなくても構わない。

ただ、オレはたったひとつだけこのときに―――!”



そう強く思った時、彼は今一度ボールを掴んで立ち上がっていた。




そして、薄暗い、希望の見えない明日へ歩いていった。




2007.7.27 Sioux