喩え翼折れようとも飛び立つ気持ちは留まりを知らず








「オレ、ずっと独りで投げてきたんだ」

血に塗れた指をぼんやり見つめながら少年は言った。
覗き込んだ少年の表情はお世辞にも晴れているとは言えなかったが、
ずっと暗闇に居た筈の瞳の奥には燻るような煌きが仄見えた。

琥珀の網膜に映る道は遠く遥か。生まれて初めて彼は揺るぎ無い希望を見たような気がした。
自分の中で失いかけていたもの。まるで鏡を見るように再び出会ったものに。

「ずっと、ずっと投げてきた。たくさん、たくさん投げたんだ。いつか……」

その言葉の先は聞かずとも彼にはわかっていた。
一体この大きくも無い体のどこに止め処ない情熱が詰まっているのだろう。
彼は自分と似て非なる少年の手を握り締めて言った。

「わかるよ」

優しい熱を帯び始めた指。
嬉しさしか無い筈の場面に、彼はただ悲しくなり、涙を流す代わりに眩い空を見た。

「ずっと、おまえのタマを受けるからな」

”だって、オレは捕手だから”

そう言って彼はぎゅっと少年の手を握った。



少年はやがてゆっくりと微笑み、「うん」と頷くと擦り抜けるように離れ、道の向こうへ走っていった。

どこまで走って行くのだろう。白い後姿は、ただ眩しく、尊く、強く光に埋もれて、




―――見えなくなっていくのが怖くなり、彼は少年の後を追いかけて走り始めた。








今はただ、ただ、走って行けばいい。いつか力尽き、歩みが止まるその時まで。




2007.08.09.Sioux