花火










着なれない浴衣に手を通したのが間違いだったのだろうか。
飛燕に着付けてもらったとはいえ、下駄を履いて歩くことに慣れていなかった。
裾も思ったより開かず、歩幅が意図に反して制限される。
普段の半分くらいしか前に進めないのは腹立たしいことこの上ない。
これが他の連中との外出ならば今すぐ脱ぎ捨ててやるのだが、込み上げる怒りを抑えてまで着ているのには臣人なりの理由があった。

地元で催される花火大会。
おおよそそんなものには興味がないだろうと思っていた赤石が一緒に行くかと誘ってくれたのだ。
本当は即答したかったが、また何か言われるような感じがしたので敢えて返事は翌日へと持ち越した。
渋々行くのだとアピールしたものの、鋭い赤石には見抜かれていたような気がする。
だが赤石は特に何も言って来ず、無事に今日という日を迎えることが出来た。


始めは私服で行くつもりで用意していたのだが、事情を聞いた飛燕により浴衣へと様変わりさせられたのはつい先程だ。
支度に手間取り約束より十分近く遅れてしまった。
カラコロと鳴る足元が何だか不思議で気を取られながら走っていくと、先に来ていた赤石が見えた。
歩く速度を落とし、ゆっくりと近寄っていく。

「何だ、浴衣を着て来やがったのか」

開口一番にそう言われて、臣人はどんな顔をするべきか迷った。

「飛燕が花火を見るならこの格好をしろと言ったんだ。……似合わねえとでも言いたいんだろ」
「誰がそんなことを言った」

言わなくてもいずれ言われそうで怖い。
飛燕といた時は自分の浴衣姿を見た赤石が驚くかもしれないと楽しみにしていたのに、こうして本人を目の前にすると変に緊張してしまって上手く話せない。


「堅っ苦しい顔しやがって。似合ってんだからいいじゃねえか」
「似合……」

まさか赤石にそんなことを言われるなんて思いもしなかった。
目を丸くして驚く臣人を好ましそうに見つめ、赤石は先に立って歩き始める。
遅れてはいけないと臣人も急いで後に続くが、いかんせん私服と浴衣では勝手が違う。
徐々に背中が遠くなり、臣人は必死に追い縋る。

「待て、赤石」

二人と同じように会場へと向かう人の群れが、連れ立って歩こうとする臣人達を飲み込んだ。
赤石との距離は更に広がり、今やその後ろ姿さえ見つけられない。

「赤石、赤石」

道の端に一旦避難し、赤石を懸命に探す。
右を見ても左を見てもどこにもいない赤石。
ついさっき合流したというのにまた一人きりだ。
さすがにこんな人混みの中ではいくら臣人でもたった一人の人間を見つけることは困難に近い。


「くそ、どこに行ったんだ」

このままでは巡り会えることもなく花火が終わってしまう。
せっかく並んで見られると思っていたのに。

「……赤石」
「ここにいやがったのか」

後ろから呼ばれて素早く振り向くと、少し疲れた様子の赤石がそこにいた。

「急にいなくなりやがって。どれだけ探したと思ってやがる」
「浴衣のせいで歩きづらかったんだよ」
「ああ、そうだろうな。てめえが下駄だってことを忘れてた俺が悪い」
「何で俺の居場所が分かった」
「てめえのことなら何でも分かる。どこにいても見つけてやるから安心しろ」
「……馬鹿か」

堪えきれずに緩んだ口元。
大勢いる人間の中で赤石が自分を簡単に見つけてくれことがとてつもなく嬉しかった。


「行くぞ」
「お、おい」

臣人の手首を掴んだ赤石が颯爽と歩いていく。
今度はきちんと歩幅を考えてくれているようだ。

少しずつ高鳴ってくる胸の鼓動。

今夜の花火は忘れられない思い出になりそうだ。





                                    終わり





「雨花」の佐伯さまより戴きました!
なんの天変地異の前触れか、先輩がオミーを誘っちゃった赤伊達デート@花火大会ですv
折角誘われたのに、返事をわざと1日遅らせてみたり、おねーちゃん(ひーたん=飛燕)に勧められて、慣れない(まだ慣れないんですよ! 組長になれば普段着ですけどね、和装はvv)浴衣を着てみたり、着てみたら着てみたで裾や下駄に手こずったり、直球で褒められて吃驚したりと、初々しいオミーの姿にくま撃沈☆ でもそれよりなにより「オミーが先輩を」見つけるのではなく、「先輩がオミーを」見つけた先輩の、伊達サーチ能力の高さが心底嬉しかったです。このサーチ能力で、何時如何なる混戦に陥ろうとも伊達を見分けられるんじゃないかと思ったら、妄想でテーマパークの一つや二つ、建設できそうな勢いで萌えました!

佐伯様。可愛いくて温かいお話をありがとうございました。













で、あの。
最後の手を引くシーンが、あまりにも鮮明に脳内に再生されてしまったため、
ちみとに浴衣を作って再現してみました。
「行くぞ」
……ど、どうでしょうか(どきどき)。
手パーツの都合上、先輩は手首ではなく指をひっ掴んでますが、
その辺はご愛敬と言うことでご容赦下さいませ。
書くときにイメージされたものと近くなっていれば幸いですv


                                  <しろくま>




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