すないぱー













からんと、氷の入った青いソーダ水のグラスの表についた水滴を払うように風間は持ったグラスを揺らす。
ぽたぽたとテーブルの上に落ちた水滴の数は結構なモノで、案外冷房の効いた喫茶店の中も熱いもんだと、窓の外の灼熱の真昼へと顔を向けた。


「残暑も、案外厳しいな?」

「帰れや」

「さっき来たばかりじゃねぇか」

「ええから、さっさと消えええ!!」


どんと、風間の向かいに座る嶋野は、手に持っていたレモネードの入ったグラスをテーブルに音を立てて置いて、眉を寄せる。


「ちゅうよりなんで、われが此処に居るんや?」
「ん?随分細かい事に拘るんだな?」
「ちゃうわっ!」
「じゃ、なんだよ?」
「なんで、こないトコでわしの目の前に座っとるんか、聞いとるんや」


先ほどテーブルに置いたレモネードをもう一度持ち上げて、ストローを含むと音がしそうな勢いで嶋野は中身を飲み干す。
そんな、あからさま過ぎる苛立ちの仕草に、グラスの濡れた淵を指先で弄りながら風間がくくと笑う。


「…てめぇと、デートか?」
「沈めるで…」
「ん?東京湾か?大阪湾か?」
「われなんぞ、隅田川で十分やっ!」
「そりゃ風流だ。川の底から花火が見えるな」


くすりと風間が笑えば、最後の一口を飲み干した嶋野が一瞬怒りに目を剥いた後深く溜息をつく。

「なんや、ほんまわれと話とると疲れるわ…」
「そりゃ悪かったな」
「思うても無い事、言うな」
「思ってるかもしれねぇだろ?」
「んな訳あるかい」

はああと、溜息と一緒にグラスを置いた嶋野に、座る椅子の背に寄りかかるようにして風間は眇めた目を向けた。




「コレでも俺は、案外てめぇのことは考えてるぜ」



ぴんと、言って風間は自分のグラスの淵を指先で弾く。
澄んだ高い音が、店内の人の声と窓の外からの雑踏の中で奇妙な程高く響き、嶋野は小さく眉間に皺を寄せた。


「せやったら、さっさと帰れや」

「そういうてめぇも、帰った方が良いんじゃねぇのか?」


ちと、内心で舌打ちをして嶋野は目の前に座る風間の飄々としたその顔を見つめる。

本来であるなら、窓際の自分の座るこの席は表の通りが見渡せる絶好の場所なのだ。
なのに、目の前にこの男が座ってしまったばかりに、全く通りが見えない。見えるのは、相手の顔とその背後に少しだけ見え隠れする神室町の町並み。




本当に自分が見なくては成らないのは、こいつではないのに。




ちらりと店内を一瞥して、それから少しだけ見える町並みに目を向け、一つ呼吸をしてから嶋野は目の前で自分だけを見ている風間の顔へと目を向けた。



「…何処のどいつが、われに話したんや…」



ん?と一つ風間は笑って、溶けた氷で薄くなった青にちらりとだけ視線を流した。


「さぁ…誰だろう、な」
「とぼけるんは許さんで」
「ホントだぜ」
「ほなら、なんで此処に居るんや?」
「てめぇの姿が見えたからな」
「………手柄は、やらんで」

ばっと嶋野は手を伸ばすと、ずっと風間が指先で弄っていたグラスを掴み上げ、僅かに残った薄青い液体を一息に飲み干す。ついでとばかりに、氷も口に流しいれがりがりと噛み砕きながら、一瞬呆けたように自分を見る風間に、にやりと笑って見せた。


「今回のヤマは、わしに来た仕事や。われには、やらん」


あははと、吹き出すように風間は笑って、きいと音を立てて椅子の背に寄りかかった。


「…俺が、お前の先にたってやるよ」
「はぁぁぁ?」
「てめぇの為に、道開けてやる。着いて来い」
「冗談は寝てから言えや」
「嫌だね」


そうして、酷くゆっくりと不遜にも見える仕草で風間は足を組み、その上に肘をついて掌に載せた顔でくすりと笑う。





「てめぇは、俺を見てろ」






たまには、そう、お前が俺の気持ちを味わえばいい。

どうして自分が、この場所に居るか。
硝煙と血煙の中でも、先へと足を止める事をしないか。
全てが、お前の隣に並ぶ為だと自覚している自分の、欠片だけでも思い知れ。






「アホか、われ」






盛大な溜息と一緒に心底呆れたと嶋野は言って、持っていたグラスをテーブルの上の自分のグラスに並べてとんと置く。

かちんと鳴って、共に滴っていた水滴が合わさってテーブルに落ちる。
どちらのグラスから零れた水滴か分からない透明な広がりは、小さく揺れて他の水滴を含んで大きくなっていく。




こんなモノなのではないのだろうか。




強烈なライバル意識は当然持っている。
こいつに負けて成るものかと、それがある意味自分の原動力だ。
けれど、この相手が居るからこそ自分は走るのだと、分かっている。


東城会という巨大な組織を、飲み込めるほど大きくなるには悔しいけれどこの男の存在が自分には必要なのかもしれない。



自分に無いモノ。
この男にあるモノ。


それは、どちらかが相手の背中を見ていては得られないものだ。




「素直に、手伝う…言えや」

「……手伝ってやろうか?」

「突っ込むしか脳のない、馬鹿はいらんで」

「後先考えず突っ込むのは、てめぇだろ?」

「せやったら、そのわしの隣で突っ込むあほは、誰や?」




あははははと、緩い笑みのように風間は笑う。


「さぁ、何処のアホだ?」
「五月蝿いくらい、人の目の前で笑っとる、あほやろなぁ…」
「なんて名前だろうな?」


ちりと、風間が面白がるように目を細める。
それは何時ものように、風間が嶋野に選択を迫る時の仕草の一つだ。


選べと。


肯定なんてしないけれど、自分はお前の答えが欲しい。



ちと、短い舌打ちを一つして嶋野は風間のその視線に返すように目を合わせる。




「われ、や」


そうして、その短い言葉に風間は満足げに頷いて晴れやかに笑った。









                                    終わり





「惰眠」のそうのすけ様から嶋風戴きましたー!!

言葉の全てで以て、また行動の全てで以て、嶋「と」関わろうとする一途さと、そうやって意識しているのが、自分だけなんてそんなの許せねぇ許さねぇ、とばかりに嶋の言葉に絡んでいく不器用さが同居する風間さんの、そのアンバランスさにやられます。そしてまた、風間さんの無茶苦茶な言いがかりを斬って捨てることなく、苦手な言葉を繰り返して真意にちゃんと辿り着いた、嶋の優しさに萌えました。やっぱり格好いいです虎親父v(色々重症)。
にしてもホントまだまだ若いですよね、この二人。

意識しているからこそ、風間を意識から除こうとする嶋。
意識させたいからこそ、嶋の言葉に絡もうとする風間。

それが若さ故の意地の張り合いだとわかっていはいるものの、良い具合に割れ鍋綴じ蓋な気がしてしまうのは、くまが嶋風病の重篤患者だからでしょうね。駄目だもう。ホント喧嘩するほど仲の良い二人が大好きです。
そうのすけ様、素敵な嶋風をありがとうございました。
                                  <しろくま>

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