龍司「お疲れさんです。先に上がらしてもろてますわ」 桐生「龍司、お前……(何故此処に?)」 遥「わぁ、龍司さん、ホントに来てくれたんだ! ねえねえ龍司さん、このおっきい箱ってもしかして……」 龍司「あー、ちゃうちゃう。こらおっさんの分やのぅて、嬢ちゃんの分や」 桐生(……この二人の中では話が出来てるのか……?) 遥「え、本当!? 私にもあるの?」 龍司「ワシを誰と思とんねや。嬢ちゃんのご相伴忘れるようなアホちゃうわ。あっちゃ持ってって開けてみ。ほいでちぃと着て見したって?」 遥「わあ、ありがとう! 着てってことは……お洋服だね? 着替えてくる!!」 桐生「なあ龍司、お前も今日が何の日か知って……」 龍司「…るからこうして来とりますのや……て、ひょっとして桐生はん、今日が何の日か、まぁだ気づいてへん言わはりますか?」 桐生「…知らねぇ。というか、心当たりが全く無え。」 龍司「桐生はん、あんた……」
桐生「……龍司、遥が…!」 龍司「嬢ちゃんならよぉ出て来ぃひんわ。着替えるんにめっちゃ時間掛かりよるモンやさかい。 ……桐生はん、ほんま困ったお人や、あんた」 桐生「……?」
龍司「ええですか、今日っちゅう日は、あんたはんの誕生日や。 ……嬢ちゃん、えらいこと張り切ってましたで」
桐生「俺の、誕生…日……」 龍司「そうですわ。……40年前に、あんたはんちゅうでっかい龍が、この地に降りて来はった日ィですわ。……思い出しましたか?」 桐生「思い出した…というか、今日だったのか。…それより龍司、苦しいぞ」 龍司「自分の価値もなんも、よう解ってへんお人に怒られたかて、ちぃともおっかないことあらしまへん。……また何処ぞへすっ飛んでって、死にそな目ぇに遭われたらかなんさかい、こうして捕まえときますわ」 桐生「…(溜息)…何処にも行きやしねぇよ。……少なくとも今は、な」 龍司「……ホンマずるいお人やなぁ、桐生はんは」 桐生「そうだな、俺は……ずるい、な」 龍司「……ま、ええわ。今こうしてワシんとこ居ってくれるだけでええことにしときます。 あ。そろそろ嬢ちゃんも戻って来はるやろから、今のうちに渡しときますわ。 ……これ、ワシからあんたはんにプレゼントや。良かったら着てみて下さいや」 ![]() 遥「ねえおじさん、見て見て? 真っ白でふわふわだよ!」 龍司「ああ、ええなぁ。よぉ似合うとる。こらほんまもんのお姫さんも目ぇ回してまうくらい別嬪さんや」 桐生「ああ……凄いな」 遥「龍司さんありがとう、凄く嬉しい! ……おじさん?」 桐生「……」<単に吃驚してるだけ 龍司「桐生はん?」 桐生「…結構……いい見立てだな」 龍司「お褒めに与り光栄ですわ。……で、桐生はんの方はどないですか?」 桐生「何だ……その、誂えでもしたみてぇにぴったりだが」 龍司「したみたいやのぅて、誂えたんですわ」 桐生「誂えたってお前、何でわざわざ?」 遥「…! あ、おじさんおじさん!」 ![]() 桐生「ん? 何だ遥」 遥「ほら! 色が違うけど、龍司さんのと同じ。……お揃いだね?」 桐生「え、同じ? え……?」(←まだ気づいてない) ![]() 龍司「(吹き出しながら)ちょっ……桐生はん、まだ解らんとか言わんといて下さいや……頼むし」 桐生「同じって、同じか? ……龍司と、揃いって……え?」 遥「もー。おじさん鈍すぎ! 柄見てよぅ。 龍がいっぱいなの、ちょっとステキだよね。おじさんも良く似合ってると思うよ」 桐生「そう、か?」 遥「今日学校に着てきてくれたスーツもかっこ良かったけど、やっぱりこういう服の方が、おじさんはおじさん『らしい』って気がするかなぁ」 龍司「そらまぁ元極道さんやしなぁ」 遥「もー、龍司さんてば茶化しちゃダメー! あ、そうだ! 今日は遥、おじさんの誕生日用にかぼちゃのプリン作ったんだ」 桐生「プリン?」 遥「そう、おじさん甘い物苦手だからケーキじゃなくてプリンにしたの。あんまり甘くなってないと思うんだけど……」 龍司「嬢ちゃんが頑張ってこさえたプリン、きっちり呼ばれな罰当たるわ」 遥「龍司さんの分もちゃんとあるから、一緒に食べていってね?」 龍司「おおきに。ほいじゃ遠慮のぅ呼ばれよか」 ![]() 遥「はーい、これでーす」 龍司「おー。嬢ちゃん力作やなぁ」 桐生「……」<吃驚2号 遥「一人で作ったの初めてだから、ちょっと自信ないんだけど……」 龍司「初めてにしちゃ上出来なんちゃうか? 見た目は」 遥「龍司さん! もう、そんな事ばっかり言うんだからー!」 龍司「すまんなぁ、つい構いとうなるのや。さて、ほいじゃ改めて。 桐生はん、誕生日おめでとうさん」 遥「おめでとう、おじさん!」 桐生「あ、ああ……」 ―――喧噪と戦いとに明け暮れた長い年月。 こんなに温かく優しい日々が存在することさえ、忘れていた。 この安寧に身を浸して生きることが許されるような人間ではないけれど、もし幾度目かの戦いがあって、この地から遠く離れることになろうとも、今は、この場所があるから。 ここで待つ、人々が居るから。 何があろうと、何処へ行こうとも、戻って来ようと思える。 遥「おじさん? 全然食べてないみたいだけど……プリン、嫌い?」 桐生「い、いや。……少し、考えごとをしてて、な」 龍司「こんなに美味いプリン作ってもろて何の心配がありますのや。 そんなん後回しにしといて、今はこの時を楽しんだらええねや」 桐生「ありがとうな……二人とも」 遥「どういたしまして! 来年はおじさんも美味しいと思っちゃうようなケーキ作るからね!」 龍司「そやな、来年はワシと嬢ちゃんでもっと派手にお祝いしたろなぁ? パーッといこうや、パーッと。今年一回で終わるモンやないんやしな!」 例えこの一度きりで終わってしまったとしても、優しい今日の記憶が残るから。 何があっても、この暖かな記憶だけは決して忘れないよう、心に刻みつけて。 ―――2008年、6月17日が、静かに終わろうとしていた。 ご覧戴きましてありがとうございました!
撮影及び本文作成:ユカリ ネタ提供及び衣装作成:しろくま *一部Volksの衣装を使用しております |