ティータイム



ゆったりとした午後の時間、御剣はティータイムを楽しんでいた。
カップから昇る、優しい極上の香り…の筈だったが。
眉間にシワを寄せ、ガシャンと音を立てて、ソレをティーソーサーに戻す。

「オイオイ、お行儀が悪いぜ、ボウヤ?」

「……神乃木荘龍」

差し向かいで、肘をつきながら笑っている男を睨み付ける。

「そのコーヒーを何とかして貰えないだろうか」

「何故だい?」

「せっかくの紅茶の香りが、全く分からなくなるからだ!」

さっきから辺りに挽きたての豆の香りが充満している。ついでにテーブルの上には、神乃木が持ち歩いているのだろうか、豆を入れていた袋とミルまで置かれている。
そのきつい香りで、せっかくの春摘みの新茶の香りが飛んでしまっている。飲んでいても、コーヒーの香りしか分からない。

「オレはアンタに付き合ってるだけだぜ?」

…確かに誘ったのは御剣だ。
まあ、考えて見ればわざわざ誘わなくても、常時カップを手にしている男なのだが。
横でやたらガブ飲みされていると、不思議とつられてノドが乾いてくるもので、せっかくだと思い、手に入れたばかりの紅茶を入れてみたのだが。

こう香りがきついと、まるでコーヒーの香りの湯を飲んでいるような気分になってくる。
意地でも味わおうと、鼻をつまんでみるが、当たり前だがやはりそれでは味は分からない。

「何ならコーヒーをオゴってやろうか、ヒラヒラの検事サン?」

「……結構だ!!」

イライラとティーカップを眺めていると、ソレにふと影が差した。
見上げると、いつの間にか神乃木がすぐ側まで来ていた。

「何のツモリだ、神乃木…」

言い終える前に、神乃木に唇を塞がれた。
そのまま、喉の奥に苦い液体を流し込まれる。

「〜〜〜〜〜ッ!?」

御剣がそれを飲み込んだのを確認してから、神乃木は離れて行った。
御剣の顔を覗きこみ、ニヤッと笑ってみせる。

「どうだい、ボウヤ、極上のコーヒーの味は…?」

「……苦い」

言葉どおり苦みばしった表情で答え、その味を消すために、もう一度紅茶を口に含む。そして、改めてその眉間にシワを寄せた。

「……神乃木荘龍……」

もう一度カップをソーサーに叩きつけ、目の前で楽しそうに笑っている男を、盛大に睨みつける。

「コーヒーの味しか、しないではないかッ!!」

声を上げても、その男はただ笑うだけだ。
御剣はティーカップを取り上げると中身を全て口に含み、お返しとばかりに神乃木に口移しでソレを流し込んだ。

「!?」

完全に飲み下させてから、唇を離すと、神乃木も苦いような顔をしていた。

「クッ、オレはアメリカンは好みじゃねえぜ…?」

「奇遇だな、私もだ」

2人でしばらく苦い顔で顔を付き合わせていたが、不思議と笑ったのは同時だった。






END

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