長い夜 |
さて、想いのままに押し倒してはみたものの、成歩堂はフト困っていた。 「…」 「……」 「………」 「…オイ成歩堂、アンタこの後の事を何も考えてねえんじゃねえだろうな?」 「…え?…いやいやいやいや!考えてますよ、モチロン!」 仮面を外した神乃木には見えるわけもないのに、思わず誤魔化すように成歩堂は笑った。見えなくても雰囲気は分かるのか、神乃木は意地の悪いような笑みを浮かべる。 「クッ…まあ、好きなようにするがいいぜ。オレが5杯目のコーヒーを飲み終えちゃうまでにな」 そう言って、ベッドに体を投げ出したまま、手に持ったカップの香りを味わい、ゆっくりと煽り始める。 (うう…猶予があるのかないのか、まるで分からないぞ…) とりあえず勢いと情熱の命じるままに押し倒したはいいが、よくよく考えてみれば、どうすればいいのかが、分からない。多分、女性相手とは少し違う…気がする。 神乃木は何となく場慣れしてそうだが、動く気は全くなさそうだ。 (でも、適当にやって下手なコトをすると、何を言われるか…) と言うより、コーヒーの1杯や2杯は確実にぶっ掛けられるだろう。もしかしたらサーバーごと、来るかも知れない。 法廷でもないのに、いきなり追い詰められている。 だが、今更後には引けない。元より、引く気もないのだが。 (…こうなったら、行けるトコロまで行くまでだ!!) 「…ハッタリは法廷だけにしておくコト、だぜ。成歩堂」 「ううう………」 この状況でも萎えない自分に多少驚きながら、それでも止める気にもならない。 目の前の浅黒い肌を撫でる。あれだけ、ホットばかり飲んでいるワリに、神乃木の体温は低い。 このヒトをアツくしたい、そう思う。 …だが。 「………あの、神乃木さん…その…このまま入れたら、やっぱり痛いですよね」 「ああ、痛ェんじゃねえか」 神乃木はコーヒーを煽ったまま、まるで他人事のような顔をしている。 (た、他人事みたいに言わないでくださいよ……) だらだらと冷や汗を流しつつも、仕方がないので、いったんベッドから離れて、洗面所へ行く。 せめてローションか、その代わりになる物がいるだろう。 チューブから中身を手にとって、神乃木に手を伸ばすと、急に触れた冷たい感触に神乃木はたじろいだようだった。 「オイ…、何だ、ソイツは…?」 「ぼくのスタイリングジェルです」 「……アンタ、オレのケツをトガらせる気かい?」 「い、いやいやいや、別にトガりませんから!!」 暗がりの中、手探りでぬるぬるとした感触を伸ばすようにして、尻の辺りを撫で回す。 谷間に指を滑らせて、目的の場所を押すと、埋まるような感覚があった。 「……クッ!」 ジェルのせいか、思ったよりも簡単に入ってしまい、慌てて引き抜く。 「す、スミマセン!…痛かったですか?」 「……成歩堂、アンタ、猫舌な方かい?」 「……へ?ええ、まあ少し…」 「…コーヒーってのは、熱いウチが一番ウマいのさ。火傷を恐れて飲むのをためらってちゃあ…ウマい瞬間を逃しちゃうぜ?」 そう言って成歩堂の手を掴むと、もう一度、自分の後ろに持って行く。 恐る恐るといった風に、ゆっくりとソコに触れて力を込めると、ぐっと入っていった。 痛むんじゃないかと、神乃木のカオを覗きこんでみるが、神乃木はふてぶてしく笑っているだけだ。 (もしかして…ピンチなのか?神乃木さん…) 円を描くようにして、できるだけほぐしながら埋め込んでいく。神乃木は時折クッと呻くものの、依然いつもの調子でニヤリと笑ったままだ。いや、さっきよりもふてぶてしく笑っている。 (こんな時くらい…素直になって欲しいんだけどな……) あれほど体温が低いと思っていた神乃木の内部は、意外に思えるほど、熱かった。指を根元まで埋めて、細かく動かす成歩堂の手を、神乃木が再び掴んだ。 「神乃木さん…?」 成歩堂の手を掴んで固定し、もう1方の自分の手もソコに伸ばす。そして、何を思ったか、自分の指もソコに入れはじめた。 「ええええええええッ!?」 「…うるせえぜ、成歩堂」 「なっ、ナニしてるんですか、神乃木さん!!」 「オレはセッカチでな。時にはコーヒーを点てる時間が待ちきれなくなる時もあるのさ」 (ま、前に言ってたコトと、ムジュンしてるぞ…) なるべく傷つけないようにと、せっかくゆっくり進めてたのに、神乃木は大胆にやっている。内部でぶつかる神乃木の指が、とんでもないトコロに行ってる気がする。 「か、神乃木さん…その、そういうコトは、ぼくがやりますから…」 「オレは好きにやらせてもらうさ。だから、アンタも……、クッ!?」 神乃木は突然、言葉を詰まらせて、大きく身じろぎした。 「…!」 成歩堂が試しに先程探っていた場所を念入りに触ってみるが、それは割と平気らしい。 (と、言うコトは…) 「神乃木さん、その指、どけてください」 「…お断りだぜ」 「神乃木さん、さっきぼくの好きにしていいって言いましたよね?…好きにさせてもらいますよ」 「クッ…」 もし今、神乃木がいつもの仮面を付けていたら、きっと煙を吹いてるだろう。 (外してもらってて良かった…、シーツが焦げちゃいそうだしな…) 神乃木はふーっと息をつくと、またいつものようにふてぶてしく笑った。 「…まあ、いいさ…」 抵抗されるかと思ったが、案外あっさりと指を抜いてくれた。 かわりに成歩堂が指を増やし、神乃木が探っていたあたりを探す。と、神乃木の体が僅かに跳ねた。 「…ッ!」 (見つけた…!) 普段あまり隙を見せてくれない神乃木から、いつもの笑みが消えて、苦い顔をしている。こういう神乃木の姿は、かなり珍しい。 「どうですか…神乃木さん?」 「クッ…コーヒーの味ってのは決して見た目や他人の言葉だけじゃ分からねえモンさ。せいぜい分かるのは濃さ、香り、その程度の事に過ぎねえ。本当に味を知りたければ、てめえで味わって見るコト、だぜ」 「……」 (…まだヨユウあるみたいだな…神乃木さん…) 神乃木は短い呼吸を繰り返しながらも、体を起こす。そうして、成歩堂の体を手探りで引き寄せた。 「…?」 しばらく何かを探すように成歩堂の体を探り、腰に手を回すと、いきなり成歩堂のモノをわし掴みにした。 「ぎゃああああああ!?」 「…イチイチ騒がしいボウヤ、だぜ」 (アナタもイチイチ、唐突なんですよ!!) 神乃木は、成歩堂の指の動きに負けないくらい、手を動かして刺激してくる。慣れたいつもの自分の手とは違う動きに、成歩堂の息も自然に上がってくる。 「か、神乃木さん…アナタ、通信簿に『負けず嫌いの傾向があります』って書かれてたでしょう?」 「クッ…、オレが書かれてたのは、『授業中にコーヒーを飲まないようにしましょう』、だぜ」 (小学生の時から、飲んでたのかよ!!) そうして、ふたりでお互いに負けるまいと、追い上げるように、ほとんどムキになって手を動かしていたが、やがて成歩堂が根を上げた。 「神乃木さん…ッ!このままだと…」 「何だい?」 「その……入れる前に終わってしまいそうなんですが…」 「いいんじゃねえか。若いウチには、よくあるコトだぜ?」 「…よくありませんよ!!」 神乃木から指を引き抜く。その感触にひるんだ神乃木の手を、自分のモノから引き剥がし、両肩を掴んでベッドに引き倒した。 「ぼくが終わる時は、神乃木さんの中、です」 そう言って、軽くキスを落とす。顔を離すと、神乃木は見えてはいないだろうが、成歩堂の目を寸分たがわず、見つめ返すように見上げていた。 「…バカなルールは作るモンじゃねえぜ」 (アナタに言われたくありませんよ!!) だが、そう言いながら笑う顔は、いつものニヤニヤ笑いではなく、苦笑しているようだった。成歩堂の頭に手を伸ばし、トンガリ頭を確かめるように撫でる。 「コーヒーの闇にミルクを落とす時間には、まだまだ早過ぎるぜ?夜ってヤツは、アンタが考えてるよりも、案外長いモンなんだ。…焦るコトは、ねえさ」 「でも…ぼくはもう限界なんです」 そう言う成歩堂の声は、確かに張りつめたような熱い響きだった。神乃木は頭を撫でていた手を移動させ、背中を宥めるようにポンポンと軽く叩く。 「いいさ…付き合ってやるぜ」 神乃木に横向きになってもらい、片足を肩に担いで位置を合わせる。 ふと、いつもの芳ばしい香りが漂ってきて、嫌な予感と共に神乃木を見ると、肘をついて、やはりいつの間にやら、コーヒーカップを手にしていた。 (…………いいケド) こんな時くらい、コーヒーのコトは忘れて欲しいとも思うが、いっそコーヒーごと彼を抱くのも悪くはないのかも知れない。 そうして、彼にあてがい、ゆっくりと押した。僅かに沈む感触と共に、神乃木が呻く。 「クッ……成歩堂。焦らねえコトだぜ。コーヒーを点てる時は、できるだけ湯を細くして注ぐ、そうすることでコーヒーの味は深まる。分かるかい?ゆっくり、じっくりといきな。そう…イイ子だぜ」 神乃木の呼吸に合わせるように、進めては戻し、そして、より深くしていく。 全て収めた時、神乃木の背はじわりと汗ばんでいた。カップを持つ指が白くなるほど、強く握り締めている。 「神乃木さん…大丈夫ですか?」 「……ああ」 少し落ち着くのを待とうと、成歩堂は神乃木の背中を撫でる。 その間に神乃木は荒くなっていた呼吸を整えると、手を伸ばし成歩堂の肩を掴んだ。そして、自分から動き始めた。 (……焦るなって言ったクセに…) 成歩堂も動き出すと、神乃木は時折、声を上げ始めたが、そのほとんどを押さえ込んでしまっていて、相変わらずクッくらいしか言ってくれない。どうやら、それ以外の声を聞かせてくれる気は、ないらしい。 それでも、繋がってから、神乃木は一滴もコーヒーを口にしていない。これほど揺らされながらも、並々と注がれた中身を全くこぼしていないのは流石だが。 ただ、カップを両手でしっかりと握り締めているだけだ。 「神乃木さん…すがるなら、カップじゃなくて、ぼくにすがってくださいよ」 成歩堂が言うと、神乃木はようやく自分からカップを離し、サイドテーブルに置いた。 だが、成歩堂にしがみつくでもなく、シーツを掴むでもなく、両手を握りしめて、シーツの上で固く拳を作った。 (……ホント、素直じゃないな……) 成歩堂は、神乃木の拳の上に手を重ね、ぎゅっと包みこむ。 そうして、一層激しく神乃木の中を突き上げる。 叩きこむように彼に何度も腰を打ち付けて、終わらせる瞬間、神乃木の名を呼ぶと、握っていた手をほどき、神乃木もまた成歩堂の手を握り返してくる。 内を逆流していく感触に呻いて、そして神乃木も達した。 疲れきって成歩堂がベッドの上に突っ伏していると、いつもの香りが漂ってきた。 いつもの、神乃木のコーヒーの香りだ。 顔を上げると、点て直したのか、カップをふたつ持って神乃木が戻ってきていた。もう仮面を付けていて、いつもの彼に戻ってしまっている。 「ほらよ、…オゴってやるぜ」 鼻先に突き付けられたソレを受け取りながら、ベッドに座る。できれば、冷たい物が欲しいところだったが。 「…ベッドでは5杯しか飲まないんじゃなかったんですか?」 数えてはいないが、明らかに5杯以上飲んでいる。 すると、神乃木は例の調子でクッと笑った。 「……オイオイ、今夜は寝かせねえんじゃ、なかったのかい?」 「…………え?」 「熱い夜を過ごすには、カフェインほど頼りになる相棒はいないぜ?特に、アレくらいでヘバっちまってるボウヤにはな。言ったろ?夜ってヤツは、案外、長いんだぜ?」 「…………」 ボーゼンとしている成歩堂をよそに、隣に腰掛けた神乃木はコーヒーの香りを楽しんでいる。 成歩堂はニッと笑ってカップを置き、その神乃木の腰に手を回し、顎に手をかけた。そうして顔を近づけたところで、ゴンとおでこにカップをぶつけられた。 「いで!」 「おっと、ソイツはナシ、だぜ」 (さ、誘ってると思うじゃないか……) 「誰かさんが動きまくってくれたせいで、ケツが痛ェんでな。…もう、付き合う気はねえぜ」 「…じゃあ、なんです?」 「さあな…、楽しませてくれるのは、アンタじゃねえのかい?」 「……漫談でもしましょうか?」 「できるのかい、アンタ?」 「い、いえ………」 (ううう…、早くコーヒーの闇にミルクを落とす時間に、ならないかなあ……) その日、成歩堂は夜の長さってヤツを、ひしひしと感じる羽目になった。 END |
てなワケで、ヌルいけど今度こそエロです。 神乃木さんは、全然やる気がないか、ものすごくやる気があるかの両極端なヒトだと思います。 あ、スーパーハードジェルをローション替わりにして、ホントに平気かは知りませんので、決してやってみないで下さい。 |