姫だっこ



「神乃木さん…、ちょっとだっこしても構いませんか?」

成歩堂の言葉に、神乃木はいきなり飲んでいたコーヒーを吹いた。

「オイオイ…ジョーダンはそのトガッた頭だけにしておく事だぜ、成歩堂」

口元をぬぐいながら、ほとんど空になってしまったカップを成歩堂に突き付ける。

「その…一応ホンキなんですけど」

「お断りだぜ」

立ち上がり、サーバーから新しくコーヒーを注ぎ直す神乃木は取り付く島もない。

「覚えておきな、成歩堂。男は簡単にヒトにモノを預けたりはしねえのさ。オレにはまだ足が付いてる。てめえで出来る事はてめえでやる……オレのルールだぜ」

「神乃木さん…」

ひどく残念そうな声を出す成歩堂をよそに、神乃木は新しいコーヒーを一口煽る。
が、カップを放し、ひとつ息をつくと、ふいに神乃木は成歩堂に向き直った。
そうして何を思ったか、屈むと成歩堂の体をいきなり横抱きに担ぎ上げた。

「うわ!?」

「クッ!」

両手で確かめるように担ぎ直し、クルリと一周回ってみせると、そのまま成歩堂を降ろす。

「…これで満足かい、ボウヤ?」

「い、いやいやいや、そうじゃなくて、ぼくが抱き上げたいんですよ!!」

「コレで良しとしときな。オレはアンタに落っことされたかねえ」

そう言って、再びコーヒーを煽り始める。

(……何か、カンゼンに出来ないと思われてるな……)

こうなったらと、成歩堂も神乃木の脇と足に手を回し、ムリヤリ抱き上げようとした。…が。

(お、重いッ!!!)

ふんばって耐え、何とか落っことしはしなかったものの、そのまま神乃木を座らせるだけにとどまった。
神乃木はコーヒーの香りを愛でつつ首を振り、持っていたカップを成歩堂の頭の上に置いた。

「気は済んだかい、ボウヤ」

(ううう……何かクヤしいな……)

しかし、このまま諦めるのも納得がいかない。
ここはひとつ、何としてでも担ぎ上げておきたい。
それならばと、次は神乃木の股の前と後ろから手を回し、腕を組んでそのまま持ち上げる。
先程より比較的簡単に持ち上がるが、少し浮いたところで、神乃木にカップで殴られた。

「いたた!」

「成歩堂……、ソイツは横抱きとは言えねえぜ」

「い、いやでも、これなら少し持ち上がりそうですし…」

「やめときな」

そう言うと、尚も持ち上げようとする成歩堂の体を、両足ではさんで押さえつけた。
押さえられると、もう流石に持ち上げられない。仕方なく神乃木を降ろす。と、神乃木が急になにやら苦い顔をした。

「…………」

「…………!」

そこでフト気付いた。

(……これは…もしかしたら、モノスゴイ体勢な気がする…!)

神乃木の足の間に成歩堂の体が割って入っていて、オマケに成歩堂の両手の上に神乃木が座っている。
神乃木が足を離して立ちあがろうとする前に、指を動かして刺激してみる。
すると、腰を浮かしかけていた神乃木がバランスを一瞬失い、成歩堂の肩を掴んだ。

「クッ…成歩堂…、オイタが過ぎるんじゃねえかい?」

だが更に刺激を強くしていき、指を突き付けると、神乃木の体が沈み、肩を掴んでいた手は背中に回った。

「…神乃木さん」

「やれやれ……油断できねえ弁護士サン、だぜ」

乱れた息を整えながら、神乃木はニヤリと笑った。
成歩堂はニッコリと笑うと、片手を腰に回し、宥めるように撫でた。

「…ベッドに行きますか?」

「ああ…いいさ。……だが、抱きかかえて連れて行くのはナシ、だぜ?」






END





アホで申し訳ない。





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