裁判所の女神サマ |
「何か、いいニオイがするッス」 不意にそんな事を言われた。 最近、いろんな人物からソレをよく言われる。だがソレは御剣が付けているフレグランスの事ではないのは、よく分かっている。 大抵、その後にこう続けられるからだ。 「検事…コーヒー飲んだッスか?」 御剣が海外に発つ以前に検事局で使っていた部屋に入った時、まず一番に気付いたのは香りだった。 部屋中にコーヒーの香りがする。もちろん、点ててはいない。部屋に香りが染み付いている。 見回すと、覚えのない器具が色々と置かれている。 コーヒーメーカーから、ミルから、ドリッパーから。ホイップクリーマーまで置いてあった。 もちろん、御剣のモノではない。 御剣の留守の間、この部屋を使っていた男が置いていったものだ。 今は自身の犯した罪のために留置所にいる男…神乃木荘龍だ。 経歴はともあれ、検事としては全くのシロートだった筈のあの男が、何故この上級検事室を使っていたのかは御剣にも理解できなかったが、神乃木は元々長居するツモリもなかったようで、部屋の中の物は資料やチェス盤の駒に至るまで、ほとんどいじられていなかった。 本棚の本の並びすら変わっていないような気がする。まあ、これは本をギュウギュウに詰めていった刑事のおかげで引き出せなかったのかも知れないが。ちなみに御剣にも未だに引き出すことができない。 ただ、神乃木は部屋にほぼ何も手を加えなかったが、代わりにコーヒーを点てる道具一式分と、大量のコーヒーカップと、そしてそれ相応のコーヒーの香りを残していった。 裁判中に17杯ものコーヒーを飲むと言い切っていたその男は、裁判以外ではどれほどのコーヒーを飲んでいたのかは知らないが、この部屋は眩暈がするほどに、コーヒーの香りがする。 糸鋸刑事などは、時々この部屋の香りをあてに、ゴハンを食べに来ていたらしい。見かねた神乃木が、よくコーヒーをオゴっていたらしいので、本当はソレが目当てだったのかも知れないが。 どちらにしろ、コーヒーをオカズに白米を食べられる神経は、御剣にはよく分からない。 もしかしたら糸鋸刑事だけではなく、神乃木もやりかねないが。 部屋中に残されている彼のブレンドの香りは、御剣の服にも自然と染み付くようで、最近では会う人物ごとにソレを指摘される。 おかげで、最近、御剣はすっかりコーヒー好きだと思われているらしく、ドコに行ってもコーヒーを出される。 この間など、立派なコーヒーギフトを贈られてしまった。 (…私は、紅茶党なのだがな…) コーヒーもまあ飲めないワケではないが、あまり好まない。最近はブラックでも飲めるようになったが、昔は砂糖とミルクなしに飲めずによくからかわれた。……あの男に。 「…甘いのもいいさ、本当の味を見逃さなけりゃあ、な」 そう言って笑っていた顔を、今でもハッキリ思い出せる。 まだ、仮面を付けていなかった頃の、彼を。 神乃木弁護士に初めて会ったのは、御剣の胸にも苦い傷を残した初法廷の時だった。 あの時、御剣が相手をした綾里弁護士は、今でも法廷に立てずにいるらしい。 御剣の傷も決して浅いものではなかったが、ソレに潰されることは周囲が許さなかった。無敗を誇る狩魔豪の弟子であり、最年少で検事になったコトもあり、期待されていたのだから。 あの件以来、神乃木も法廷に立つことはなくなっていた。 何やら調べ回っているらしく、時折、裁判所やその周辺で会うこともあったが。 「よォ、ハデな天才検事サン」 いきなり声を掛けられて、御剣は顔をしかめた。 「何だ、また甘いコーヒーかい、ボウヤ?」 言いながら、御剣の向かいの席に、断るコトもなく勝手に座る。 ココは裁判所の側にあるカフェだ。考えてみれば、この男が来る可能性は充分にあったのだが、よりによってあまり見られたくない時に現れてくれたモノだ。 「…何を飲もうと私の勝手だろう」 「…天才ボウヤは甘いモノがお好き、かい?」 ちょうど砂糖を入れようとしていた時だった。まだスプーン1杯分しか入れていないが、正面でこの男にニヤニヤと見られていては、それ以上入れる気にもなれず、シュガーポットを閉じた。 飲んでみると、いつもよりも苦い。 (大体、喫茶店だと言うのに、何故この男は、コーヒーを持参してきているのだ!!) 神乃木はアキラカに店のモノではないマグカップを手にしている。ついでにまだ湯気の立ち昇るその中身を煽っている。 しかし、神乃木はモチロン、店の者もソレをあまり気にしていないようで、普通に注文を取りに来たウエイトレスに、神乃木も普通に注文をしている。 注文は言うまでもないが、コーヒーだ。わざわざ持参してきているのにも関わらず、尚もコーヒーだ。 それどころか、注文ついでにウエイトレスに何やら耳打ちをし、顔を赤らめさせている。 顔を赤くしたまま小走りに去っていくウエイトレスを御剣は怪訝に見送り、神乃木に向き直った。 「…アナタは一体、何を言ったのだ」 「甘ったるいボウヤが知るには早過ぎるコト、さ」 (…いつかこの男は、セクハラで訴えられるに違いない) そうなった時は、是非傍聴してやりたいと御剣は思った。 しかし、御剣の見解は神乃木が言うように甘かったようで、その考えは数分後に撤回せざるを得なくなった。 テーブルの上に、コーヒーの他に、注文していない筈のスコーンまで並べられていたからだ。 オマケにソレを置いたウエイトレスは、熱っぽい視線で、裏に何やら書かれた紙のコースターを神乃木の手に握らせていった。 「……何故だ……」 「この店はサービスがいい店なのさ」 釈然としない顔の御剣に、神乃木はコースターをヒラヒラと振りつつウインクしてみせ、ついでにスコーンを薦めてきた。 薦められるままに食べると、その甘さで苦く感じていたコーヒーが一層苦くなったようで、御剣は眉間にシワを寄せた。 「オイオイ…若いウチから、そんなにしかめっ面ばかりしてると、クセになっちゃうぜ?」 そう言う神乃木にも、眉間にクセになったようなシワがあるのだが。 「…アナタもだろう」 「クッ、違ェねえ」 何のストレスもなさそうに見える神乃木に、そんなクセがついているのは意外だった。 御剣の師匠…この業界で名を聞けば誰もが震え出すと言われている狩魔豪との法廷でも、この男は不敵に笑っていたらしい。 それどころか、あの狩魔豪に向かってカップを投げつけた男として、一目置かれている。 聞けば、カップを投げられた狩魔豪は例の指を弾く動きで、カップも弾き、反れたカップは裁判官にぶち当たったと言う噂だ。当たり所が悪かった裁判官は倒れ、裁判は一時中断になったとか、延期になったとか…。 その裁判の記録は何故か見つけられず、真偽を確かめるコトは出来なかったが、ウソかマコトか、それ以来この2人が法廷で出くわさないように配慮されていると聞く。 その話には、すでにありとあらゆる尾ヒレが付けられていて、聞くたびに話は変わるが、とりあえず神乃木と法廷で争った検事はほとんどカップをくらわされているらしい。 一度、御剣も裁判所で、アウチ検事がリーゼントにコーヒーカップをひっかけた状態で歩いているのを見かけたコトがある。 (いずれ、この男と戦う時は、着替えを用意しておいた方が良さそうだ…) 御剣自身はまだ、神乃木の法廷を見たコトはない。 この男について、聞こえてくるのはほとんどコーヒー関連の噂ばかりだが、おそらくソレだけではないだろう。 あの綾里千尋を補佐していた男なのだから。 (いずれ、相まみえるコトもあるだろう) そう思うと、自然に笑みが浮かぶのが分かった。 フト、目の前でコーヒーを煽っていた神乃木が、いつの間にかこちらをまっすぐ見ているのに気付いた。 「なッ、何なのだ、一体…」 「いいカオだ、ボウヤ」 「…」 「ソイツは、…プロのカオだ」 カップを置き、神乃木は唇の端を不敵に吊り上げた。 「…なァ、フリフリの検事サン」 「……フリフリはいくらなんでも、やめて貰おうか」 「ビラビラのボウヤ」 (余計、悪くなっているではないか!!) 三白眼で睨み付けるが、目の前の男は肩をすくめるだけで、やはり気にした様子もない。 「アナタは、人の名前をマトモに呼べないのか?」 「クッ、ヒラヒラの無敗ジイサンにも同じコトを言われたぜ?」 「狩魔豪…か」 仮にも狩魔豪のコトをそんな風に言う者はいない。誰もが畏怖する対象の検事を。 …この目の前の男は、よりによって本人に向かって言ったようだが。 「…アナタは、狩魔豪との裁判で、何をしたのだ?」 ソレには答えず、神乃木はただ笑った。 「ボウヤの20倍はからかい甲斐のあるジイサン、だったぜ?」 口角を上げて楽しそうにしている神乃木を見ていると、頭が痛むような気がした。 会うたびに、よく分からない言葉で喋りかけてくるこの男は、あの無敗の検事にも同じ調子で接しているのだろうか。 真相は、知らないでいる方がいいのかも知れない。 (……このオトコには、チョッカイを出さないという選択肢はないのだろうか…) 狩魔豪の額に血管が浮かぶ様子がありありと浮かび、御剣はこめかみを押さえた。想像するだに頭が痛い。キリキリとした痛みを指の腹で押さえつけていると、神乃木が不意に言った。 「なァ、ボウヤ……オレがどうしてコーヒーを飲むか…アンタに分かるかい?」 「……」 それはどちらかと言うと、御剣の方が神乃木に問いただしたいコトだ。この男はいつ会ってもコーヒーを飲んでいる所にしか遭遇しない。いや、実際この男は飲んでいない時間の方が少ないのだろう。 「……アナタがカフェイン中毒だからだろう」 「クッ、ちっとは夢のある答えは言えねえかい、ボウヤ」 「…私は検事だからな。検事が見るのは夢などではない」 「ハデなボウヤは現実主義者、かい?」 (…ハデはこの際、関係ないだろう!) それに御剣ほどではないとは言え、何かと目立つこのホスト風の男から、あまりハデ呼ばわりされたくない。 苦い顔でコーヒーを飲み、カップをソーサーに置くと、神乃木がその中に砂糖を1杯分落としてきた。 あまりに自然な動作だったので一瞬分からなかったが、勝手に人のカップをスプーンでクルクルとかき回す神乃木に、御剣はフト我に返り驚いた。 「…なッ、何をしている!神乃木荘龍!」 「さっきからボウヤがあんまりニガいツラしてるんでな」 ソレは何もコーヒーのせいだけではない。半分はアナタのせいだろう、と思う。いや、元々この男のせいで砂糖を入れられなかったのだから、この際全部この男のせいと言っていい気がする。 だがカップを上げもう一度口を付けると、少し苦かったコーヒーはいつもの舌に馴染んだ甘い優しい味に変わっていた。 随分と飲みやすくなったソレに、不本意ながらもホッとする。 少しずつしか飲んでいなかったコーヒーがにわかに減りはじめるのを見て、神乃木が笑う。それに気付いて、御剣は再び眉間にシワを寄せた。 「…甘いのもいいさ、本当の味を見逃さなけりゃあ、な」 そう言って神乃木は自分のカップを弾いた。涼やかな音を立てて、まだホンの少しだけ残っていた、何も足されていない黒いコーヒーが揺れる。 「苦味ってヤツは確かに慣れなきゃあ味わいにくいモンさ。甘くするのもいいだろうぜ、時にはフレーバーやクリームで飾ってみるのもいいさ。だが、元の味がマズければソイツは決して美味くはならねえ。マズいまま、だぜ?」 「……」 (…相変わらず、分かりにくいが…) 何かを隠したように聞こえる。その目もからかうような色を含んではいたが、まっすぐにコチラに向けられている。 「…ならば神乃木荘龍、飾られていないアナタの言葉を聞きたいものだな」 神乃木はカップを取り上げ、黒いソレを全て飲み干した。 「クッ……オレはこれでも照れ屋サンなんでな。ソイツはできねえさ」 「…その喋り方の方が、余程恥ずかしいと思うのだが」 御剣の言葉には答えず、神乃木は続けた。 「……カップの中身ってヤツは、いつだってニガくて黒い闇の中、さ。いくら甘く口辺りよく変わっていようと…ソイツは変わらねえんだ」 「……何が言いたいのだ、アナタは」 神乃木はただ、ニヤニヤと笑うだけだ。 「お飾りじゃあ、根っこにあるモノまでは変えられやしねえってコト、さ」 「………」 「まァ、覚えておきな……派手なボウヤ。アンタなら、いずれ本物のコーヒーが飲めるようになるだろうぜ」 御剣が再び口を開く前に、神乃木は腰を上げた。 そうしてウエイトレスが置いていったコースターを丁寧に折りたたみ、尻ポケットに仕舞う。 「…神乃木荘龍」 立ち去ろうとする背に名を呼ぶと、神乃木は御剣を振り返った。 「アナタとはいずれ、法廷で会うコトになるだろう」 「…かもな」 「狩魔は、どんな犯罪だろうが完璧に立証する」 御剣の言葉に神乃木はかぶりを振ると、肩をすくめた。 「……ソイツは、カップの中身次第、だぜ」 言うと、神乃木は向き直り、御剣に向かって軽く手を広げ、不敵に笑った。 「オレはしばらくナンバーワン弁護士を辞める気はねえ。ボウヤも期待の天才検事サン、なんだろ?…だったら、手さえ抜かなきゃあ、いつだってビジンの女神サマは極上の笑みをプレゼントしてくれるさ」 「…それは、勝利の女神というワケか」 挑むような御剣の目線を受け止めて、神乃木は一層笑みを深めた。 「いいや、もっとイイ女だぜ。…裁判所のオレ達のマドンナは、な」 (カップの中身次第…か) ウインクをひとつ残し、神乃木は立ち去っていった。 ひとり残された御剣は、テーブルの上のカップを眺めた。 手元のまだ中身の残っているすっかり冷めてしまった自分のコーヒーを。そして向かいの席のキレイに飲み干され、真っ白な底を覗かせている神乃木のコーヒーカップを。そして、その隣のこれまたキレイに飲み干された神乃木が持ち込んだ大振りのマグカップを。 「………」 フト気付いた。…テーブルの上のカップがヒトツ多い。 (何故、あの男はコレを持ち帰らんのだ!!) 頭を抱えている御剣をよそに、ウエイトレスは気にした様子もなく、神乃木のコーヒーカップと彼が持ち込んだマグカップを下げていった。 その後も、神乃木とは幾度もカフェで会う事があった。 その度に訳の分からない言葉で楽しげに話す弁護士は、店に勝手にマグカップを増やしていき、店の者もいい加減諦めたのか、神乃木にはマグカップでコーヒーを出すようになった。 そうして神乃木が店のウエイトレスを一通り口説き終え、どのウエイトレスからも頼んでいない筈のサービスの品を受けるようになり、マグカップの数が店のカップの数を凌駕する量になった頃、……例の事件が起きた。 どこにいても目立っていた男は新聞を派手に飾り立て、代わりに法廷にも裁判所にも姿を現す事はなくなった。 頼まなくてもどんどんマグカップを増やしていく男はいなくなり、それを使う者もいなくなり、結局店に残された彼のカップは全て処分されたと聞いた。 もはや、コーヒーを飲んでいても、断りもせず勝手に相席をしてくる者もいない。コーヒーに入れる砂糖の量でからかわれる事もない。たとえブラックを飲めるようになっても、それに気付く者もいない。 やがて、御剣もそのカフェに足を運ぶ事はなくなり、気付いた時にはその店もいつの間にかなくなっていた。 それから時は流れ、思いもかけず御剣は過去の中に消えた筈の男と再び出会った。 親友のムチャな頼みにより弁護士として関わった事件…、立場上本来の担当検事と顔を合わすわけにもいかず、姿を見たのは2日目の法廷が始まった、傍聴席上からだった。 名を変え、顔を隠し、いつの間にか肩書きを弁護士から検事に変えた彼が法廷に立つ姿を、御剣は目を疑う想いで見つめた。 傍聴席に座った御剣は、男と言葉を交わす事はなかったが、目の前で真実と言う形で彼の過去と罪が暴かれていくのを見守った。 法廷の後、彼は慌しく連行されていき、声をかけるヒマもなかった。ただ、彼が連行された後、小さな異変を見つけた。 思いも寄らなかった結末にまだ雑然としている中、御剣は裁判所内に飾られている女神像の台座に、中身をたたえた口の付けられていないカップが置かれているのに気づいた。 正義と秩序を司る女神テミスをかたどった、罪を計る為の天秤と悪を断つ為の剣を持った像に、捧げるようにそれは残されていた。 無論すぐに片付けられたが、それでも、カップを見るたびに思い出す。 立ち昇る湯気の中にくゆる女神像を。そして6年という長い歳月の中で、ゆっくりと忘れられていった男を。 もう2度と忘れる事などないだろうが。 資料を探し、棚を開けた時、中の白い光に気付き、思わず手を止めた。 (……またか) 御剣はそれを手に取り、ため息をつく。 見覚えのある、白い、コーヒーカップだ。 否が応にも、あの男を思い出す。このカップと同じ髪の色をした、それを置いていったであろう男を。 あの男が去った後に上級検事室に残されていたコーヒーの香りは、日を追うごとに薄れていき、今では、もうあまり分からない。日に日に淡くなっていく部屋の香りに、ご飯とお箸を持った糸鋸刑事が寂しそうに肩を落としている光景を時折見かける。 神乃木が残した道具一式はまだこの部屋に置かれているが、流石に大量に残されていたコーヒーカップは処分した。 案外、カップの引き取り手に困る事はなく、成歩堂も事務所で使う為に幾つか持って帰っていった。糸鋸刑事の家ではソーメンを食べるのに重宝されているらしい。また、吐麗美庵で毎日のようにカップを割るウエイトレスの穴埋めにも大いに役立っているそうだ。 ただ、部屋にカップは2つだけ残しておいた。自分の分と、そして、いずれ罪を償い出てくる男の為に。 再会したあの日、言葉を交わすこともなく別れたが、彼とは話しておきたいコトがある。 かつて、何度も何度もからかってきた男に、自分がブラックを飲めるようになった事を、教えてやる為に。彼の言っていた、本物のコーヒーを知った事を見せてやる為に。 それに、あの男には、いつかチャンとカップを片付ける事を覚えさせなければいけない。放っておくと、ドコにでもカップを置いていく。 現に御剣の部屋からは、処分した筈のカップが思わぬところから出てくるコトが、今でも多々ある。何度処分をしても処分をしても、まだ自己主張をするかのように。 新たに見つけ、また増えてしまったカップをため息と共にデスクに置く。 …また糸鋸刑事に渡さなければならない。刑事はいつもこちらが驚くほど嬉しそうに受け取るが、いい加減、こう何度も何度も押し付けるワケにもいかないだろう。一度キチンと大掃除でもした方がいいだろうか。 (全く…残しておくカップは、2つだけでは不服か?神乃木荘龍) あの男がカップを渡すべき相手には、おそらくもう行き渡っている。一緒にコーヒーを飲む相手には、不自由しないだろう。 (…あとは、キサマだけだ) その為にコーヒーを立てる道具一式も残しておいた。出所すれば、どうせまた揃えようとするハズだ。それぐらいの手間は省いてやってもいいだろう。 この間貰ったコーヒーギフトも、何なら押し付けてやってもいい。 (だから、せいぜいチャンと罪を償ってくるのだな) いつかまた、女神サマに微笑んでもらう為に。 END |
テミス像というのはギリシャ神話の天秤と剣を持った正義の女神で、最高裁判所に飾られています。 弁護士バッチの天秤もテミスが由来だそうです。 逆転裁判の司法制度だと、最高裁判所自体がもうなさそうなので、ドコにでも飾ってあるんだと思ってください。 |