懐かない犬 |
俺があの変態の元にいたのは、きっちり2年間だった。 その間、奴は俺に殺しの手解きを1から丁寧に叩き込んで、育てて、そうしてある日あっさりと殺した。 あの日、あの薄汚い路地裏で、俺の死体と共に無駄に捨てられるはずだったその技術は、結局今でも俺の中に染み付いていて、もう抜ける事はない。ふとした瞬間に何度もそれを自覚して、そのたびに俺は胸糞悪い気分になる。 結局、俺は奴が教えた事を、今でも忘れられずにいる。 奴は俺に幾つかの事を教えた。 だが、たった一つ、一番肝心な事を教えそこねたらしい。 「いいか、ダニーボーイ。貴様に始めに教えておいてやろう…決して油断をするな」 「ああ?」 訝しげに見返すと、奴が手を閃かせるのが見えた。 咄嗟に動いた次の瞬間には、ぴったりと俺の額に奴のリボルバーを突き付けられていた。 取り出したばかりの俺のナイフは奴の急所にはほど遠くて、ろくに役に立ちそうにもなかった。何とか腕を傷つけてやるくらいはできそうだが、ささやかな嫌がらせにしかなりそうにない。 腹立たしいが、奴は指をほんの少し動かすだけで、確実に俺を殺れるだろう。 「悪くはない反応だ」 俺が動けずにいると、声と共に、銃口で額をこんこんと叩かれる。痛ぇ。 見ると、奴は馬鹿にしたように笑っていて、俺はますます機嫌が悪くなった。 そうして奴は銃を突きつけたまま、もう一方の手で、俺からナイフを取り上げる。 「だが、ナイフは向いていないようだ。今度、銃を一丁、貴様にやろう。何なら失くさないようにグリップに彫刻でも入れてやろうか」 何が失くさないようにだ! 糞ジジイは一人で何やら喋っている。言いたい事は色々あったが、奴の銃口は揺らぐこともなく、俺はそれを黙って聞いていた。 「名前も付けておいた方がいいだろう。…そうだな、私にちなんでハンサムデビルはどうだ?」 最悪だ! 何の冗談か知らないが、寝ぼけるなら俺のいない所でやれ! 苦々しく睨み付けていると、銃口を逸らされた。 そのまま、くいっと顎を振ってみせ、背を向ける。着いて来いと言っているらしい。 歩き始める自称何とかデビルとやらの背中に向けて、俺はせっかくなので足を振り上げた。その真っ白い服に足型のひとつでもプレゼントしてやりたくなったからだ。 が、勢いを付けた足が当たる前に視界が反転し、衝撃と共に俺は床に転がされていた。 息が詰まりそうになりながら目を開くと、ちょうど靴の底が迫っているところで、そのまま胸の辺りを踏みしめられて、俺はもう一度息を詰まらせる。 見下ろした奴は、相変わらず小馬鹿にしたように笑っていて、ついでに高そうな革靴で体のあちこちを丁寧に踏みつけていく。おかげで俺の一張羅は足型の模様だらけになった。 「…油断するなと言っただろう、ボーイ?」 「してねえよ!」 奴が俺に始めに教えた事は、その後も、何度も何度も体で覚えさせられた。 奴は隙あらば俺に銃口を向けた。話の最中だろうが、奴の仕事につき合わされている最中だろうが、関係なく照準を合わせられた。 そのうち寝てる最中だろうが、シャワーを浴びてる最中だろうが、果ては便所に入っている時にまで、ドア越しに弾丸をばら撒かれるようになった。 確かに俺は油断どころか、気の休まる暇もない。 奴に貰った銃はすぐにでも捨ててやろうと思ったが、そうはいかなかった。 所構わず仕掛けてくる攻撃から身を守るには、どうしてもそれが必要だったからだ。武器らしきものは用意する端から次々取り上げられ、俺にはその銃しか与えられなかった。 俺は、仕方なくその妙な彫刻が入った銃を肌身離さず持ち歩いた。四六時中握る羽目になったそれは、すぐに俺の手に馴染み始めた。 触れるだけで、触れた箇所を判断して瞬時に握れるようになった。手の中の重みで残り弾数を量れる様になった。充填の速度も自覚できるほどに上がった。 ある日ふとそれに気付いて、やたらと腹が立った。結局、俺は奴に貰ったこいつを頼りにしている。奴の思い通りにさせられている感覚が、無性にカンに障る。 いいだろう。なら、いつか、これであのジジイの額に穴を空けてやる。 いつしか、俺はそれを楽しみにするようになった。 テーブルの向かいで、奴はのんびりと食事をしていた。 奴は俺を必ず食事につき合せたが、もちろん味なんかさっぱり分からなかった。俺は奴の挙動を探るので忙しかったからだ。 殺気立ちながら不味い飯をやけくそ気味に噛み千切る俺を、奴は時にたしなめたが、知った事じゃなかった。 こんな名前も知らない料理なんざ、どうでもいい。 俺は、奴を見なければいけない。このジジイを。 とにかく、仕掛けられるばかりなのが、気に入らなかった。 食事をそっちのけで睨み続ける俺に、奴はため息を付いた。 「全く…お前は食事を楽しむと言う事を知らんようだな」 ああ、てめえの服にソースでも引っ掛けてやったら、きっと楽しいだろうぜ。その真っ白い服に、このソースはさぞかし映えるだろう。 何なら、今からプレゼントしてやろうか?ああ? 奴はかぶりを振ると、ナイフを置き、グラスに手を伸ばした。そのごく自然な動作の中で、奴は動いた。 奴の手元に反射する光が見え、咄嗟に皿ごとひっくり返してやったクロスに、ナイフが3本も刺さってきた。 そのまま銃を構えると、奴は何事もなかったように、グラスを煽っている。 俺を見もしない。思わず舌打ちが漏れた。その高そうなグラスでも叩き割ってやったら、少しは気が晴れるだろうか。 「まあ、悪くはない。だがな…少しは後ろにも気を払え」 途端、頭に水が降りかかる。 振り返ると、奴の使用人がすました顔で俺の頭にワインを注いでいた。睨みつけると、そいつは丁寧に一礼してから下がっていった。 「貴様には分からんだろうが、それはいい酒でな…。少しは頭が冷えたか?」 ようやくこちらに顔を向けた奴は、俺を馬鹿にしたように笑っている。 むしゃくしゃした気分で腕で顔を拭うと、芳香がやけに鼻についた。確かに高い酒らしい。きつい匂いが最悪だ。 ワインで着ていた白いシャツが、すっかり薄いピンクに染まっていた。 いい匂いに可愛いピンクだぜ。どうだい、あんたの大好きな少女趣味だ、この変態野郎。 濡れたまま面白くもない気分で腰掛け直すと、奴は俺に声をかけた。 「敵は一人とは限らんと言うことだ、よく覚えておけ。…それからもう一つ教えておいてやろう、……食事にも気を払う事だ」 「……!」 奴は飯によりによって下剤を仕込んでいたらしい。 その後、奴は俺の入ったトイレに、ご丁寧に手榴弾を投げ込んでいった。 破壊されたトイレの修理には、3日かかった。 …その間の事は、思い出したくもない。 クラシックが流れている。 奴は何が楽しいのか、暇さえあれば毎晩でもそれを聞いている。 そんなものをリムジンの中でも部屋の中でも聞かされて、俺はうんざりしていた。こんな退屈な曲を寝ないで聞いていられる奴は頭がイカれてるとしか思えない。 それどころか、時折俺に曲の薀蓄すら語って聞かせようとした。 死んだ奴の話なんざ、どうでもいい。俺はそいつを右から左に聞き流し、その間ただただこの目の前のよく喋る野郎の顔面に蹴りを入れてやる事ばかり考えていた。 ふいに奴が俺を呼んだ。 「ダニーボーイ」 俺はその呼ばれ方が嫌いだ。俺は返事をしなかった。 「ダニー」 その呼ばれ方も嫌いだ。むしろ奴が嫌いだ。俺は返事をしなかった。 「ハンサムデビル」 おかしなあだ名をつけるな!! それはこのムカつく銃の名前じゃなかったのか。ついでにてめえの自称じゃなかったか? 返事の代わりに睨み付けると、奴がおかしなことを口走った。 「貴様にダンスを教えてやろうか?」 「ああ?」 腕を引かれて無理矢理立たされた。音を立てて、俺はそれを振り払う。 「寝言が言いたいなら、そこに寝転がってから言いな。何なら手伝って欲しいか?あ?」 奴に銃を突きつけるが、握った腕ごと掴まれた。そのままひねり上げられ、たまらず手の中から銃がこぼれ落ちた。 落ちた銃に奴は足を乗せ、そうして小馬鹿にしたように笑った。 「ダンスに銃は無粋だ。そうは思わんか?」 銃を蹴られ、遠く壁際までそれは床を滑っていった。 咄嗟に追おうとした俺を、腰に手を回し、止める。腕は奴に掴まれたままだ。ふと自分が取らされている体勢に気付き、舌打ちする。 「踊りたきゃ、てめえの大好きなガキ共でも相手にしてりゃいいだろ」 「彼女達は、ダンスの相手には小さすぎる」 「5、6年待てば、ちょうど良くなるだろうぜ」 「それでは、彼女達のせっかくの魅力が台無しだ」 このロリコン野郎が! 「てめえ男と踊って、何か楽しいか?」 「無論、楽しくはない。だが、貴様が踊るかと思うと、想像するだけでも愉快だ」 殺すぞ、ジジイ。 このジジイに勝手な想像をされていると思うと、俺はますます不機嫌になる。 とりあえず蹴りでも食らわせてやろうと振り上げた足は、奴にあっさりと避けられ、空を切った。 ならその高そうな靴でも踏んでやろうとするが、それもひょいひょいと器用に避けられ、気付くと俺達は部屋をクルクルと回っていた。 「全く…想像以上にひどいステップだな」 「誰がてめえとダンスがしたいなんて言った!」 もう一度踏んでやろうとした足も避けられ、逆に思いきり踏みつけられる。 「いいか、相手の足を踏むのは失礼にあたる。こんな風にな」 そう言って俺の足をぐりぐりと念入りに踏みつけて、奴は小馬鹿にしたように笑った。 「また、決してパートナーを蹴ってもいけない。無論、失礼にあたるからだ」 言うが早いか、蹴りが飛んできた。組み合ったままで避ける事もできず、いいのをまともに食らう。腕を取られたまま、思わず腰を折りかけるが、ぐっと伸ばされ無理矢理体勢を整わされる。 「そうだ、背筋もちゃんと伸ばせ。分かるか?」 「…野郎」 それから俺は、とにかくステップとやらを踏み続けた。奴に振り上げる足はことごとく外され、俺が空振りした以上に食らわされる。おかげで俺の下半身と靴は、奴の足型だらけだ。 それなら壁にでもぶつけてやろうとターンしてやるが、逆に壁に叩きつけられる。 あちこちぶつけ、部屋中を目茶苦茶にして回りながら、俺達は踊り続けた。 「おいジジイ!曲はとっくに終わってるぞ!」 「分かっているなら、まず貴様が大人しくすることだ」 「てめえが止まれば、俺も止まってやるよ」 「まだ服を汚されたくはないんでな」 結局、立ってもいられなくなるほど蹴り飛ばされ叩きつけられ、俺が床に転がされて、ダンスは終わった。 俺のスーツは足型やら擦った後やらで、ボロボロになっていた。ついでに肩の縫い目から派手に破れていた。 糞ジジイ、人の一張羅を何だと思ってやがる。 腹立たしかったが、もう起き上がる元気もなくて、そのまま転がっていると、向こうの方で奴が銃を構えるのが見えた。 慌てて跳ね起きると、さっきまで俺が寝ていたあたりに、銃撃音と共に穴が開いた。 見ると、奴は俺をたしなめるような顔をしている。 「そんな所で寝ていると、風邪を引くぞ?ダニーボーイ」 掴みかかってやりたかったが、流石にもう体中が悲鳴を上げていて、俺はせいぜい睨み付ける事しかできなかった。 そんな俺を相変わらずの馬鹿にしたような顔で見て、そうして奴はドアの向こうに消えていった。 俺は舌打ちすると、もう一度床に転がった。部屋に戻るのも億劫だったし、何より奴の忠告をそのまま聞くのが癪だったからだ。 この部屋の床は、やけに寝心地が悪かった。 次の日、俺は風邪を引いた。 2年なんて、あっという間だった。 そうして、終りはあっけなく訪れた。 暑苦しい夜だった。 おまけにこの薄汚い路地裏には外灯もなくて、真っ暗だった。 先ほどまで銃声が派手に鳴り響いていたが、今は静かなもので、野良犬一匹通らない。 もたれた壁はパイプが剥きだしで、背中に当たって邪魔だったが、もう動けそうにもなかった。 右腕に2発、右足に1発、左に…。 数えてみたが、途中で面倒になって止めた。まあ、ようするに俺は派手に穴だらけだ。 おかしいじゃないか。こんなに風通しがよくなったってのに、ちっとも涼しくなりやしない。体中汗だくだった。 ついでに座ったケツの下も湿っていて、気持ちが悪い。最近は雨も降らなかったから、多分、これは俺の血だろうが。 ふいに足音が近付いてきて、見ると目の前に奴が立っていた。 ずっと姿を見せなかったが、俺が反撃もできなくなったのを確認して、出てきたらしい。 俺の手にはまだ銃があったが、確かにもう引き金も引けそうにない。それどころか、ずっと捨ててやろうと思っていたこれを、捨てる事すらできないだろう。俺はこいつを握ったまま、死ぬことになりそうだった。 いつも俺の額に正確に照準を合わせてきた割には、実際に撃つ時は、ずいぶんあちこちバラまいてくれるじゃないか。 てめえなら、一撃だったんだろう?俺をじわじわ殺していくのは楽しかったか? 舌打ちしながら目の前に立つ奴を見上げるが、暗いせいで、ろくに顔も見えなかった。 「…見えねえよ。睨み甲斐がねえだろうが。もっとこっちに来い」 影に向けて言ってやると、驚いたことに奴は本当に屈んできた。 てっきりまた俺を小馬鹿にした顔でもしているかと思ったが、奴は笑ってもいなかった。 俺の顔を覗き込むように、睨みつけてくる。冗談じゃない、睨んでやりたいのは俺の方だ。 しばらく睨み合っていると、やがて奴は口を開いた。 「…貴様は私を裏切ったのか?」 「ああ?」 「答えろ」 凄んでみせる奴に、俺はずいぶんと間の抜けた顔をしたかも知れない。 そんなもん、さんざん穴だらけにした後で聞くなよ。どのみち俺は死ぬじゃねえか。 妙におかしくなって、俺は笑った。笑いながら言った。 「はっ!知らねえよ、てめえで好きに考えな」 そんなもの、どうだっていい。 ……理由なんて、どうでも良かったんだろ? てめえはいつだって俺を殺す気で狙ってきてた。いつだって殺気は本物だった。 弾が飛び出さなかったのは、いつでも簡単に殺せたからだ。 …馬鹿にしやがって。 俺はこいつの手の中にいたに過ぎなかった。それがいつも気に入らなかった。 ほら、あんたがいつも狙ってた場所がまだ綺麗なままだぜ。残してないで、ちゃんと撃ち抜いてくれよ。なあ、さっさとしないと、俺が先にくたばっちまうじゃねえか。 むかむかと急に胃からこみ上げる感触がして、俺は血の塊を吐きながら、むせた。 いよいよ、もう終りらしい。 せめて、最後までこの気に障る野郎を睨んでいないと気が済まない。 無理矢理咳を止めて、荒れた息の中で顔を上げると、奴は今まで見た事のないような顔をしていた。 …何だよ、その面は。 いつもみたいに、小馬鹿にしてろよ。楽しいんだろ?ああ?なあ、笑ってみせろよ。 俺は動きもしない手足に苛ついた。 何だよ、この役に立たない体は!これじゃあ、その横っ面を張り倒してやることも、蹴り飛ばしてやることもできない。このずっと気に入らなかった銃を奴に投げ返してやることもできない。 苛つきながら思い切り上半身を振ると、何とか体が動いた。せめて噛み付いてでもやろうかと思ったが、もう口すら俺はこいつに届かなかった。 ただ、頭が当たって、目の前の奴にもたれかかる事ができただけだった。 もたれて目を開くと、奴の例の真っ白な服が見えて、それが俺からばたばた落ちる血で縞模様にどす黒く染まっていくのが見えた。 ふと、口元が緩むのが分かった。 「…はっ、てめえのこの服、もう使い物になりそうにねえな」 「…こんなもの、代わりなら、いくらでもある」 「…ああ、…だろうよ」 そんな事は分かっていた。 またむせてきて、せっかくなので俺は奴の服に思いきり血を吐き出してやった。 何とか顔を上げると、目が合った奴は流石に嫌そうな顔をしていて、俺はそれで少し気が晴れたような気がした。 結局…、俺にできるのは、こんなささやかな嫌がらせだけだ。 もう、それだけでよかった。 そんなことで、よかった。 …俺は。 どうだい、俺のプレゼントは。 ざまあみろ、一張羅が台無しだぜ。あんたも…俺も。 俺は、笑った。笑う元気もそう残ってなかったが、それでも声を出して笑った。ろくに声も出なくて、景気の悪い音が出ただけだったが、それでも笑った。 そうやって、俺は死んだ。 男の胸の中で死ぬ羽目になったということに気付いたのは、それから随分と後になってからだった。 あれから、どれくらいの時が経ったか、俺はよく覚えていない。 死んだのは一体いつだったか、今は一体いつだったか。 この、同盟とやらは、時間の感覚をなくさせる。 生きていた時は、ろくに安眠した記憶もなかったが、この状態になってから俺は、よく眠っている。夢も見ないで、ただ眠り続ける。どうやら年単位で眠っていることもあるらしい。 目覚めるのは、殺しの仕事の時だけだ。 血と殺しの匂いに起こされて、暴れてこいと外に出される。 監視カメラに見られ、ガルシアンから俺に代わる。そうして降り立った場所は、見慣れた奴の邸宅だった。 手に持たされていた写真の中には、すっかり老けた奴が映っている。俺は、今回のターゲットであろう奴の写真を握りつぶした。 あれから何年経ったかは分からないが、ようやく自分の人目をはばかる変態趣味でも自覚したのか、奴はプールの底なんぞに部屋を作っていた。 神経質に隠されたその中は、イカれた男の為の空間だ。 そこで、老人になった奴は、人形に変えられた少女達と共に、俺を迎えた。 奴が時を止めた、まだ女にもなっていない女達…そんなものをジジイは後生大事に飾っていた。 「見違えたな、ダニーボーイ。立派な悪人面になったものだ」 「あんたは老いぼれたな、カーティス。勃たなくなって、狂ったか?こんな何の反応もしない女共はべらせて並べて楽しいか?あ?」 「少なくとも、彼女達は噛みつきはしない」 「もう噛みつかれるのも怖くなったか?動かない相手じゃないと安心できないか?」 「…どうやら貴様は、成仏の仕方も教えてやらないと分からんらしいな」 「今度は俺がてめえに教えてやるよ」 俺が言うと、奴は口元を歪めた。 「知らないから、現れたのだろう?」 「…違えねえ」 4発ほどぶち込むと、奴は倒れた。 俺も食らったが、より多く奴にめり込ませた。 そうして、奴は俺の目の前に転がっている。 いつだったか遠い昔、ずっとそうしてやりたいと俺は思っていた。ずっとこんな光景を想い描いて、俺は追っていた。 ああ、奴の真っ白な服が…血だらけだ。 いつかの路地裏の光景が重なって見えた。 ――どうだい、俺のプレゼントは。 だが、あの時と違って、俺の気は少しも晴れなかった。 苛々するばかりだ。 なあ、てめえはそんなもんだったか? そうじゃないだろ? 俺が追い越しちまったなんて言うなよ。 あんたが老いぼれちまったなんて言うなよ。 ……もっと違う結末があったなんて言うなよ。 いつも俺を小馬鹿にして笑っていた奴は、もう虫の息だ。もう笑う元気もないらしい。 倒れた奴の額は、まだ綺麗なままだ。 ほら、そこにぶち込むのを俺は楽しみにしてたんじゃなかったのか?今なら簡単だ。指をほんの少し引くだけでいい。目をつむっていてもできるだろう。 簡単すぎて、腹が立つくらいだ。わざわざ構える気にすらなれなかった。 そんな俺に、奴は「幕を引いてくれ」と言った。 かっと、火を点けられたような気分だった。 知ったことか!俺は、てめえの言う通りにするのが一番嫌いだったんだ! 「格好つけるな、変態の癖に!」 俺がスタートさせた機械は、奴を処理し始めた。それは、少女達の時を止める為のものだ。何人もの少女の時を止めたそれは、今その主の時を止めている。 そんなものを最後まで見ている気もしなくて、俺は部屋を出た。 ただ、出る前に俺は銃を一丁、床に置いた。 それは昔、奴が俺に渡したものだ。何とかいう名前を奴が付けていた筈だったが、もう思い出せなかった。 ずっと、捨ててやるつもりだったそれを、俺は結局今まで持ち続けていた。 捨てるのすら、俺は忘れていた。 叩き返そうにも、返す相手はたった今俺が殺した。 だから、ただそれを床に置いた。 あばよ、カーティス・ブラックバーン。 俺の手にはもう新しい銃がある。 俺は銃を残し、そこを後にした。 奴は結局、最後まで俺に成仏の仕方は教えなかった。 だから、俺はもうしばらく成仏はしなさそうだった。 まあ、いつか、勝手に覚えてやるさ。 俺は天を仰ぎ、誰かに向けて、笑いとばした。 END |
反抗期ダニーボーイ、でも33歳。 ダンに師匠がいると分かった時に、咄嗟に思ったのは、弟子時代はこの人もやっぱりヘボかったのか?だったので、とりあえずヘボく書いてみました。 解説本がどこにも売ってないので、ほぼ妄想のみで書きました。かなり間違ってるかも知れませんが、楽しかったからいいです。 |