先はまだ長いけど



「アーロン!」

呼ばれて振り返りざまに、やたらと激しくぶつかってこられて、なぜか意識が遠のいた。
これくらいの衝撃で…。

地面に派手に音を立てて倒れつつ、ふと、最近あれが覚えたばかりの技を思い出した。
ブリッツの試合でも多用している、確かナップタックルXという名で、相手を眠らせる…。
そこまで思い出したところで、視界も思考も、闇へと沈みこんでいった。



「アーロン、アーロンってば!」

また、名前を呼ばれている。そのうえ、がくがくと体を揺さぶられている。

「起きろよ〜。俺、つまんないっす」

ああ、煩わしい。もう少し寝かせろ。
だが、無理にもたらされた眠りは、それでも急激に覚めていった。

あんまり揺らすな、吐き気がする。吐きそうだ。
だんだんと強くなる腹の辺りからこみ上げる感触に、一気に目を覚まされた。
目を開くと、そこには友から託された息子の顔がある。が、いやに近い。
いや、近いというより、これは。上にのしかかられている。重い。

「あ、目、覚めたっすか?」

目が合うと、俺を組み敷いていたティーダは満面の笑みを浮かべた。

「おい…」

呆れてため息が漏れる。全く、何を考えているのか。
何でもいいから、早く俺の上からどいてくれ。

それと、寝てる間に勝手に人の中に入れるな。







「さっさとそれを抜け」

予想はしてたけど、いつもの不機嫌そうな声でアーロンが言う。
でも、さっきまでは寝てたからか、わりかし緩かったくせに、起きたとたんスッゲー締め付けるもんだから…。

「悪ぃ、これ抜けそうにないよ」

うわ、睨んでるよ。でも、ホントだしなあ。
ていうか、キツ〜。ああ、俺もうダメかも…。

「アーロン…。出そう…」

「よせ!」

珍しくアーロンが慌てたみたいなそぶりを見せて、俺の下で暴れた。
けど急に動くもんだから、すれて…。

「ぐっ!」

「おわぁ!?」

二人で同時に声を上げた。

ひゃ〜危ねぇ〜、もーちょっとで終わっちゃうトコだった。







このままでは埓があかない。

仕方なく、俺はティーダの腰の辺りを掴み、それを軸にして、体の位置を入れ替えた。
都合、今度は俺がのし掛かる格好になる。そのまま上半身を起こすと、下からティーダが驚いたような声を上げた。

「おお〜?スゲー!騎乗座位っすか!」

思わず殴りつけてやろうかと思った。全く、ろくな事を覚えてこない。
が、まあいい。今はとりあえず、これを抜くのが先だ。
内臓を圧迫されているせいか、さっきから息が詰まって仕方がない。それに、人が寝てる間にどれくらい動いてくれたものか、すでに腰の辺りには重い感覚がある。

やれやれ…。

イヤな感触から、とっとと逃れようと、俺は腰を浮かした。
が、それに追いすがるように、突き上げられた。

「ッ…!動くな」

「イヤ〜っすよ!」

睨んでやるが、更に二度三度と揺さぶられ、下から両腕を引かれて、不覚にも力が抜け、再び倒れ込む羽目になった。
息をつきながら目を開くと、にやにやと、やたら嬉しそうな顔で見上げてくる顔がある。
その表情は、かつて見た友のものと、同じ物で…。

ああ、いらん所ばかり似てくる…。

一向に整わない息の中、それでもため息だけは自然に流れた。







アーロンが上に乗ってくれたおかげで、さっきよりも締め付けが弱くなって楽になった。
相変わらず、上で難しい顔してるけど、息だんだんあがってきてるし、割と効いてるっぼい…よな?

あーもう、分かりにくいっつの!

だもんで、ほとんどムキになって揺らしてたんだけど、けっこ〜これ、腰に来るかも…。
あー、アーロンも動いてくんないかなー。なんつったら、怒るんだろーなー、やっぱ。
とか思ってたら、アーロンの方から聞かれた。

「…何だ」

「へ?」

「言いたいことがあるなら、言え」

「…」

ああ、そうだ。アーロンはいつもそうだった。
俺のこと、ちっとも見てなさそうなんだけど、ホントはいつでも見てくれてる。
それに気づいたのは、つい最近だけど。

何つーかこう、じわ〜っと嬉しくなって、アーロンを乗っけたまま俺も上半身を起こして、ぎゅっと抱きついた。
そのまま、耳元に『お願い』したら、思っきし殴られたけどさ。







「いってェ…」

俺が殴った部分を抑えながら、拗ねたみたいな顔で睨んでくる。
見ると、目元に涙がにじんでいる。大げさだ、多少は手加減したつもりだ。まあ、多少だが。

痛いのはこっちだ。
異物で体を内から固定されて、更に好き放題動かれて、苦痛の声を抑えるだけでやっとだ。
おまけにいらん力でも入っているのか、直接関係ない、背中まで痛む始末だ。明日のことを思うと、頭も痛みそうだ。

全く…。
何だか、馬鹿馬鹿しくなってきて、俺はティーダを引き寄せた。

「…さっさと終わらせろ」

両腕を回すと、ティーダが驚いて何か言いかけたようだが、それには構わず俺は動き始めた。
動くたびに言い様のない感覚が噴き上げるが、そんなものは知るか。
そのうち、俺の動き以外の突き上げも加わってきて、気を抜くと意識が飛びそうになる。
歯を食いしばって、それだけは避けようと、無理矢理留める。

だが、断続的に襲ってくる空白に徐々に捕らわれ、俺は…。

「…ィ…ダ!」

思わず呟くと、薄れていく意識の中で、ティーダの声が聞こえた。

「…アーロン!?今、何つった?うわ〜、もっぺん!!」

無茶を言うな…。
ろくでもない気分で、俺は今度こそ意識を手放した。







力が抜けて後ろに倒れそうになるアーロンを、慌てて抱き留めた。
それでも、がくんと首が傾いて、見たら、アーロンは気を失ってた。
今気が付いたけど、背中とか結構汗かいてて、支えてる手が滑りそうになる。

力を入れてアーロンを抱き起こして、俺の方にもたれさせた。したら、息乱れてて。髪の毛も、ちょっと濡れて肩に張り付いてて。
おっさん、もの凄い勢いで動くから。全然、平気なんだと思ってた。足らないのかってまで思ってたんだ。

馬鹿だよな、あんた。
キツいんだったら、加減とか何とかすればいいのにさ。

…ごめん。
ごめん、アーロン。

それでも、だんだんと落ち着いてきた息にちょっとだけ、ほっとして。
髪の毛から背中にかけて、ゆっくり撫でて、抱きしめる手に力を込めた。

…ありがと。







「…アーロン…」

まただ。また、呼ばれている。

無視するつもりだったが、ぼやけて重いはずの意識が、意志に反して覚醒し始める。
仕方なく目を開けるが、視界は霞むばかりで、片手で顔を覆った。
もう片方の腕は、何故か動かなかった。怪訝に思い、そちらに顔を向けると、そこにはティーダが人の腕を枕代わりにして、呆けた顔で眠っていた。

思わず、舌打ちが漏れる。

みっともない顔をしている。口が開いてるぞ、口が。ああ、よだれも垂れてる。

一瞬、拭ってやろうかとも思ったが、どうでもよくなってやめた。腕が汚れるが、今更、構うことでもない。
だが、このままでは腕が痺れて仕方ない。少し位置をずらそうと体を起こしかけると、ティーダが急に寝返りを打ち、そのまま俺に抱きついてきた。

「…こら」

腕を外すが、またすぐに抱きついてくる。

「…ア〜ロ〜ン…」

寝言でまで、呼ぶな。
何度目かも分からないため息をついて、俺はティーダを見下ろした。
そっと髪に触れると、柔らかい手触りがする。

「…アーロン」

また、呼ばれる。ふと、苦笑している自分に気づき、まあ聞いてもいないだろうが、返事をしてやる。

「ああ」

どこにも行かんさ。
俺は、ティーダの頭を抱えたまま、目を閉じた。

今は…今だけだ。ゆっくりとしていよう。




明日になったら、殴るがな。






END





初めて書いたエロありSSです。これもその昔ドコかに投稿したもの。
今見ると、何かと恥ずかしいです。

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