※ハンターに萌えてみよう
※ハンターvsウィザード ややブラック系
※2004/10/31
太陽もないのに明るい街でのことでした。
誰もいない通りを、ひとりのハンターが歩いていました。
ふわふわの金髪の痩せたこどもで、額にちいさなツノがあります。
くちびるをとがらせる癖のせいで、いつも少しばかり不機嫌そうに見えます。
物音ひとつしない通りを、狩人はおおまたで歩いていきます。
そのうしろを背中にゼンマイのついた鷹がついていきます。
ただ青いだけのからっぽの空から、真昼のような陽射しがふりそそいでいます。
きれいにしきつめられたレンガは、ホテルの廊下のようにぴかぴかです。
通りの両側には立派な建物が並びます。
扉も窓も全開です。
でも、どれひとつとして人影はありません。
やがて狩人は広場にたどりつきました。
中央の噴水が豊かな青をたたえています。
狩人はぐるりとあたりを見まわしました。
「誰かいませんかあ?」
はりあげた大声は、かすかなこだまを残して消えました。
狩人はため息をついて噴水のふちにこしかけました。
「まったくつまんないね、チャーリー。
せっかくやってきたのに誰もいやしないなんて」
ゼンマイのついた鷹は同意するようにひとつ鳴いて主人の肩にとまりました。
のどを鳴らしながら主人の顔をのぞきこみました。
思慮深そうな黒い目に、眉をよせた狩人が映ります。
「この街は東西のつわものが集まるって聞いたんだけどなあ。
ストリートファイトが盛んで、気が向きさえすればどんな人とでも手合わせできるってさ。
ぼく、楽しみにしてたのに」
狩人が愚痴を言い終わるやいなや、鷹が、急に飛びあがりました。
同時に轟音が聞こえました。
狩人ははじけるように立ちあがり、噴水の影に走りこんでしゃがみました。
遮へい物のない場所に陣取った自分のうかつさに舌をうち、矢筒から赤いやじりの矢を2本取り出します。
周囲にざっと視線を走らせ、他の人影がないことを確認します。
「ファイアボルト!」
具象化のトリガーボイスが聞こえました。
狩人は噴水のふちを蹴って地面の上で二転します。
ついさっきまで狩人の居た場所に炎の塊が2つ降ってレンガを焦がしました。
すぐに立ちあがると狩人は噴水にそって走りだしました。
水しぶきの中に年若い魔導士の姿が見えると同時に一本目の矢をはなちます。
魔導士は身をひるがえして噴水の陰に隠れます。
狩人は2本目をつがえながら魔導士を追いかけました。
再び魔導士の姿がしぶきの向こうに見えます。
狩人が魔導士に狙いをつけます。
しかし矢がはなたれるより、魔導士が詠唱を終えるのが先でした。
狩人の目の前に炎の壁が出現します。
息をのんだ狩人はとっさに左へ飛びます。
おかげで黒焦げにはなりませんでしたが、狩人は噴水から離れてしまうことになりました。
魔導士は召喚した炎の壁の陰にまわりこみます。
そこからさえぎるもののない狩人に向けて炎を降らせました。
狩人は地面を蹴って炎の雨からのがれます。
しかし避けるのに手一杯でとても矢筒から矢を取り出すことができません。
「チャーリー、ごちそうだよ!」
狩人の命令に上空を旋回していた鷹が、魔導士に体当たりをしかけます。
魔導士はそれをなんなくかわしてさらに新たな炎の壁を呼び出しました。
狩人はその隙に魔導士から距離を取り、狭い路地に逃げこみました。
「ファイアーボール!」
間一髪、路地の入り口に炎が着弾し、轟音があがります。
背後から熱風がごうとふきつけて、むきだしの狩人の腕に痛みがはしりました。
「チャーリー、餌は自分で探して!」
狩人は上空にいるであろう鷹に聞こえるよう、大声で叫ぶと走りつづけました。
ようするに、逃げました。「うー、ひどいめにあった」
魔導士をまいた狩人は、足をゆるめると背中のリュックをおろしました。
腕を見れば、あんのじょう軽いやけどをおっています。
「そりゃ、ひまだひまだって騒いでたけどさ。
あんなふうにいきなり襲いかからなくたっていいとおもうんだけどなー」
ポーションを取りだして、リュックを背負いなおします。
狩人は街路樹の陰を移動しながら、ひりひりする腕に薬を塗りつけました。
等間隔に植えられた街路樹はきれいにかりこまれていて、あまり良い壁とは言えません。
狩人はからになったビンを木の根元に捨て、向かいの住宅のそばに移動しました。
辻にぶつかるたびに気配をうかがい、魔導士がいないことを確認しながら歩を進めます。
ある家の裏に大きな樽が置かれていました。
狩人は用心深くあたりを見まわすと樽に近づきました。
中には新鮮な水がたっぷりつまっていました。
狩人はのどの渇きを覚えました、しかしひょっとしたら毒が入っているかもしれません。
リュックの中の水筒でがまんしようかと思ったとき、頭上からはばたきが聞こえました。
「おかえり、チャーリー」
鷹が舞いおりてきて主人の肩にとまりました。
主人を追う鷹の姿を目印にされては逃げきれないので、コマンドを受けた鷹はしばらくランダムに飛んでいたのでした。
鷹が戻ってきたということは、魔導士が鷹のあとをつけるのをやめたということです。
しばらくは安心でした。
「ちょうどよかった。チャーリー、これ飲める?」
毒物検査の命を受けた鷹は狩人が指さした樽のふちにとまりました。
水面に顔をつっこむ、とぷんという音がします。
やがて顔をあげた鷹はくるくるとのどを鳴らしました。
狩人は水を飲み、ついでに顔を洗いました。
さっぱりした狩人は深呼吸をするとふたたび移動をはじめました。
いくつめかの辻にさしかかったとき、狩人は立ちどまりました。
じっと路地を出たむこう、光がまぶしい方角を見つめます。
狩人は矢筒から矢を2本抜き出し、手の中の弓を握りしめて路地を出ました。
そこはちいさな庭でした。
芝生のうえに立ち木が涼しげな影を落としていて、ちょっとしたピクニックによさそうです。
現にそこにはサンドイッチのはいったバスケットがありました。
バッグやリュックも置かれていました。
ただ、どれも焦げていました。
荷物のそばに6つの焼死体がありました。
みっつは消し炭で、ふたつは生焼けで、ひとつは半分だけ焼けていました。
まだ若い剣士で、少女と言ってもいいような顔立ちでした。
瞳孔がひらききった青い目は、恐怖がべっとりとへばりついたままでした。
狩人はしばらく死体を見つめていました。
そしてふいにふりむきました。
「なぜ、こんなことを?」
そこには路地から身を乗り出した魔導士がいました。
杖の先には既に炎が宿っていました。
「何故?何故だと?」
魔導士はくちびるのはしをゆがめました。
笑ったようでした。
「豚だからだ。ここは戦いの場だ。命の取りあいをする場だ。
なのにそいつらは戦うべき相手に声をかけ、談笑し、戯れに武を晒し、傷のひとつも負わぬうちに勝負を切り上げる。
戦場の中でこそ実力は磨かれる。生死を賭けた攻防の経験なしではいかな武も芸に過ぎんというのに」
「……」
「俺はそいつらのような豚どもとなれあうためにこの街に来たわけではない。
己の力量を試すために来たのだ。だが、そいつらは俺のやり方は好かんと言った。
そんなことでは真に強くはなれんとな。だから、現実を教えてやった」
「……」
「勝つの負けるのなんて、そんなレベルの低い話じゃ物足りん。
戦いは殺すか殺されるかだ。常にはりつめてなくてはならんのだ」
「……」
「わかるかボウヤ?なんならわからせてやろうか?」
「…よくわかったよ。たしかに、あなたの言うことは一理ある」
「ほう」
魔導士は目を細めました。
獰猛なまなざしはそのままでしたが、こんどはあきらかに笑っていました。
「ものわかりのいいガキだな」
「うん、だからぼくは」
狩人は、やおら構えて矢を放ちました。
まばたきすると見逃すほどの早技でした。
つるが鳴る小気味の良い音が2回、あたりに響きました。
魔導士が、あおむけに倒れました。
一本の矢が魔導士の眉間に、もう一本が心臓に突き刺さっていました。
「あなたの意思を尊重するよ」
杖の先から細い煙があがって、消えました。