※マジ男とシーフ子とショタWIZとアサ男に萌えてみよう
※マジ男×シーフ子 ラブコメ 未完
※2004/10/31
旅籠の朝は早い。
まだ夜もあけやらぬうちに飛び起きた彼女は、いつものシーフの衣装ではなく、深いえんじのロングスカートに袖を通した。そのうえから白いエプロンを着込んでつややかな長い黒髪をととのえ、簡単に化粧をすませると、足音高く階下へ降りる。
「おはよう、マスター」
「おはようさん、今日も頼むぜ?」
「OK、はりきっていきましょう!」
モロクの中でも小さな旅籠だが、酒と料理はちょっとした自慢だ。加えて安くて早いと来れば、ロビー兼食堂に客があふれかえるのも道理。おかみさんとともに彼女は、矢つぎばやに出されるオーダーをメモし、せまりくる勘定願いを処理すると、朝食を次々テーブルへ運び、あいまに食い逃げ未遂をとっちめる。最後の客が満腹になり、小銭と金貨をテーブルにおいて店を出るころには、太陽はふたつとも空にのぼっていた。
「おつかれさま、今朝もありがとうねぇ」
カウンターに座って一息つく彼女へ、おかみさんが水を注いだコップをわたす。受け取るや否や飲み干す彼女を見て、いい飲みっぷりだとマスターは笑った。
「いつもすまねぇな」
「そんなことないですよ。ここのところ仕事らしい仕事もないし、渡りに船です」
「ありがたいわぁ。あんたが手伝ってくれるとお客が増えるのよねぇ」
おかみさんが笑いながら、2人分の朝食を載せた盆を彼女の隣りに置く。
「あ、朝ご飯だ。うれしいな~。いつもありがとうございます」
「ありあわせで悪いわねぇ」
「充分でーす。おかげで食費も助かってます」
「ふふふ。部屋で旦那といっしょに食べな。ほっといたらまた昼まで寝こけて食べ損ねるだろうし」
「な、ち、違います!旦那じゃないって何度言ったらわかるんですか」
口をへの字に曲げて反論する彼女に、おかみさんは手をぱたぱた振ってみせた。
「そのうちそうなるだろうからいいじゃないのぉ」
「……!ならないですってば、やつはただの仕事仲間ですっ」
顔を真っ赤にして否定するシーフに、おかみさんはころころ笑った。
「そうだ。あんた、その”仕事”の話なんだが。あんたたちによさそうなのが舞い込んでたぜ」
コップを磨いていたマスターが、店の入り口の壁にかけてある掲示板を指差した。コルクの板に数枚のメモ用紙がピンで留めてある。青いピンはアイテムハント。赤いピンは傭兵募集。そして緑のピンは。
「護衛ですか」
「ああ、詳細はメモに書いてあるから持って行きな」
「ありがとうございます」
ウェイトレスの真似事などしているものの、彼女は立派な冒険者だ。特に腕利きというわけではないが、仕事はきちんとやりとげる性格で、その正直な心根をマスターは高く評価していた。
礼をいって席を立った彼女は、盆の上にメモを置くと二階に向かう。
「パスしてくれてもいいぞ。週末に団体さんの予約が入ってるから、俺としてはそっちを願いたいな」
「それは詳細次第です」
ふりかえった彼女はにぃと笑った。「さて」
二階の奥、生意気にも角部屋。扉の前に立った彼女は、盆を持ち替えて手を腰にあてた。
「この時間に起きてることを期待するのは、無謀よね」
シーフはポケットから合鍵を取り出すと、ノックもせずに扉を開けた。とたんに顔に感じる熱気。砂漠を越えた風のにおい。
「だーかーらっ!暑いからって窓をあけっぱなしにして寝るなって言ってんでしょー!」
窓から見える輝くお日さま、風を迎えた室内はものの見事に砂ぼこり。窓際のテーブルをなでれば、指先は薄茶に染まった。昨日掃除したばっかりなのにと泣きそうな気分になりつつ、テーブルに盆を置いて眠る相棒の隣りに腰をおろす。砂の感触のするシーツにもめげずに惰眠をむさぼる男は、壁にかけられたローブから魔法士とわかる。
半年前の出会いからパートナーを組んでいる二人は、ここ最近、首都プロンテラからモロクにひっこんで護衛や探し物をうけおう日々を送っていた。せっかちなシーフの彼女とのんびりした魔法士の彼、似ているところはないけれどそれがかえって相性を良くしているようで、毎日泣いたり笑ったり喧嘩したりしながらそれなりに楽しくやっている。が、薄い皮グローブもはずさず眠り込むようなずぼらなところはまだ目をつぶれるとしても、彼の寝起きの悪さにはほとほと手を焼いていた。
「ほーら、起きなさい!おかみさんが朝ごはん作ってくれたの。ちゃんと食べないと、バチがあたるわよ?」
クセの強い茶色の頭をつかみ、わしわしと揺り動かす。
起きない。
ほっぺたをひっぱる。
起きない。
もみあげをつまんでねじりあげてみる(かなり痛い)。
「う……ん……」
さすがに反応があった。寝返りを打つ彼。だが、それだけだった。幸せそうな寝顔が見える。
「くぉ~~ら~~~~!起~~~き~~~ろ~~~~!」
「うわ、あ、ぉ、ぅ、え、あ?」
さすがに頭にきた彼女は、魔法士の襟首をつかんでがくがくゆさぶった。ようやく体を起こした彼の目の前に、人差し指をつきつける。
「起きなさい!人が朝から労働してるってのに、この無駄飯食い!」
「……ふあ…?」
「ええいもう、顔を洗っといで!歯も磨きなさい!ついでに髪もとかせっ!」
「はぁい……」
のたのたとバスルームへ移動し始めた彼を横目に、彼女はてきぱきとテーブルを清め、朝食の支度をする。
「うおあっ!」
背後から悲鳴が聞こえてきた。また歯磨き粉と洗顔フォームをまちがえたらしい。
『ふっ、いい気味……』
シーフはほくそえみつつ白磁のカップに紅茶を注いでやった。