※お題『メンテナンス』
※Luke(しおられないバラ)
僕は哀しみの色をたたえて言った。
「なあ、もうやめてくれよ……」
「俺にできることは、これしかないんだ。だから」
懇願の視線を振り切るように、彼は笑って。
「でも……」
泣きそうな僕の言葉をさえぎるように、彼は言葉を紡ぐ。
「お前がメンテしてくれるから、俺はがんばれる。どれだけの状態になっても、必ずお前が元の状態にしてくれるから。だから、やめてくれなんていうな」
顔をあげる僕へと微笑を投げかけて。
「じゃあ、行ってくる」
「無茶……するなよ!」
もっといろいろ言いたいのに、この程度しか言葉が出てこなくて。言葉がぐっと喉に詰まっているような、もどかしさ。
「ああ」
また今日も止められなかった。やるせない思いにさいなまれて。いつものようにぼろぼろになって再会するであろう彼のことを思うと心が痛む。いつだって完璧に彼をメンテナンスする自信はある。……しかし、できれば、しないで済ませたい。
「僕は、どうしたら……」
呟くと同時に、腹に響く鈍い衝撃と爆発音。……あの馬鹿。
「あの、ばかやろう……」
僕は、思わず地面を叩きつけていた。☆
ああ、また泣かせたな……と俺は思った。自爆。それが俺に使える唯一の攻撃手段。おとなしくされるがままにしていても、どうせ壊される。それならば。
意識が遠のく……。ばらばらに飛び散った俺を、彼が拾い上げてくれるのを、微かに感じた。☆
「もう! 無茶するなって言ったばっかりだろ!?」
ぼくは泣きそうな顔をしていたと思う。実際泣きたかった。すっかりとばらばらになってしまった彼を元通りへ。もはやメンテナンスとは言えないよな、と毎回思う。
「ごめんな」
いつもの調子でさらりと謝る彼の言葉を聞くと、これ以上はいえなくなってしまう。言葉が、喉へと詰まった。
「……ばかやろ」
「な、泣くなよ!」
「泣いて……ない」
へたくそな嘘だと、自分でも思う。でも僕にはそう答えることしか出来なくて。
「お前のメンテにかかる、時間が……だんだんのびてる、から……」
一瞬、彼が言葉に詰まる。彼もやはりわかっていたのか。
「ばーか、そんなことないって。平気平気」
明るい声で言うその言葉が虚勢に見えて仕方がない。でも、彼は僕が止めてもまた笑って出かけていくのだろう。わかっていた。
「じゃあ俺は行くから。いい子にしてろよ」☆
相変わらず魂の無い人形がうろついている。諦めにも似た感情で俺は嗤って。
「……」
鳥に乗った人形が俺を斬り始めた。こいつらは俺たち出す魔力のかけらが目当てでここをうろうろしているらしい。俺はいつもどおりに迎撃の詠唱を始めて。
「……!」
すでにある程度ダメージを負っていたのだろう。人形は表情を変えることもなく倒れ伏し。同時に、はじけ飛んだ俺の体から魔力のかけらが零れ落ちる。あれを、取られたら俺はもう再生できないだろう。あいつが本格的に泣いてしまう……。嫌だ。それだけは。
(やめてくれ……!)
すでにばらばらの俺の身体では声をあげることも出来ない。別の人形が、俺の魔力のかけらへと一直線に向かう。拾い上げようとしている。絶望感が俺を襲って。
「……」
人形は突然動きをとめ、いずこかへと飛び去った。誰かがカードの形をした俺の魔力のかけらを拾い上げた。
「まったく、君はほんとに無茶ばかりして……」
その姿を見たとき、俺は不覚にも泣きたくなり……。すまない、と返事をしたくても声が出せないのが悔しかった。
「いいよ、わかってる」
彼が俺の身体を拾いあげて。その間にも彼の周囲の人形たちが、飛び去ってゆく。
「帰ろう。またメンテしてやるよ」
彼が静かに微笑んだ。うみにたゆたう球 ――End
+α
どこがメンテナンスだ馬鹿野郎、と皆様がおもわれる事を先回りで言っておきます。ごめんなさいっ!
いつぞやの小説スレ座談会において話題の出た「マリンスフィア日記」をつい魔がさしてやってしまいました。もうなんだか色々言い訳を書こうと思っていましたが、ぜえんぶ忘れちゃいました。あはは。
まーそんなわけでタイトルが一番最後です。「俺」はまりすぴちゃんですが「僕」についてはまったく考えてません。GMだとちょっと美しいし楽しいですが半漁人だと見た目最悪ですね。あはは。プログラムの中の人かもしれません。絵面は好きにご想像くださいませ。
しかし、短いなあ。切腹。
2004.03.05 Luke(しおられないバラ)