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レベル4の話 bykasamaru

 
 ※お題『レベル4武器』
 ※kasamaru (RO-SAGA
 
続き
 
 

 
 
街は、昼と夜、2つの顔を持っている。昼間は行商人や買い物客が溢れ活気ある通りも、夜になれば盗賊や荒くれどもの溜まり場となる。それはどの街でも同じこと。ミッドガルドのお膝元である王都プロンテラでもそれは例外ではない。街の明かりが消え、住人は家に帰り、ひっそりと静まった首都の夜。

 1人の女が男達に追われていた。

追われる女は、その身にまとう紫紺のローブと胸元にロザリーを下げた聖職者。追う男達はそれぞれの手に任意の武器を持った盗賊たち。彼らは下卑た笑みを顔に張り付かせながら女聖職者を次第に追い込んでいった。

盗賊たちの包囲は的確で、逃げる女聖職者を次第に共同墓地の方角へと追い込んでいく。
女は逃げた。ただ、ただ逃げた。墓地へと追い込まれていることを知りながらも、ただ逃げた。

同時刻、その様子を宿屋の窓から覗いている少年がいた。

 「あの女の人は、追われているよね?」

少年は問いかけた。

 「盗賊の人たちに、追われているよね?」

ただ、少年は一人呟いた。

 「た、助けなきゃ、ダメだよね? 怖いけど、助けなきゃダメだよね?」

少年はガチガチ震え、その振動で剣の柄がカチカチと鳴った。

 「せ、急かさないでくれよぅ、ぼ、僕にも心の準備ってものが…ひぃ!」

突如、少年の頬が切れた。赤い線がつぅっと垂れる。

 「うわぁあ、痛い、痛いよ、やめてくれよぅ!」

少年は虚空に向かって懇願した。

 「ぼ、僕は気が弱いんだ、ぼ、暴力とか、喧嘩、とか、ひぐ、嫌いなんだ。ち、血なんか、見るのも嫌いなんだよぅ!」

さらに、少年の右手の甲に一筋の切れ目がはしった。

 「ひぃ、わ、わかったよ、行くよ、行くからやめてよぅ」

右手を押さえながら、少年は剣を取る。

 「た、たださ、一つだけ約束してくれよぅ。悪い奴は、盗賊だよね? 女の人は悪くないよね?」

確認を取るように、少年は言った。

 「だから、だからさ、こ、殺すのは盗賊たちだけで、が、我慢できるよね? 」

声が震える。また切られると思って少年は身を縮めた。しかし、斬撃はこなかった。

 「う、うん、そうだね。約束だからね? ……うん、それじゃ、行こうか」

誰もいない部屋に向かってそう言うと、少年は宿屋の窓から身を躍らせた。3階建ての建物の窓から飛び降りたにも関わらず、少年は何事もなかったように着地と同時に走り出した。

盗賊と聖職者の追走劇に少年が加わった。

女は逃げる足を止めた。もう、逃げる道が無いからだ。プロンテラ南東の共同墓地。昼間でさえ人気が少ないこの場所に、この深夜に盗賊と自分以外の人がいるはずも無い。目の前には壁。大体自分の身長の5倍はある城の城壁。これを超えては、絶対に逃げられない。そして、女は振り返る。ニヤニヤと笑っている盗賊たちが、そこにいた。

 「よーう、姉ちゃん、そろそろ諦めたらどうだい?」

女を囲む盗賊の一人が一歩前に出た。聖職者の女は一歩下がる。

 「なに、俺たちは命までは取る気はねぇんだ、ただ、ちょこっと俺らと遊んでくれりゃいいのさ」

一晩中な、と盗賊の中の誰かが付け加えた、それにあわせてどっと盗賊たちが沸いた。

「……お断り致します。」

聖職者の女が口を開いた。胸のロザリーに手をかけ、小さな声で再び口を開く。

 「あなた方のような、下賎の輩の言うことなどに耳を傾ける気はございませんわ」

一瞬の静寂。そして

 「ひゃーっはっはっはっ」
 「ひーっ」
 「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

盗賊たちの笑い声が深夜の墓場にこだました。

 「いいねぇ、いいねぇ、俺達にぴったりの言葉だぁ……」

盗賊の男は短剣を抜く。

 「それでこそ、やる気が出るってもんよ……」

次いで、取り囲んでいる仲間達も一斉に腰の武器を抜いた。

 「おい、売るのは止めだ。この生意気な女は俺達で楽しむとしよう」

ジリっと盗賊たちが間合いを詰める。
聖職者の女は一歩下がる。冷たい壁の感覚が背中にあたった。

 「やれ」

 「ま、まま待って!!」

声は、上から降ってきた。

何処からともなく、聖職者の女と盗賊の間に少年が降り立った。腰には一本の剣。鎧は軽装備。どう見てもただの剣士。間違っても首都の警備隊などには見えない。それでも出現のとっぴさに、あまりにも幼いその声に、盗賊たちは少しだけ警戒を強めた。

 「なんだ、てめぇは」

盗賊の男は少年に向かって荒々しく問いかけた。

 「ひぃ!」

少年は、後ずさる。

 「おいおい、こいつ泣いてやがるぜ!」

誰かが言った。と、同時に視線が少年へと集中する。

 「う、ひぐ、だから、待ってって、ぐす、いったのにぃ、う、ぼ、僕にだって心の、準備が、あるのにさぁ、ひっく」

確かに、泣いている。盗賊たちは、警戒を弱め、その代わりに少しだけ安心し、そして優越を取り戻す。

 「おい、てめぇ」
 「う、うううう動ごくなぁ!!」

少し焦れた様子で近づく盗賊に向かって、少年は叫んだ。

 「あん?」

盗賊の額に青筋が走る。
少年は、剣を抜いた。

 「ひぐ、う、た、確かめたいんだけどさ、あ、あなた方は、悪い人、達だよね? この、女の人を襲うとして、いるんだよね? そうだよね?」
 「他にどう見えるんだい?」
 「も、もしさ、そうだとしたらさ、や、やめてくれないかな?」

もはや、少年の言葉に盗賊たちは笑わなかった。無言で盗賊の男は会釈をすると。仲間の一人が短剣を少年へと投げつけた。少年の左足に、ダガーがグサリと突き刺さる。

「ひぐぁ」

冷たい感覚のち燃えるような痛覚。少年は声もなく、その場にうずくまる。

 「うう、痛い、痛い、い、いたいよぅ…、ひ、酷いじゃないか、いきなりなんて酷いじゃないぁー、ひぐ、痛い、痛い、痛いぃぃ!!」

苦しむ少年を見下ろしながら、盗賊の男は言った。

 「なんだ、こいつ。イカレてんのか」

そして仲間の方向へと蹴飛ばす。次いでまた蹴飛ばされ、更に蹴飛ばされ、幾度も蹴飛ばされた。ボロボロになりながらも少年は気を失わなかった。そして、言ったのだ。

 「うぐ、ひぐ、もう、いいでしょ?」
 「なんだって?」
 「ぼ、僕を刺して、蹴飛ばして、これで、いいでしょ? もう、気が済んだよね? 女の人は見逃してくれるよね?」

少年の言葉が盗賊たちに冷たい殺気を走らせた。

 「おーおー、ムカツクガキだ。突然出てきて、邪魔したと思えば、俺らに説教して、獲物を前にして帰れかよ」
 「こういうガキはどうすりゃいいかね?」

盗賊の男は仲間に問いかけた。答えは無言で武器を構える仲間たちだ。

 「ひぐ、うぐ、た、たのむよ、ぼ、僕は、僕は、なるべくなら、出来ることなら、本当は」

 「殺れ」
 「こ、殺したく無いんだぁ…!」

二人の言葉と同時に、十数のナイフと矢が少年へと放たれ、
既に足を刺され、地に這いつくばっている少年がかわせるはずもなく、
当然にナイフと矢は少年へと突き刺さるべく闇夜を飛翔し、
少年の体に当る寸前に一瞬で塵化した。

ぼしゅ。そんな音が聞こえた。

 「な、何が起きた?」

盗賊の男は少年に向かって叫んだ。

 「う、うう、そうだね、約束だったね」

少年は立ち上がる。左足に受けた傷など、まるでなかったかのように。

 「殺れ、殺っちまえ!」

再びナイフと矢が少年を襲い。
 
 「わ、悪い奴は、皆殺しだぁ」

ぼしゅ。先ほどと同じようにナイフと、矢が、塵となった。
同時に、ひゅーひゅーと風が吹く。少年の足元から、いや、少年のもつ剣から、冷たい風が。

ギン

耳障りな音が、辺りに響いた。
盗賊たちの約半数が、氷漬けになり、次の瞬間、パリン、と無数の欠片に砕かれ、無くなった。

さらに、少年の体が剣から吹き出る冷気に包まれた。冷気は少年を核として、凝縮され。少年の外郭を形作っていった。その姿は、まるで、

「ひ、ば、化け物だぁ!!」

盗賊たちは、無様な悲鳴を上げて逃げ出した。

御伽話に出てくる、星の数ほどもの伝説の武器達。例えば、雷を呼び自在に操る両手槍。例えば、所持者の望む、望まないに関わらず幸運を運んできてしまう短剣、例えば、炎を纏う片手剣、例えば、どんなことをしようが必ず敵を貫く月型の鎌。それらの武器の使い手は、英雄であったり、天使や悪魔であったり、はたまた、その武器自身が意思を持っていたり。

それは、大人が毎晩子供に聞かせる英雄譚。子供達に夢を与える希望のお話。しかし、夢御伽の世界から決して出ないはずのその存在は、現実にこの世界に在ることを、この世界に生きる多くの人は知らない。そしてこれからも知ることはない。世界の一握り、いや、一粒しかいないであろう武器の所持者達とその目撃者だけが知っている御伽話。その話に出てくる使い手は英雄でも天使も悪魔でもない、ただの人。そう、使い手はただの人であったが、武器の力だけは、御伽話のそのままに。

彼らには様々なタイプの人間がいたが、一つだけ共通していることがあった。その共通項を端的に表すのが、彼らに関わった人々の証言である。人々は彼らを、口を揃えてこう言った。

化け物、と。

 「さあ行こう、アイスファルシオン、狩りの時間だよ」

今度は少年と盗賊の追走劇が、始まった。

聖職者の女は、ただ、見ていた。姿を変え、武器へと侵食されていく少年の姿を。
聖職者の女は、知っている。少年の行為は彼の命を著しく削るものだと。
聖職者の女は、その身をもって体験している。武器の力に身を任せた彼は、そのうち、取り込まれてしまうこと。

そして、例え偶然にしても、盗賊をからかい殲滅するという、自分の気まぐれに巻き込んでしまった彼を、私は救わなくてはならない。――同じ、仲間として。

聖職者の女は、走り出した。

真夜中の首都を、巨大な氷狼が疾駆する。

 「グルルルルルルルッルルゥ」

獲物を、見つけた。

 「ひ、ひぃ、来るな、来るなぁ!」

獲物を、ミツケタ。

 「来るな、来るな来るな来るなぁ、嫌だ、死にたくねぇ、死にたくねぇ!」

エモノヲミツケタ。

氷狼が、吼えた。苦し紛れに投げた盗賊のナイフは一瞬で凍結、塵化され、さらに盗賊の胸につきたてられた、氷狼の牙を中心に、

ビキン。

塵が、首都の夜に舞った。

 「おい、てめぇ、まちやがれ!」

盗賊の一人が、呼び止めた先には聖職者の女がいた。

 「へ、へへへ、なあ、なんだよ、アイツは、なんなんだよぅ、おい」
 「……知らないわ、貴方達が怒らせたのでしょう? 彼を」
 「おいおい、随分な言いようじゃねぇか、アンタは助けられたってのに、トンズラかい?」
 「ふっ」

聖職者の女は鼻で笑った。

 「何が可笑しい!」

盗賊の男は叫び、そして。

 「いいか、てめぇだけ逃げれると思ってんなよ? おめぇは人質だ。あの化け物に盾として使ってやる」

短剣をちらつかせながら、男は言った。

 「……無理ね」

女聖職者は盗賊達へと向き直った。その顔に気負いは、無い。

 「あんだと?」
 「ああなった彼はもう、意識なんて武器に取り込まれているでしょう。仮に、私があなた方に捕まったとしても、彼が私を認識できるかどうかは微妙でしょうね。……第一」

聖職者の女は両の手を胸の前で組み祈る。

 「あなた方に、私は捕らえられませんことよ?」

と、女が言い切るや否や、盗賊の一人が襲い掛かってきた。しかし、聖職者の女は避けなかった。避ける必要が無かったからだ。盗賊の短剣は、突如出現した女の身長を優に越す、光り輝く巨大な十字型のメイスによって防がれた。

 「さあ、グランドクロス、不浄の輩に、神の鉄槌を与えますよ」

軽々とメイスを持ち上げ、構える、女聖職者。

 「はは、今夜はついてねぇ、……てめぇも、化け物かよ……」
 「あら、失敬ですわね、こんな乙女を捕まえておいて」

ケラケラと口に手をあて、女は笑った。

 「で、どうされます?」

聖職者の女は問いかけた。
盗賊達は、無言で逃げ出した。

 「逃がしませんわよ」

ゴシャリ、と鈍い音が数回響き、夜の闇に吸い込まれていった。

「グル、グルルゥ……」
氷狼が、最後の盗賊を塵へと変えた。しかし、まだ足りない。まだ足りないのだ。もっと、殺したい。そうだ、この街には人間がたくさんいるじゃないか。こいつらを全部殺せば、悪い奴も全滅だ。そうさ、悪い奴は皆殺しだ。

氷狼は、力の開放をはじめ、足元に冷気の塊を集中し始めた。

これを解き放てば、この規模の街など一瞬にして氷漬けだ。はは、あー、あれ? 皆殺しってことはあの女の人も殺しちゃうのかな? あはは、まあ、いいか、うん、いいか、――い、い、いや、よくない、よくないぞ、あの女の人は良い人だ。あの人は殺しちゃダメだ。ああ、でも冷気が、弾ける。ダメだ、ダメだぁっ、アイスファルシオン!

 「ちょっと痛いけど、御免なさいね」

女の声が聞こえた。
同時に、はるか上空からのグランドクロスの一撃が氷狼の眉間を打ち抜いた。その瞬間、アイスファルシオンと少年のリンクが切断され、力が、消えた。

朝。
何事も無かったように、首都の日常は始まる。街は昼の顔を取り戻し、昼間の生活が始まるのだ。
城門が開き、行商人が、旅人が、首都へと、または他の街へと移動を始めた。それらの人と同じように、聖職者の女と剣士の少年が、そろって城門をくぐっていった。
 
 
 

「レベル4の話・完」
 
 

 
 
 

+α

やっかいなお題でゴメンナサイ。
いや、自分としては、書きやすいかなーと思って(言いわけ)
ほら、武器とか固有の力や説明もあるし、ね?(言い逃れ)
なんつーか、スタンダードなものを選んだつもりなのですが(開き直り)

ゴメンナサイ。

で、後書き。
私自身のレベル4武器の解釈として、武器を使ってると、すごい力を使える代わりに取り込まれちゃうよー、みたいな脳内設定がありまして。取り込まれるとどうなるとか、使い手はどんなのいるかとか、望んでその武器をとったのか、それとも持たされたのか、んで力に振り回されたり、利用したり。
で、レベル4武器同士の使い手はお互いに引き合うー、見たいな某JOJOの設定を裏で使ってみたり、そんなことを考えるのが楽しくてしようがありません。あー、なんか似たような設定の話を前に書いたなぁとか思いつつ、リンクさせる気満々だったり。

そんなわけで、やりにくいお題でゴメンナサイ。

きゅ(吊)
笠丸 2003/10/26