※お題『酒場』
※NAZI
【ブラックスミスの憂鬱】
俺はよぅ、ガキの頃から武器が好きだったんだよ。振るうのももちろん好きだったけど、あんまし腕っ節には自信が無いからね、どっちかっていうと眺め回したりいじくって遊ぶのが好きだったんだ。
武器の扱い方としては間違った愛好っぷりだったかもしれないけどな。とにかく武器の持つ鋭さっていうのか…造詣の美とでも言うのかね、そういうのに憧れを持ってたんだよ。っていうか今でも持ってるぜ?
まっすぐ伸びる直刀のストイックな美しさとか、複雑な機構のジャマハダル(小手仕込み)の刃の機能美とかさ。カタナの描く優美な曲線なんて見てて色気さえ感じるね。
…何だよ。そんな知的に可愛そうな人を見るような目で見んなっつの。正気だって。酔っても居ないから。そもそもなぁ、俺ら冒険者が普段どれだけ武具の世話になってるのかお前考えた事あるか?
たとえばこのナイフ。ん?そうだよ。初心者修練所を出るときに出所祈念でもらえる奴だ。まだ持ってたの?ってオイ、まさかお前手放したのか?人参代の足しにした!? …っくこの恩知らずが。ポリンを5~6匹倒すのに使ってさっさと他の武器に持ち替えたクチだな。 ったく。ちょっと考えてみろよ。修練所を出たばっかの素人同然(ベース1LV)だったお前が、いったい他のどんな武器を使ってポリンを5~6匹倒して戦いのカンを掴める様になれるってんだ?
扱いやすさで有名なメイスやブレイドでさえあのころの俺らには手に余る品だったじゃないか。一見しょぼくれたコイツだけどなぁ。完璧と言っていい重量配分で作られてるんだよ、ホントは。をぉ?聞いてるか?「・・・あそこの商人さん荒れてますねぇ。もう二時間もあんな調子ですよ。つき合わされてる踊り子さんも可愛そうに。…っていうか寝てますね彼女。」
延々と同じような話を繰り返しては管を巻く男をカウンターの内から遠巻きに眺めつつバーテンがこぼす。
「まぁ無理も無い。商工会に長らく勤め上げて、ようやくアイゼンマイスター(鉄 鍛 治)の称号を貰えると思った矢先のことだからな…」
軽くため息をつきながらマスターが応じる。止んぬるかな、といった様子だ。「えぇ?許可が下りなかったんですか!?あんなにまじめに勤めてたのに」
驚きとともにバーテンがおもわず一人ごちる。確かに鉄を精製する技術はある種の秘密であり、そう簡単には教えてもらえないことくらい彼も知っていたのだが、いまそこで管を巻いている常連の商人はそれなりにギルドに貢献している中堅。企業秘密の一つや二つ知らされても良い頃合だ。彼ほどに勤め上げてもまだ鉄を打つ許可が下りないという厳しさにバーテンは嘆息した。だがその声は…少々大きすぎたようだ。バーテンのつぶやきは本人に聞こえてしまったらしく、件の商人はトックリを抱えたままカウンターに詰め寄ると前置きも無く切り出した。もうすっかり目が据わっている。「鉄やカタナを打つ許可は降りたんだよ。一応」
「え、えぇ?えと、それじゃぁ何が問題で?」
すっかり困惑してバーテンが問う。「鍛治ギルドの連中が『武器を打つ為にその扱いに熟練せよ』とか言い出しやがってよぉ。 課題として戦闘熟練指数が20万溜まるまで修行して来いってんだよ?エルダーウィロー(お化け柳)2000匹以上だぞ?俺は鍛冶屋になりたいの!木こりじゃねぇっつぅの!」
普段は飄々と振舞うその商人が珍しく声を荒げる。「そ、それにしてもお化け柳2千本とは…鍛冶屋ギルドもすごい課題出しますね…」
「……別にエルダーウイローじゃなくったっていいんだけどよ」
イキナリうつむいて男が言い放つ。さっきからいまいち流れが見えないバーテンはすっかり当惑顔だ。「あー、解んない?要するにね、勝てないのよ。その子のうでっぷしじゃエルダーよかつよいヤツには」
さっきまでの押し問答で目が醒めてしまった踊り子が起き抜けに実も蓋も無い解説をする。バーテンはついなるほど、っとうなづいてしまってから目の前の商人の視線に気付く…。「っくしょ。酒だ酒!もっともって来ぉい!」
その日その酒場の閉店時間は普段より少し――いや、随分――遅くなった。
+α
このHPではお初です。NAZI♪(ナジ)と申します。以後のお見知りおきを。
そんなわけで今回はお題にそって酒場を舞台にしたモノローグ調のお話をUPさせていただきました。とはいえ内容的にはどちらかというと酒場よりも愚痴に主眼がおかれてしまっているような気がしますが…お酒には愚痴がつき物なのできっと許容範囲でしょう。…というか許容範囲ということにして置いてください_| ̄|○
2004.03.30 NAZI