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ギルドの話 bykasamaru

 
 ※お題『ギルド+一人称』
 ※kasamaru (RO-SAGA
 
続き
 
 

 
 
手に取った金色に輝くエンペリウムの欠片。暗い倉庫の片隅で、誰にも見つからないように、あたしとアイツは囁いた。

 「organize」

小さな欠片から眩いほどの光が放出され、そして私達の心の中に刻み込まれた。二人だけの絆の証として。

 「これで、俺とお前は世界でたった二人の仲間だ。何かあったら必ず助けを呼ぶんだぞ?」

目の前の男の子が口を開いた。この孤児院でたった一人の私の味方。

 「仲間、だけ?」

その言葉は嬉しいけど少しだけ寂しい。

 「あん?」
 「ううん、なんでもない、今はそれで我慢してあげる」

胸に光る金色のペンダント。それは、私がアイツとたった約束した証。今は離れ離れになってしまったけど、この小さなエンペリウムの力では彼方まで思いを飛ばすことは出来ないけど、あたしは、信じている。

いつか、きっと、また会える。

……

ああ、何か俺にとってとても不幸なことが決定されようとしてる。しかし、俺にできることはもう、何も無い。手足をふんじばられ、猿轡をかまされ、身動きできず、この目の前で話を進めている冷血な騎士の女の太ももを繁々と観賞することしか出来ない哀れな男だ。俺の名はラムフ、お宝発見ギルド『シークタイム』のメンバーであり、横の騎士の相棒だ。

 「さてラムフ、話はつきました」

相棒が俺の猿轡を解いた。

 「俺の意見は?」
 「ありません、そんなもの」

相棒はそういって俺をずずいと前方に押し出す。

 「ささ、どうぞ」
 「……なあ」

先ほど不可抗力でケツをなで上げてしまったウェイトレスがテーブルの上に上ってなにやら素振りをしている。びゅん、ならわかる。しゅん、でもまあ良いだろう。だけど、ばひゅん、ってなんだ。それ、お盆だろう。しかも振りの後に音が遅れてきてる。お前は何者だ。

 「最近のウェイトレスって、武闘派なんだな……」
 「元ブラックスミスさんっておっしゃられていました。なんでも力が強すぎて武具を折ってしまうので転職したそうです」

なんでそれが酒場のウェイトレスだ。他に人生の選択肢はなかったのか。いや、まあいい。百歩譲ってウェイトレスが彼女の天職だとしよう、そう、俺は俺の命の心配をするべきじゃないのか。とにかく弁解だ。

 「俺は無罪だ」
 「お黙りなさい。女の敵」

相棒が一瞬にして俺の退路をたつ、それでも仲間か。

 「いいか、これは不可抗力だ。」
 「俺は右手に古傷を持っていて時々痙攣してしまうんだ、それがたまたま君にあたっただけだ、信じてくれ。とか言っても誰も信じませんわよ」
 「……なんで?」
 「ささ、どうぞ」

相棒は再びウェイトレスの前に俺を突き出す。おい、そこのウェイトレス、なんでステップを踏む。おい、まて、ちょっと、え、あ、飛んだ、捻った、回った。

そして、俺の視界にお盆の角が。

ばきん

……

小気味良い音が響き、ウェイトレスが綺麗に着地をしました。周囲から場違いな拍手が上がります。

「大変ご迷惑をおかけいたしました。それでは帰って躾ますので。」

私は脳天を打たれて綺麗に伸びている相棒を、ずるずると引きずり運びます。彼の名はラムフ。私の相棒。そして、私の名はイフェリア。彼と同じお宝発見ギルド『シークタイム』のメンバーです。ちなみに『シークタイム』という名は失われた時を探し出す、という意味合いで付けられています。古代遺跡や、古い洞窟などにあるアイテムを集め、収集するのが私達ギルドの仕事です。今回はラルフと二人でアルベルタまで探索にやってきたのですが、とんだスカでした。おまけに今日の騒ぎ。早く宿屋のお布団で眠りたいです。ああ、疲れでどうにも体が重いですわ。なにか足に絡み付いているみたいに……

 「……ラムフ、気付いていたのですね」
 「イフェリアこそ、気付かないなんて疲れているな」
 「いいから、足に抱きつくのは止めなさい。斬りますよ」
 「ううーん、素晴らしい、このきめ細やかな肌に、まったりとした肉付き」

ちゃきり、そしてザクリ。手元に確かな手ごたえを感じ…、いや、感じない。

 「ふはは、イフェリア、セイフティワール中だ、諦めろ」

彼の勝ち誇った笑いに私は一歩ずれました。そして、ザクリ。標的はものの見事に沈黙しました。

 「うん、今日も良い切れ味です、良い躾ができそうですね」
 「鬼め……」
 「さあ、宿屋に行きますわよ」

再び私はラムフを引きずり、歩き出します。引きずり跡に赤いラインが引かれていますが、まあ、いいでしょう。

……

 「そんなー、部屋がないってどういうことよー!」

私がラムフを宿屋の中へ引きずっていると、入り口から声が聞こえました。宿屋の女将に女のハンターがくってかかっています。

 「そんなこと言われてもねぇ。今日は蚤の市が開かれているからどこも混んでいるのさ。」

そう、だから掘り出し物もあろうかと、私達もこの港町までやってきたのでしたが、結果はスカ。世の中、なかなか上手くはいかないようです。

 「まあ、そんなところだから、他を探しておくれよ。それか誰かに相部屋でもお願いするんだね。」

そういって、女将がこちらを見ました。釣られて女ハンターもこちらを見ました。う、嫌な予感がします。

 「ね、ね、そこのあなた」
 「相部屋ならお断りいたします」

見ず知らずの他人との相部屋など危険も良いところ、朝起きたら荷物を全て持っていかれていたなんてことも珍しくありません。

 「冷たいわねぇ」
 「当然です、あなたも冒険者であるならわかっていただけると思うのですが」
 「宿代は前払いで、しかも倍渡すわ、寝ている間は武器もどうぞ。それじゃダメ?」

う、それは美味しい条件です。今回の探索でスカッた私達にとっては旅費だけでも赤字です。悪い子じゃなさそうですし、ここは、

 「ダメだな」

その声は後ろから聞こえました。みればラムフが起き上がり手をわきわきさせながら、

 「加えて、その胸を30秒間俺の好きにさせるなら、考えてもいい。」

ちゃきり、ザクリ。

 「失礼、連れが大変無礼なことを」
 「ね、大丈夫? なんか、ぴゅーって出てるよ」
 「いつものことです、お気になさらず」

私はそういってまたむんずとラムフの襟首を掴みました。

 「それじゃあ、部屋へ行きましょうか」
 「え、それじゃ、いいの?」
 「ええ、ただし、このエロ魔術師からは自衛してくださいね」
 「あ、それは大丈夫、トラップあるし」
 「それは心強いですね」
 「あはは、まっかせなさい。そだ、あたし、フィス。フィス=ウェイラーです。よろしく」
 「イフェリアです。よびすてでかまいません、そして、このエロガッパは……」

フィス。その名前はどこかで聞いたことが、ある。遠い昔にした約束。
俺は、胸元の金色のペンダントを握り、ささやいた。

 「え、ラム?」

私がラムフの名前を紹介しようとしたときフィスは驚いたように口を開きました。そしてきょろきょろと周りを見渡します。そしてグルリと周囲を一見すると、ぴたりと、ラムフに視線を向け。

 「まさか、ひょっとしてラム?」
 「はは、フィス、本当にフィスか? はは、っははは、今まで何してたんだよ」

一瞬の間、そして彼は胸元のペンダントを彼女に見せ、そしてフィスもちゃりんと、胸元から金色に輝くペンダントを取り出しました。

 「会いたかった、会いたかったよ、ラム……」

彼女はラムフに抱きつきました。

 「俺もだ、フィス」

彼女を抱きとめ、話すラムフの顔は、私がいままで見たこともないものでした。ズキンと重い何かが私の胸の奥を走りましたが、顔には出しません、いえ、出せません。でも、出そうです。だから私はこういうのが精一杯でした。

 「何ですか、それ。私知りませんよ」

私は、何か言い方を間違えてしまったのでしょうか。

 「さ、先に部屋に行っています」

いたたまれなくなり私はその場から逃げ出しました。私は嫌な女でしょうか。

 「どしたの…彼女」

その場を後にしたイフェリアの後姿を見ながら、フィスは俺に問いかけた。

 「何、ただの焼きもちさ、可愛いだろう?」

俺の自慢の仲間だ。少しだけ躾が厳しいが。

 「ねぇ、あの人はラムの恋人?」
 「今のところ、仲間だ。なんどもアタックしてるんだがなぁ、向こうはどう思っているかはわからねぇ」

寝込みを襲ったり、寝込みを襲ったり、寝込みを襲ったり、とかな。

 「どうせ、寝込みを襲ったりしているんでしょう」
 「良くわかったな、さすが俺の幼馴染だ」
 「相変わらず馬鹿ね、ラム。変わって無くて嬉しいわ」
 「フィス、お前はちょっと変わったな」
 「……そうかな?」
 「こう、その、胸の辺りが。ばいーん」

俺の視界にフィスの拳が広がった。

……

 「やほー」

私が部屋で悶々とした気持ちを整理していると、フィスがラムフを引きずりながらやってきました。こんな時、私はどういう言葉をかけたらよいのでしょう。

 「ね、ね」

と、私が言葉を選ぶ暇もなく、フィスが私に話しかけてきました。

 「な、なんでしょう?」
 「二人のこと、聞いていいかな?」

にっこりと笑って彼女は言いました。どうやら気遣っていただけているようです。私の心のもやもやが少しだけ、晴れました。

 「ええ、かまいませんよ」
 「イフェリアとラムは、トレジャーハンターやってるの?」
 「うーん、そうですね、本質的にはそういうことになるのでしょうか、もっとも私達は収集品を売るのではなく、集めるのが目的なのですが」
 「えー、そんなんで良く食べていけるね」
 「ふふ、私達のギルドは王国と結構関係が深いのですよ、歴史の保存というお仕事を国から依頼されているいので、ただ働きってほどではありません、ただ……」
 「ただ?」
 「今回のように、収穫し無しですと、自腹なのです」
 「うわちゃー、それ、辛いねぇ」

フィスはころころと表情を変えながら私の話を聞いていました。悪い気はいたしません。どうやら私は彼女が好きになれそうです。

 「私も、聞いて宜しいでしょうか?」
 「ん? あたしとラムのこと?」

ええ、と私は頷きました。

 「昔ね、約束したのよ」

懐から金色のペンダントを取り出し、彼女は語りだしました。

 「あたしとラムは、孤児院育ちなの」

それは昔、彼から聞いたことがあります。

 「まあ、そこは虐待とか人売りとかする酷いところじゃなくてさ、教会が運営しいている普通の孤児院だったんだけどね、ある日、あたしが引き取られることになったの」
 「里親が見つかったのですね」
 「そう、そのころ、孤児院は閉鎖が決まっていて、子供はあたしとラムしか居なくてね、わかってはいても離れ離れになるのは辛かったなぁ」
 「ラムフは小さいころから『シークタイム』にいると聞いています」
 「それじゃ、ラムもあのあと直ぐに引き取り手が見つかったのね、よかったよかった。……でね」
 「あたしが里親に引き取られると前の晩、あたし達は倉庫の片隅で、エンペリウムの欠片を見つけたの」

手に取った金色に輝くエンペリウムの欠片。暗い倉庫の片隅で、誰にも見つからないように、あたしとアイツは囁いた。

 「organize」

 「そして、そのペンダントが、そのエンペリウムですか」
 「そ、小さすぎて、遠く離れると会話はできなかったけど、もっていればいつかきっと会えると思ってたし、約束してたし」

彼女は優しい目ですみでのびているラムフを見ました。先ほど違い不思議と不快感はありません。何故でしょう。

 「だからね、今日、ここでラムだけでなくイフェリア、あなたと出会えたのはきっとあたしの運命なんだと思うの」
 「どういうことです?」

私はフィスに問いかけました。

 「んふふ、あたしも今、実はトレジャーハンターやっているのよねぇ、でね、穴場を見つけたんだけどぉ、ちょぉっと危ないところでさぁ、助けがほしいなぁって♪」
 「え?」
 「ね、ね、だから手伝って、お願い!」

さて、どうしたものでしょう。私としてはとりあえずラムフの意見を聞いてから――

「その話、のった!」

聞くまでも無かったようです。

……

次の日、私とラムフはフィスに案内され、アルベルタ近辺に漂着したという沈没船まで着ました。船自体は座礁し、崖に持たれかかるようにして斜めに倒れています。下部は恐らく浸水しているでしょう。コケやくもの巣が縦横無尽にあるところを見ると人が最近入ったようでもなさそうです。これは

 「腕が鳴りますね」

私はにんまりと頷くと、ちゃきりと腰の剣をさしなおしました。

 「でしょ? でしょ?」

フィスも満足そうに頷いています。ラムフは、

 「……」
 「どうしました? ラムフ」

私は、ラムフに問いかけました。昨日の即断ぶりから見ると、いつもの彼ならもう少しはしゃぐ筈なのですが。

 「ん、ああ、なんでもねぇ。うはは、あー、楽しみだなぁ」
 「とてもわざとらしいです。ちゃんと言いなさい、斬りますよ?」
 「わー、嘘、ゴメン、わりぃ、いやな、さっきからよ俺の前を形の良いケツが二つ並んでいるわけじゃん? どっちにアタックしようか、迷っててなぁ」
 「……お願いですから、探索前に疲れさせないで下さい」
 「うむ、心得た、自粛しよう」

そして、私達は甲板から、沈没船の中へと入って行きました。

 「ごめんね」

かすかに聞こえたフィスの言葉は、波の音に消されて、私の耳に届くことはありませんでした。

……

 「うーん」

船室に繋がる扉を開け、中を物色いたします。めぼしい物はありません。スカです。
更に向かいの船室へ、……う、ガイコツです。……スカです。

 「フィス、ラムフ、そちらはどうですか?」
 「ダメダメー」
 「スカだ」

おかしいですね、これだけの穴場ならレアアイテムの一つでもあってよいはずなのですが。

 「下、行ってみる?」

フィスが階段を指差し、言いました。

 「そうですね、倉庫とかも下ですしね」

そう言って私はフィスの方へと、

 「あら、フィス、ラムフはどこです?」
 「あ、ラムは先に下へ行ったわ」

ラムフは魔術師だ。彼一人の単独行動は非常に危ない。

 「彼は一人では危険です」

私は急いで階段へと向かいました。

 「ううん、いいのよ、彼だけで」

冷たいフィスの声が背後に響き、次いで私の右足に熱い感覚が生まれました。振り返ると、フィスが矢をつがえ、私を狙っていました。

 「フィス、どういうつもりです?」
 「ゴメンね、イフェリア、でもね、これは運命なの。あたしと、ラムの約束なの」
 「納得できません、お話なさい」
 「ラムも納得済みよ、だから、あなたはこれ以上関わらないで」

そんなこと、できるとお思いですか? 私は矢を抜き、ブロードソードを抜き、フィスへと踏み込みました。
と、同時にガチャンと、足元から金属音、アングルスネアが私の右足をガチリと捕らえます。

 「バイアラットスケール、この女を見張りなさい。あたし達を追ってくるようなら、殺してかまわないわ」

フィスの声とともにカラカラと私の周囲で音がしました。曲刀を持った骸骨達が私を取り囲みます。

 「待ちなさい、お待ちなさい! ……フィス!!」

そして、フィスは階段を降り、私の視界から消えました。

……

 「お待たせ、ラム」

階段からフィスの声が聞こえた。

 「イフェリアはどうした?」
 「ああ、彼女ならもう少し上を探してみるって」
 「……そうか」
 「それじゃぁ、こっち、行きましょ。ラム。」

フィスは手招きし、俺を誘う。俺は金のペンダントを握り締め、

 「……フィス」
 「来てくれるよね? ……ラム」
 「……わかった。」

水位が上がってきた。パシャパシャと膝下まである海水の中を、俺はフィスの後に歩いていく。
そして、大きな扉の前でとまった。

 「ここよ、ラム」
 「フィス、約束は覚えているな」
 「入って、ラム」
 「フィス、…フィス!」

どん、と、フィスが俺の背中を押す。開けた扉の向こうで俺が見たモノは、無数に飛び交うウィスパー、そして――

……

カラカラ、カラカラ、とても耳障りです。ラムフ、貴方は私が貴方と組むときにいった言葉を覚えていますか? 覚えているなら、私がどんな行動に出るかもわかっていますよね。だから、それまで、無事でいてください。そう、心の中で呟くと、私は、背中に背負った2本目の大剣の留め金を外しました。暗い船内でも鈍く、光る赤い輝き、ファイアクレイモア。

 「マグナムブレイク!!」

炎の剣と、技と、衝撃が、私の足を捕らえていた罠と周囲のモンスターを一瞬にして灰と化しました。

 「……ラムフ、無事でいて下さい」

背筋がゾクゾクする、ウィスパーの大群の叫びが俺の心を直に鷲掴みにする。

 「寂しい」
 「苦しい」
 「辛い」
 「寒い」
 「サビシイ」
 「サビシイ」
 「サビシイ」
 「サビシイ」
 「サビシイ」
 「サビシイ」

負の感情が俺の体に纏わりつく、体が、重い。
そして、顔を上げた正面にはフィスが、弓矢を俺に向けて立っていた。

 「……フィス」
 「ごめんね、ごめんね、ラム」

フィスの弓矢をもつ両の手が震えた。

 「ごめんね、あたし、もう、だめなの、ずっと抵抗してきたど、もう、だめなの……」

フィスの目から涙が落ちる。

 「…だって、…みんなが、囁くんだもの…、連れてこいって。新しい仲間を連れてこいって」

叫んだフィスが突然更に震えだした。ぶるぶると体全体が痙攣し、何かにあがらっているようにも見えた。

 「サイト!!」

全てを照らし出す魔力の炎。俺の目の前に映し出されたのは、フィスを包み込むようにとり憑く巨大なウィスパーと手足を糸で操るマリオネットだった。

 「誰ももう、いないのに、いないはずなのに、死んじゃったのに! 殺されちゃったのに! …あたしの、あたしの耳元で、声がするのよぉ…」
 「フィス!」

俺は叫んだ。

 「だから、ラム、あたしと一緒に、死んで、お願い、ね、また、仲間に、なろう?」

俺の叫びは巨大なウィスパーに阻まれ、届かない。と、その時金色のエンペリウムが、リン、と鳴った。

 (……フィス!)

届け。届いてくれ。

 「あ、あ、ああ、あ」

(フィス、お前がフィスの姿を借りたウィスパーでも、本物のフィスでもどっちでもいい。いいか? 俺達が昔、約束したことを覚えているなら、するべきことは、一つだ。フィス、お前が、俺との約束を、覚えているなら、言うんだ。フィス!!)

 「ああ、ああああああああっ!! ………ら、ラム、ラム!」

フィスの五体を拮抗が強まった、そして、ぎり、と弓が最大級に引き絞られ、フィスのエンペリウムが、リン、と鳴った。

 ――これで、俺とお前は世界でたった二人の仲間だ。何かあったら必ず助けを呼ぶんだぞ?

 「助けて、ラム、あたし、あなたを殺したくない」

矢が、放たれた。

 「マグナムブレイク!!」

同時に、天井から床を突き破ってきたイフェリアが、俺に向かってくる矢を叩き落とした。

 「遅いぜ、相棒」
 「後で納得できる説明をしていただきますからね、絶対ですからね」
 「ああ、でもまずは、だ」
 「ええ、彼女を助けましょう」

俺と、イフェリアは、戦闘態勢をとった。合わせて、無数のウィスパーが、向かってきた。

 「例の行くぜ!」
 「――はい!」

イフェリアが突っ込む、そして俺の右手に宿る魔力の炎。次いで広がる魔法陣

 「ファイアーボール!!」

力の言葉と共に魔力が顕現、巨大な火球が、イフェリアの剣へと。

私はせまり来るファイアーボールをうねる様に巻き込み、そして、そのまま剣に纏わりつかせ、インパクト。

 「マグナムブレイク!!」

どじゅ。

海水が一瞬にして蒸発。次にウィスパーが蒸発。そして残るはマリオネット、巨大ウィスパー。

 「に、逃げて!!」

フィスの叫び声。私はその場を飛びのく。矢が2本、カカッと、先ほど私がいた場所へと刺さりました。

 「どうします?」

私はラムフに問いかけました。

 「俺に、任せろ」
 「ん、わかりました」

さて、集中だ。幼馴染と相棒、良い女に、カッコイイところを見せる絶好のチャンスだ。

矢が、来た。

セイフティワールで迎撃。そして詠唱を開始する。使う呪文はファイアーボルト、レベル10。覚悟しやがれ、怨霊ども。

フィスが、いや、フィスを操っているマリオネットと巨大ウィスパーが、矢ではダメージが通らないとみて間合いを詰めてきた。それでこそだ。

両の手を前へ、

 「ファイアーボルト!!」

10の火の矢がフィスへと放たれる。フィスはかまわず突っ込んでくる。いや、突っ込まされてくる。辛そうな表情で、涙を流しながら。

 「ひゅ」

俺は小さく息を吐いた。魔力の糸を伸ばし、ファイアーボルトの進路をわずかにずらす。火の矢は、マリオネットの糸をフィスから全て切り離し、分断させた。あやつり人形の糸が切れたように崩れるフィス。俺は済んでのところで彼女を抱きとめた。彼女の体は既に冷たかったが、とても和やかな、優しい表情をしていた。

 「……よく、我慢したな」

そして、襲い掛かってくる巨大ウィスパーとマリオネットを、イフェリアのファイアクレイモアが貫いた。しゅぼ、と小気味良い音がし、巨大ウィスパーは、消え去った。

……

アルベルタ近くの離島の墓場。私とラムフはそこで一つのお墓を立てました。
彼女は、フィスは、里親の元を離れ、一人旅をしていたそうです。ラムフを探すための旅かどうか定かではありませんが。そのうち、彼女はある海賊ギルドに所属します。海賊ギルド、といっても義賊、の部類にはいる評判のよいギルドだったらしいのですが。ある日、彼女達はモンスターの集団に襲撃されたようです。それからというもの、彼女達の魂はあの船に縛り付けられ、冒険者を次々と引きずりこんでいたそうです。全て、フィスのエンペリウムが教えてくれました。

 「ねぇ、ラムフ、私達は彼女達を、フィスを、助けられたのでしょうか」
 「フィスは、ありがとう、って言ってたぜ」

ラムフは、胸のエンペリウムを握り、言いました。

 「あとな、これを、お前にってよ」

フィスのエンペリウム。

 「そう、ですか」
 「もらってやってくれ」

差し出されたラムフの手に、私はそっと手を重ねました。

 「organize」

フィスの声が、聞こえました。
――二人だけのギルドだったけど、貴方にあげるわ、ラムをよろしくね。
 
 
 
「ギルドの話・完」
 
 

 
 
 

+α

うん、まともっぽい。
そんなわけでギルドの話はおしまいです。
なんとかフィスも生き残るように話を向けたかったのですが、イフェリアさん萌えなので勘弁しておくんなさい。
自キャラ萌えは見苦しいですか、そうですか。

では、また。

kasamaru 03/11/15