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ソリテア bySKR

 
 ※お題『固有名詞、禁止』
 ※SKR (S-Silence
 
続き
 
 

 
 
 港だ。停泊した船の前。私達は一所に集められていた。晴れた青空。木箱の物資。
 奴隷商は叫ぶ。「あたしは金さえ入れば何でもいいんだ。だからあんた達はただの商品なんだからねっ」そう思うなら何故わざわざ私達にその様な事を言う。「何か言いたい事はあるかい?」彼女が聞くので私は、「優しい人に売ってくれ」と答えた。すると彼女は大仰に吹き出し「変な奴だね。奴隷じゃなかったらどんな人生をおくってたやら」と呆れた笑みを浮かべる。けれど事実として私は奴隷なので、もしもの人生など考える必要は無い。
 競りが始まり私の値が次々に上る。一人の老人が飛び切りの値を私に付けてくれた。私が孫にでも似ていたのだろうか。奴隷商は意外に人好きする笑顔で私を抱きしめた。「よくやった!よくやったよ!」私は大層な儲けに成ったようで。あまりに彼女が喜んでくれるもので。私も嬉しくて微笑み返す。
 この私に。
 事も有ろうにこの私に、高い値段を付けてくれた人が居る。
 ここから船に乗り、海を渡る。私を高く買ってくれた御主人様の下で、私はこれから末永く所有される事だろう。
 
 
 
 
       ソリテア
 
 
 
 
 彼は座っている。座って茶を飲んでいる。
 フレーバードティの香りが甘く鼻孔を擽る早朝。冷えた空気の晴れた空。
 首都からは遠く北に離れたこの町は非常に明媚な所である。水色の石畳を縫って走る水路と、そこに掛かる橋も目に楽しく、野外カフェテリアでのティータイムは絶品だ。此処は水路のほとり。振り返れば町のシンボルとも言える巨大な時計台が聳えているが、その風流な外観を裏切るように時計駆動部やその地下には沢山の魔物が巣食っていると言う。
 この世界ではその様な魔物を狩って生計を立てる者が非常に多い。危険な怪物の角やら皮を収集すれば、安全な木の実採集などよりも、余程大きな利を得る事が出来るのだ。
 そうした狩りをする者を、俗に冒険者と呼んでいる。
 冒険者にとって、時計台の内部に犇めく魔物は金目の山だ。今日も多くの冒険者達がせっせと早朝から集い来て、各々突入の準備などを始めている。いや、夜中に狩りを済ませて既に収集品袋を大きく膨らませている集団も居る。
 そんな彼等に向けて回復薬を並べている露天商、人混みの中で仲間を見つけられずに右往左往する騎士、目当ての収集品を買い集めようと看板を立てている魔導士。
「サンゴ売ってくださーいっ。後三十個なんでーす」
 声を嗄らして涙ぐんでいる魔導士の少年は、その美しいサンゴで拵えたアクセサリーを果たして自ら装備する気なのか、それとも……。分からないが、『買:サンゴ500z@30コ』などと言う半ば暗号じみた手書きの文字を看板に掲げる。恐らくそれは冒険者同士では共通理解の有る文字なのだろう。所謂冒険者言葉だ。
 男はそんな人々のざわめきを、少し離れたカフェテラスから色の無い目で眺めていた。
 少々冷めたカップを細い指でソーサーに戻す、その彼の歳の頃は二十歳を若干過ぎた程か。衣服は赤と黒のベルベットを金のモールで縁取った法衣。それは聖職者として中位を与えられた者にだけ許された衣だ。
 そう、彼も戦闘技能を有した、冒険者なのである。
 ともすれば熱苦しい程にシックな装いだが、彼の薄鈍色の短い銀髪や、生気を疑う程に白い肌や、ぶつかれば折れそうな細身や何かが、衣装の重厚さと対比して上手い具合に均整を取っていた。
 彼も冒険者。だが時計台に乗り込む準備は進めていない。何か物憂げな仕草でテーブルに肘を突きつつ、桃の香りのティーカップを持ち上げたり啜ったり置いたりを繰り返している。動く気に成らないのだ。
 今朝に見た妙な夢の所為だろう。
 思えば狩りをして収集品を集める生活も久しい。初心者の当初こそ路銀尽きて行き倒れもしたが。それ以降法力を高める修行も重ね、自分はもはや安定した生活や高価な武具、果ては嗜好品の類にも手を伸ばせるまでの稼ぎを得る、一端の冒険者だと言うのに。
 それ程までの甲斐性を持つに至った自分が、奴隷に身を窶す夢にほの暖かさを感じたとは。
 自己分析を始めようにも取っ掛かりが無く、茶ばかり啜る。
 その時だった。
「首都ありますか?」
 声を掛けられるまで気が付かなかった。水路への転落を防止する柵の脇にちょこんと少女が立っている。玉を填め込んだ杖を携えている姿から魔法使いである事は容易に察せられた。彼女も所謂冒険者だ。
 首都ありますか。真面目に聞けば何を聞かれたか分からない様な台詞だ。大概の国に首都は定められておろうし、ありますかと問われればこの国にも有ると言わざるを得ない所だが。
 この場合、台詞の解釈には尋ねられた彼の職業が関わってくる。
 彼は聖職者である。聖職者の術の中には空間転移の術がある。それは低位の頃から習得可能な術なので、中位に属する彼ならば勿論使えるだろうとの推測なのだろうし、その通り使える。空間転移の術。すなわち彼方と此方の空間を繋ぐゲートを創り、人をくぐらせ、距離を無視した移動を可能にする術だ。だがその術を使うには、行き先の座標を記憶していなければ成らない。つまり。
 首都ありますか。
 彼女は、首都へ行きたいのだが空間転移の為の首都内座標記憶は貴方にあるのか。と聞いたのだった。これも冒険者言葉の一つだ。
「有る」
 簡潔に答えてやると、少女はほっと息を吐きながら、お願いしますと貨幣二枚を寄越した。謝礼金としては相場より数割ばかり高めだ。知った事では無いが、何か首都に火急の用事でも有るのかも知れない。
 受け取った男はにこりともせずに等閑な礼の後に椅子から立ち上がり、懐から取り出した術の媒介たる青い宝石を握る。
 尚、この宝石は使い捨てである。何故ならば……。
 石を握った右手の拳を左の胸に当て、瞑目した聖職者が口中でぼそぼそと呪文の詠唱を始める。
 空間と空間を繋ぐ。聞けば簡単だがこれ程に超常的な魔法も少ない。自然に在る物をあまりに大きく歪める力であるが故に、術者は自らの法力で生み出したその歪みに命を砕かれてしまう程だ。詠唱が終了し、地面から空間の摩擦地点たる光がオーロラの噴水の如く吹き上がると、移動に慣れているらしい少女は恐れもせず光に飛び込んだ。
「ありー」
 有り難う、の意味の冒険者言葉だ。
 少女の姿が光に掻き消える。男の左胸で力みに震える白い拳、その中で、バシリと青い宝石に亀裂が走る音がした。歪めた空間からの圧力にひたすら目を閉じ、耐える。
 この宝石は使い捨てである。何故ならば術者の命の代わりに術の反作用を受け、砕け散る物だからだ。
 やがて空間移動ゲートの光の噴出が止むと、男は脱力して真後ろの椅子に再び腰を落とした。
 だらりと背凭れに体重を預けて、ティーカップに右手を伸ばすと、その手の平からは宝石の成れの果てが白い砂の形でざらざらと落ちて流れた。渇いた喉を桃の香りで潤す。
 息を吐く。何だろうか、この疲労感は。術に因る消耗の所為では無い。
 近年、超常の力に慣れ過ぎた人々ばかりだ。自分も含めて。
 弾丸の様に飛び回る赤い蝿を一度も過たず撃ち抜く弓使い。徒党を成す亡者を一息に焼き尽くす大魔法使い。如何なる敵にも急所だけを狙い続ける事の出来る暗殺者。そして自分も。
 空になったカップの縁を人差し指で何とは無しに辿りながら、視線は在らぬ彼方に飛ばし、水音のするテラスで思想に耽る。水音すら聞こえなくなるまでに。
 この聖職者としての力。千切れた腕をも接合する程の異常なまでの癒しの力。幸運を唄い呼び、人の足に羽の軽さを与え、空間を操り……。けれど、だから何なのだろう。
 何故自分は聖職者なのだろう。なんだって何の為に。
 考え出すと、またぞろ今朝の夢を思い出した。
「奴隷で、なければ、か……」
 快活な奴隷商が自分を笑い飛ばす。
 奴隷じゃなかったらどんな人生をおくってたやら。
「聖職者、だよ……」
 では聖職者でなければ、一体……。
 そこまで考えて、唐突に立ち上がった。
「下らない」
 自分は何を考え始めていたのか。
 変わりはしない。奴隷でも、聖職者でも。日々生きる為に働くだけだ。そうしていずれ疲れ切った時に死ぬ、その時期が早いか、遅いか。それだけだろう。
 自分が何に不満を覚えているのかすら知覚出来ない。なのに何だろうか、この寂寥感は。
 立ち上がっては見たが、立ち去ろうにも行き先が無い。また座り直す姿も滑稽に思えて、しばし無言で立ち尽くして居た。
 と。
「にゅる?」
 背後で珍妙な男声が上がった。いつもの無表情のまま振り向いてみる。
「ん。久しぶりだな、副長殿」
 振り向いたそこに、自分と同じ制服の聖職者を見つけた。銀髪を額が全開するまで刈り上げたこの聖職者を自分は副長殿と呼んでいる。彼は某ギルドの副長であって、別に自分のギルドの副長という訳では無い。しかし、新米冒険者の時分に行き倒れて、その某ギルドの隊長宅に居候していた頃に、度々訪れる彼をそう呼ぶようになったのだ。
「この時間に起きとるのは珍しいのー」
 副長は方言のイントネーションを響かせて気さくに片手を上げ、近付いてきた。良かった。個人的に気まずかったこの場が保った。
「まあ、な」
 確かにこの時刻に起床する事も珍しければ、彼に会うのも珍しい。そう親しくない訳でも無い。会いさえすれば何かと話し込む間柄なのだが、会う事自体が希なのだ。
「そう言えば貴方とは狩りに行った事も無いな」
「そら、両方支援系やしな」
 そうだった。両者が支援系、つまり戦闘技能に長けた者の戦いを支えるのが役目の職だ。二人で支え合っても戦う者が居ないではないか。それでは狩りは出来ない。二人で狩りをした事が無いのは当然と言えば当然だ。しかし。
「そこを何とか、行ってみないか」
「ほ、ほんまかいな……」
「行くぞ」
 気紛れは得意技だ。副長の不安の滲んだ声を綺麗に無視して、彼は青い宝石を握る。

「で、なんでまた沈没船なん?」
 あっという間に現地に着いたのは聖職者ならではの身軽さだろう。空間移動ゲートを開いた後は短距離テレポートで目的地を探り、移動速度増加の魔法を掛けた足で走る。
 そうして着いた港町から、船で少々漕ぎ出した所にある小島。そこに座礁した古い船がある。そこは時計台と同じく魔物の巣窟になっており、当然そうで在る以上冒険者の仕事場でもあった。
 湿り気を帯びてぬめる床板を一歩ずつ注意深く踏み、海水に腐食した梯子を下りて、膝まで浸水した内部を進む。
 しかしまた何故に沈没船での狩りなのかと問う彼の疑問は尤もだ。
 両者が支援系冒険者なのであるが、それを押して攻撃を担当すると言うならば、癒しの力で亡者の類を浄化するか、もしくは聖なる光で闇を打つかの何れかが得策である。生命力豊かな海の生物の相手などは彼等が最も不得手とする筈なのだが。
「夢で船を見たからだ」
 と、男は平然と謎に満ちた台詞を宣って見せる。
「はあ……」
 開いた口が塞がらない。けれど別に構わない。支援系二名のみで出かけた時点で、どうせ元より稼ぎを期待しての狩猟では無いのだから。お遊びか親睦会がてらに格下のモンスターを打ちに来ただけの事だ。
 同じ職、同じような髪色、同じ服で、同じ効果の魔法を同時に詠唱し始めてしまって、何度も片方の呪文が無駄になってしまう事に顔を見合わせ苦笑いする。
 よく似た見てくれで、冒険者としての査定レベル、法力と技術力の高さを誇る戦闘スタイルまでが酷似している。そんな全く双子寸前の二人が、船室の壁際からすばしっこく這いずり回るフナムシ相手に滅却の祝詞を詠唱したくる。バンッ、バンッと音を立て、フナムシが一匹ずつ目には見えない聖なる光に灼かれてゆく。
「気分的にクレー射撃だ」
「信仰心の欠片もあらへん台詞やな。一応浄化しとるんやろコレ」
「まあな……。お…っと」
 膝の高さにある水面の下でスルスルと白い縄の様な物が此方に伸びてくる。そしてそれは踝に絡み付いてきた。長い触手が徐々に足を上って締め上げてくる。それは大した力でも無い。金属塗装をして固く鍛えたシューズを履いていれば、騒ぐ程痛くは無いのだが……。
「き……」
「気持ち悪い……」
 奇しくも二人の声が重なった。見れば副長も同様に触手に集られていた。
 白くぬめるチューブ状の軟体が収縮しては伸び上がり、ぞろり、ぞろりと太股をなぞって這い上がってくる。これは堪らない。
 触手の出所は八歩も離れた彼方の群生イソギンチャクの様だ。死に瀕する様な強力では無い物の、これだけ締め上げられては滅却の為の精神集中がままならない。数を増してゆく触手に腰まで捕まれながら、二人の聖職者は特殊な防御魔法を唱える。遠隔攻撃に対してのみ絶対的に有効な障壁を作る魔法が、世の中には存在する。
聖職者とは空間の魔術師である。媒介さえあれば大陸の端から端までも空間を繋ぐ事が可能であり、己が身一つならば念ずるだけでテレポートが出来る。そしてそれらの空間操作能力を高い精度でコントロールする事に因って、一歩分の距離さえあればそこに完全なる別空間を作成し、攻撃の手を存在しない彼方へ追いやる事すら出来るのだ。まあ、その一歩を詰め寄ってくる近距離型の攻撃にはまるで無意味な技な訳だが。
 二人の呪文詠唱が始まった。淡く光る空間障壁を完成し、水中を伸びてくる触手の先を此処では無い空間にやり込める。さて、反撃開始だ。
 ほぼ同時に障壁魔法を完成した二人は、ほぼ同時に滅却の呪文詠唱に取りかかり、ほぼ同時に詠唱を終えてイソギンチャクの群れを焼き尽くしてゆく。ふと、隣を見た。
 鏡を、見ている様な。
 やがて全ての触手が力を失うと、双方お疲れと声を掛け合って、壁際にしゃがむ。休憩だ。
「笑う程……」
「んや?」
「………」
「なんやな、気になるー」
 私達は似ているな、と。思った。
 大した事では無いと首を振り、お互い煙草も吸わぬ休憩時間に沈黙を持て余す。
 実際沢山居るのだ。聖職者も、銀髪も、法力型も、技術型も、支援魔法系も、その全部の要素を持った人間さえも。少なくとも此処に二人は居る。
 似た人間、同じ役目を果たせる人間が幾人も居る。
 別に自分が聖職者である必要性と言う物は無いし、何なら冒険者である必要性も特に無い。唯、こうして、日々生活資金を稼ぎ、消費し、また稼ぎ。そしてそれは独特の営みという訳でも無い。例え自分が何で在ったとて、そこに意味があったとは思えない。
 けれど、もし、だ。
「もし、聖職者で無ければ、何だったと思う?」
「それまた、むっつかしい質問やな」
 副長は唸ったが、彼は笑った。突然の問いかけにもはぐらかさず、誠実に応ずるこの副長の気質を好ましく思ったのだった。
「それを難しいと言わん人なら、聞く意味が無い」
 他人を答えの自動販売機にしてしまうこの自分の低思索能力を嘆きながらも、この人にこそ聞かねばと思った。自分の写し身の如き、この人にこそ。
 しばらく唸った後、副長は未だ唸りながらもこう言った。
「んー。聖職の副長がおらんってことは、もうそのまま副長はおらんってことやと思う」
 目が点に成る。盲点を突かれたと言うべきか。
「俺は結果として聖職になってしまった、のではなくて聖職になることを選らんだんやと思うのだ」
「………」
 違う。この人は違う。
「つまり、貴方が貴方である限りは聖職を選ぶので、聖職で無い貴方は存在しないのだな」
 改めて副長の姿をまじまじと見直した。同じ職、同じ性別、同じような体格に、同じような髪色、同じような能力、同じ呪文。だが、写し身などと飛んでも無い。
 私とは違う。彼は違う。
「うむ、そゆことね」
「で、では。先天的に聖職に成れない身であったとしたら、どうなのだ」
 言って少々後悔する。これは人様の意見の成立条件を潰し続ける稚拙な論議の口火ではないか。
「いや、答えなくとも構わない。下らない質問だからな」
「んー…」
 慌てて引いたが、尚も副長は生真面目にこの馬鹿げた口頭試問に臨んでいる。
「一言では言い切れんなあ……」
「そうか……」
 回答が無かった事に落胆しつつも、自らの失言を含むこの会話の終演にほっと胸を撫で下ろしたその時、
「ただ……」
 独り言ように、副長は呟いた。
「俺は隊長をバックアップするためにいるのだ。つーか、そう望んでいるのだな」
 その視線はフナムシの群れを見ているのか、煤けた壁を見ているのか、揺れる水面を見ているのか。それとも、もっと他の物を見ているのか。
 何処か誇らしげにすら見える副長の姿を、いつしか彼は眉間に皺を寄せて凝視していた。そこで不意にこちらを振り返られて肩を揺らす。慌てて顰め面を解いた。
 振り返った副長はいつもの気さくな口調に帰っており、ん、と一つ自信ありげに頷いた。
「職や生まれ持った能力がちがえど、それには変わりがないのではないかぬ」
 今、完全なる敗北感を味わっている。
「有り難う。良い答えだった」
 そう答えるのがやっとの体だ。
「まー、なんかの参考にでもなればよいべー」
 どっこいしょ、と副長は腰を上げる。
「そろそろ帰るかのー」
「……。そう、だな」
 質問よりも深い根底から覆された価値観に斬られながら、追って立ち上がる。
 いっそ清々しい程のうら悲しさだ。痛みを感じた様に頬笑んで、足下の一点を見詰める。
「ぬ。どうかしたんか?」
 気付いて副長が様子を見にやってくる。
「ああ、いや」
 存在感の無い透明な顔でもって、覗き込んでくる目を見返す。
「私も探すよ」
「……?」
「いや、良いのだ」
 怪訝を満面に浮かべる副長を置いて、一足先に首都まで帰還テレポートだ。彼は慌てて追ってくるだろう。彼が追いついたら今日の収集品を当分に分け合って、少しばかりの雑談をするだろう。そうしたら、また、と言い合って今日は別れる筈だ。
 その後、この隣にはきっと誰も居ない。
 適度に親しい友人と、適度に裕福な暮らしと。どうしてそれだけでは駄目なのだろう。
 居ない。明日命がけで守れらせてくれる相手も。
「私は何故聖職者なのだろう……」
 答えを言葉に纏めれば、足下から崩れそうな気がした。
 首都の広場に屯する冒険者達の間を縫って、ふらふらと十数歩進み、雲の色の前に立ち止まった。
 如何なる天のいたずらか、今ひととき虹色に輝いているそれに祈り、彼は今朝の甘く幸せな夢をそっと遠い所に閉じ込める。

                了
 
 
 

 
 
 

+α

 どうもー! 締め切り過ぎ(ェ)ハイテーンショーン!……です、今。
 それでは、皆さんのお題が出揃った所で、企画全体を通した後書きを。
 まずは、世の中舐めてるヘタレ全開字書きを、この様な晴れがましい場にお招き頂きありがとうございますーっ。
 さてさて、今回のお題制と言うヤツですが。わたくしの場合お題と言うのを出されると、お題の意図を読む所から始まってしまいます。意図を読んだ結果が出した本人の思うそれとは違ってイイんです。折角のお題なので、そのお題でなければ成らない事ってのを探ろうとしたいのです。そんで。
 『ゲームマスター』=プレイヤーとは違って世界の仕組みが弄れる。
 『レベル4武器』=作れない武器。なんかスゴい武器。
 ってな感じに、それぞれそのお題の特徴を出そうとしつつストーリーを考えてみますた。
 因みにわたくしの出させて頂きました『ギルド+一人称』ってのの出題意図は、その二条件を含む小説を書くと、必ず人情劇になるって事だったのですよ。ふふふ。皆さんの心理描写とかが見たかったのです。ぐふふ。
 で、今回のお題、『固有名詞禁止』ですが。これはつまり描写(特に魔法)の個性を出すとか、人物名意外で行動者を特定する技術力とか、そう言ったものが求められているのかと!(勝手に予想してですね)(そのとおりですby叶)わざわざ同性、同職、同髪色の二人とか出して、人物形容を名前代わりに使う技を自分勝手に封じてみるマゾっぷり!(やらんでエエ)嗚呼っ、でも思いっきし副長とか名付けちゃってるやん!(ガビーソ)ああ、まあ、コホン(汗)
 そんでどうせならROを知らない人にも読めるように心懸けて書いてみよっかな、と。(実際に読めるかどうかは知らん(ぇ)色々説明的になりすぎちゃったかしらん。
 で、名前も無いキャラを全く真っ白から作って動かすのはちょっとイメージ湧かんかったモンで、実はこの話、自キャラ登場の半実話だったりするのデース、HAHAHA。スイマセン吊ってきます。なんかガリガリ深読みせんとストーリーワケワカメな作品になっちまいましたが、これにて逃げっ。アハハハh…(ドップラー)
SKR 2003.12.08