※お題『固有名詞、禁止』
※kasamaru (RO-SAGA)
聳え立つ古い城、そして広がる庭園、その一角に少年が寝ていました。彼の頭部には包帯が巻かれていて、右足は接木で固定されて布の上に寝かされていました。少年は小さな寝息を立ててすうすうと眠っています。「……さて、どうしたものですかね」
賢者の男が言いました。
「見捨ててはおけません」
聖騎士の女が即座に言いました。
「おいおい、まさか連れて行くってのかぁ? こんなガキ、お荷物以外の何者でも無いぜ?」
悪い男は、露骨にいやな顔をし、冗談じゃない、と声を上げました。
「しかし、このままにしておくわけにもいくまい?」
修道士の男はチラリと怪我をしている少年の顔を見て言いました。
「……あの、でも、ここ、…その、あぶない、です」
控えめな声が聞こえました。錬金術師の女がおずおずと呟きました。
「そうだねぇ、ここらは凶悪な敵が多いからねぇ」
吟遊詩人の男が背後に聳え立つ巨大な城をみて、言いました。
「困ったものですねぇ……」
賢者の男は腕を組み、そしてこの状況の元凶である少年を眺めています。彼らの目の前に突然降ってきた少年。転移の魔法に巻き込まれたのか、はたまた偶然なのかは誰の知るところでは無いのですが、彼が彼らの関係にもたらしたものは、不協和音でした。ある者は少年をかばい、保護し、つれて帰ると言い出し、あるものは置き去りにし、本来の目的を果たすといい、そしてある者は、転移の道具を持たせて送還させればよいと言いました。
彼らの関係は、この場で収集品を集めるために一時的に協力しているだけの仮初の仲間達でした。
聖騎士の女と、修道士の男は連れて帰ると言いました。
悪い男は置き去りにすると、言いました。
錬金術師の女と吟遊詩人の男は送還させればよいと言いました。そして、賢者の男はどちらにつくまでも無く、ただ、思案していました。
「なぁ、よーく考えてみろ、俺達は足手まといを連れていて、まともに戦えるのか?いや、この城じゃそんな悠長なこと、言ってらんねぇな。いいか、俺達は生きて帰れるのか? この足手まといのガキを連れて。」
悪い男は言いました。
「だからさ、この羽を使って送還しちゃえばいいのさぁ、それで丸く収まるんじゃない?」
吟遊詩人の男はそう言って、皆を見渡したところで、
「この怪我です。もしもこの子が誰もいない場所を送還場所に記憶させていたら、きっとこの子は死んでしまいます、それに羽は人数分しか無いでしょう?」
聖騎士の女が口を開きました。
「……でも、私、死にたく、無い、です」
「同感だね」錬金術師の女が小さな声で呟き、吟遊詩人の男が続きました。
「ははっ、そうそう、死んじまったら元も子もねぇ」
ハッ、と鼻で笑い、悪い男は聖騎士の女と修道士の男を見て、
「とりあえずだ、連れて行く、行かない、で言えば、3対2だなぁ、お二人さん」
「貴方は? 貴方はどうなのですか?」聖騎士の女は先ほどから何か考え込んでいる賢者に問いかけました。
「ん、私は、今の所どちらにもつく気は無いよ、どうするか決まったら教えてくれたまえ」
「そんな、無責任な!」聖騎士の女は叫びました。
そのやりとりをみて悪い男はニヤニヤと笑いました。「なあぁ、いい加減にしようぜ? 連れて行きたくねぇって奴が3人いるんだ。一応仲間なんだからよ、尊重してくれや?」
「ですが!」
「さっさと狩って! さっさと稼いで! さっさとおさらばしてぇんだよ! こんなアブネェとこはよ! オマケにお荷物見つけてそのままお持ち帰りってか? あ、そのガキを人買いに売りつけるってなら話はべつだぁ、協力するぜ?」悪い男は、そういって短剣を抜き、
「……これ以上何か言うようだったら、悪いが、抜けてもらうぜ? あらかじめ言っておくが、勘違いするなよ? 抜けさせてもらうじゃねぇぞ? こっちの方が人数は多いんだ。貴様らが、抜けろ」
構え、修道士の男と聖騎士の女へと刃先を向けました。
「……クズめ」
修道士の男が呟きました。
彼の言葉に、悪い男はハハッと笑い、こりゃ参ったねと、にやついた顔で修道士の男へと向き直りました。そして一歩、二歩と近づいた後、変わらぬ表情でナイフを投擲しました。ナイフは修道士の男の喉へと突き刺さり、修道士の男はそのまま、倒れ伏しました。
一瞬の静止
「……なんて、なんてことを!」
そして戻る意識。聖騎士の女が叫びました。
「黙ってろ!」
再び投擲、ナイフは聖騎士の女の足へと突き刺さり、聖騎士の女はその場に蹲りました。
「元々切りのいいところで手前らぶち殺して稼ぎを頂くつもりだったんだ、まあ、ちょいと予定が狂って稼ぎをいただけねぇが、お前らのお古の装備品で我慢してやらぁ!」
ゲラゲラと、下品な笑い声を上げ、悪い男は蹲る聖騎士の女を見下ろしました。
「手前はしばらくそこで蹲ってろ」
悪い男はそういって、ただ、呆然と立ち尽くしている錬金術師の女と吟遊詩人の男へと向き直り、
「…いやぁ!」
「か、勘弁してくれよ」そう、叫んで逃げ出す二人を背中から、
「やめなさい!」
聖騎士の女が叫ぶと同時に、弓が引き絞られ、
「ハハハハハ、ハハハハハハハハ」
笑いながら放たれた矢は、吸い込まれるように逃げる二人の背中を貫き通しました。
「いっちょ上がりぃ」
悪い男は揚々と向き直り、賢者の男へと近づいていきます。賢者の男は、少年の側から相変わらず動かず、ただ、うつむいていました。
「まあ、そういうわけだ、賢者さん、アンタも死んでくれ」
にっこりと、そして口元は下品に吊り上げ、悪い男は。短剣を賢者へと向けました。
受けて、賢者の男は、言いました。小さな声で、そっと、呟くように。「……」
すると、悪い男はそのまま短剣を構えたままピクリとも動かなくなりました。
「ふむ、やはりか」
その様子を見て、賢者の男は言いました。
「どういうことです?」
聖騎士の女は、わけもわからず、問いかけました。
「とりあえず安心したまえ、この男は死んだよ」
賢者の男はそういって、ぽん、と悪い男の肩を押しました。ドサリと糸が切れたように悪い男は倒れ伏しました。
「運良く、即死が発動したみたいでね」
賢者の言葉に聖騎士の女は呆れました。
「なんて、魔法を…、召喚が発動したらどうするつもりだったのですか?」
彼女の言葉に、賢者の男はニヤっと笑いました。
「それは、無いね。うん。100%ないよ。」
賢者の男は言い切りました。何故ですか、そう、聖騎士の女が賢者の男に問いかけました。
「よくよく考えてみたまえ、この少年、なんでわざわざ私達の目の前に転移して来たと思うね? この広い、荒廃した城の中で。よりによって、我々の目の前に。」
「それは、単なる、偶然じゃ……」賢者の男は聖騎士の女に肩を貸し、体を起こさせ、そして治療を始めました。
「我々の仲間には、お人好しな君がいて、怪我の手当てまでしてくれて、そして連れて帰ろうというものがいて、そして君は生き残っている。これも偶然かね?」
「偶然というか、それ以外に、何があるのでしょう?」
「大体、今の今まで、敵が襲ってこない現状を不思議には感じないかね? 余りにも良すぎる、余りにもだ」
「……言っていることが、わかりません」
「運だよ。余りにも運が良すぎるんだ」きつく包帯を巻き、止血。
「起きているんだろう? 少年よ」
賢者は振り返り、少年に視線をやりました。
呼びかけられた少年は、パチリと目を開け、「いつ頃から気付きました?」
上半身をこちらへと向け、言いました。
「割と、最初からだね。君が現れてから、不自然さだらけだったからね」
「……へぇ?」
少年は感心したような声をあげ、賢者を見ました。「でも確信を持ったのはさっきだよ、あの魔法で即死の効果が現れたときだ」
賢者の男は楽しそうに言いました。
「私も、少しは武器に関する知識があってね、聞いたことがあるよ、所有者の望む望まないに関わらず、幸運を運んでくる、短剣の事を。」
その賢者の言葉に少年は、
「はは、その通りです、でも」
「そうだね、幸運を呼ぶ、というより幸運を作り出すためだけに、君の人生を強引に捻じ曲げている、といったほうが正しいのかな、それも、剣の都合で」
「……ええ。困ったものです」少年は苦笑し、言いました。
「僕自身、何もしている自覚はないんですよ。だけど勝手に剣が幸運を作り出すためだけに、色々なものを捻じ曲げていくんです。」
「やっかいだね」賢者の男が言いました。
「その、ご迷惑をおかけしました。」
ぺこりと少年は聖騎士の女へとお辞儀をしました。聖騎士の女は何も言うことができず、ただ呆けていました。
「それじゃあ、帰ろうかね、『幸いにも』人数が減って転移の羽の余分が出来たことだしね。」
「運の話・完」
+α
固有名詞…ない、ハズ。きっと、無い・・・ハズ。
そんなわけで着想
固有名詞禁止>あー、自由度たけぇ、>どんな風にROにこじつけるかなぁ>あーと、うーと、>書いちゃえ。
そんなわけでこんなんでました。最後のお題なのにこんな後書きでよいのか、というかなんというか。
お疲れ様!>皆様
さらに運営、更新お疲れ様です!>叶さん (実は、これ書いてる時点でまだ終ってないというオチですが)
へば、またどこかで。
kasamaru 2003.12.07