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武器のメンテナンス承ります by秋月ゆゆ

 ※お題『メンテナンス』
 ※秋月ゆゆ(言の葉堂本舗)

続き

【武器のメンテナンス承ります】

 商業都市アルベルタ。
 多くの冒険者が港から大陸に出る船に乗り、新たな冒険に出る場所。
 その港の一角に一人のブラックスミスが店を開いていた。
 彼の開いている店は少々風変わりだった。
 普段マーチャントや鍛治師、錬金術師が売るであろう回復補助の薬や、自分の銘の入った武器防具を露天出ししている訳ではない。
 かといってダンジョンで得てきた貴重な鉱石や魔物の武器防具を販売している訳でもない。
 工具と小さな看板のみを出し、彼はひたすら客を待ち続ける。
 その看板にはこう書かれていた。

[武器のメンテナンス承ります]

 昔から彼は壊れた物を治すのが得意だった。
 ブラックスミスになってからも、彼は精錬よりも修理をする方が好きだった。
 自分の武器も完全に崩壊しない限り、自分で調整して使っている。
 自分の特技を使って何か出来ないかと考えたブラックスミスは、メンテナンス屋を開くことを思いついた。

 アルベルタ港に店を構えたのも彼の考えだった。
 多くの冒険者がこの港から外海の大陸へ旅立つ。
 そうなれば、武器の点検も入念になるだろう…と。
 狙いは当たった。
 冒険者は面白い様にブラックスミスの元を訪ねる。
 そしてしっかりと調整された武器を手に取り、礼を言うのだ。
 ブラックスミスの方も趣味が生かせる上に、冒険者の持つ様々なレア武器を手にする事が出来るので、それがまた嬉しかった。

「ほいよ、束の部分の調整完了!」
 その日もブラックスミスは一振りの剣を調整し、騎士に手渡した。
 騎士は剣を手に取ると満足げに頷き、調整費をブラックスミスに渡す。
 そして自分の相棒である巨大鳥…ペコペコに跨ると、外海への貿易船に乗り込んで行った。
 やがて船は汽笛を鳴らし、外海の大陸へと旅立っていった。
 船を見送ると、ブラックスミスは[武器のメンテナンス承ります]の看板をカートの中にしまう。
 それと入替えにカートから煙草を出し、火をつけた。
 潮風に乗って煙草の煙が宙を泳ぐ。
「さて、次の船が来るまで一休み、と」
 カートに腰掛け、紫煙をフゥと吐いた。

 と。

「?」
 ブラックスミスは視線を感じ、感覚がする方を見た。
「よぉ」
 視線の主が判明し、ブラックスミスは軽く手を振る。
 そこには一人のノービスの少女がいた。

 少女はブラックスミスの元に歩み寄ると、腰に下げていた剣を鞘ごと彼に手渡した。
 ブラックスミスは慣れた手付きで剣を受け取ると、静かに鞘から引き抜いた。
「うっわ!」
 刀身を見、ブラックスミスは声をあげた。
 それはメンテしようも無いほどにガタガタになった剣だった。
「まーた無茶したんかー!」
 ブラックスミスは呆れた顔でノービスの少女を見る。
 膝や頬に応急処置の絆創膏を貼った少女はエヘ、と笑った。
「お前さ、ノビならノビらしく無茶すんなよー」
 苦笑しながらブラックスミスはカートから工具を取り出した。
「とりあえず、治せるトコまで治してやるよ」
 ブラックスミスの言葉にノービスは嬉しそうに微笑むと、ちょこんとブラックスミスのとなりに座った。

 アルベルタの空の下、金属音が響く。
 ブラックスミスの繊細な腕が刀身を見、柄の部分のチェックを始める。
 その姿をノービスはじーっと見つめていた。
「オマエほんとメンテ見るの好きな」
 真剣に調整をする様子を観察するノービスに、額の汗を拭きながらブラックスミスは笑っだ。
「そんなに興味あるなら、転職して俺と同じ職とかついてみねぇ?」
 ブラックスミスの言葉にノービスは目を丸くする。
「まずはマーチャントからだけどな。ま、オマエなら早いぜ」
 そう言ってブラックスミスは剣を鞘に戻し、ノービスに渡した。
 ノービスは嬉しそうに剣を抱きしめ、ニッコリ笑う。
「上級職になるまでココで商売して待ってやるから、さっさと転職しなー」
 ノービスの頭をワシワシと撫でながらブラックスミスは笑う。

 と、

 ブラックスミスの手が止まった。

「おー…」

 ブラックスミスの口から感嘆の声が漏れる。
「妖精の耳手に入れたのかー…すっげー」
 その声にノービスはうんうんと頷く。
 彼女の髪の間からヒョコ、とエルフの様な長い耳が現れた。
 その耳にはビタタの加護を受けたイヤリングがキラキラと輝いている。
「随分頑張ってるじゃん…今何歳だ?」
 ブラックスミスの問いにノービスは顔を赤らめ、耳元で囁く。
「うわ!俺よか上なのかよー!」
 負けてらんねー!とガッツポーズをするブラックスミスに、ノービスも真似をしてガッツポーズを取る。
 そして、自分のカバンから一枚ビタタカードを取り出すと、ブラックスミスに手渡した。
「毎度ありー」
 カードを指で軽く弾き、カードケースにしまうと、ブラックスミスはもう一度ノービスの少女の髪をわしわしと撫でた。
 ノービスは剣を大事に抱えると立ち上がりヒラヒラと手を振ると、タートルアイランド行きの船着場の方へ走っていった。

「さーて、俺も商売ばっかしてねぇで狩り行かなきゃなぁ~」
 アイツに負けたくねぇー!と明るく叫びながら、ブラックスミスは両腕を振り上げた。
 そして再びタバコに火をつけ、紫煙をフゥ、と吐いた。
「ま、俺がアイツのレベルになる頃には…アイツはオーラ出してるだろうけど…ナ」
 苦笑いをするブラックスミスの耳に貿易船の汽笛が響く。
 さーて忙しくなるぞ、とブラックスミスは大きく伸びをし、[武器のメンテナンス承ります]の看板を再び掲げた。


 メンテナンス…と聞いて思いつくのは製造系のBSとかゲームマスター(機能上でのメンテ)が主だと思い、「修理系のBSはマイナーかしら」と思い書いてみました。
 彼の店の常連になってる廃ノビ子(推定Lv90代)は、どうやらBSの事が好きみたいですよ…
2004.03.05 秋月ゆゆ(言の葉堂本舗)