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中途半端な僕ら。 by猫木

 ※お題『酒場』
 ※猫木
 
続き
 

神の祝福を受けたセイントローブに刺さる器用度を高めるカード。

片手に作業のしやすさと保護のためのグローブ。

首に下げたロザリーは赤々と燃える溶鉱炉の火を映し揺らめく真紅に輝く。

グロリアの歌声が火のはぜる音の支配した工房を満たし、グローブに包まれていないごつごつとした手がオリデオコンの輝きを宿す美しい金槌を握る。

準備のため火を入れられた炉のおかげで、工房の中は汗ばむほど暑い。
ブラックスミスの額から、汗が滴る。
きつく金槌を握り締めていた手はかすかな震えを見せている。

「……怖いのか」

グロリアを奏でる声が、短く問う。

「……まさか。」

短い問いには短い答えを。
しっかとした声が答えを導き、炎の色に染まった瞳が意思に爆ぜた。

「武者震い。支援頼む」

ブラックスミスが信じるものは人それぞれ。
プリーストの祈る神と信仰を同じくするものもあれば、クルセイダーと同じ信仰を持つものも。
珍しいところではアマツにいるという「ホトケ」という神に祈るものもいる。
願うものは唯ひとつ。

刹那の瞬間の、成功を!

『中途半端な僕ら。』

「……うううー、えぐっ……」

「大の大人がだらしの無い嗚咽を衆人環視のもと響かせるな」

時は少し流れ、工房近くの酒場にて。
すでに酔客さえも眠りの世界に旅立ち、まだまともな思考を残す客は家族のもと、あるいは、一人寝のベッドに潜り込む時間であるにも関わらず、ブラックスミスとその武具製造に携わっていたプリーストは酔客のいびきの響くカウンターでグラスを重ねていた。

酒は楽しく飲むもの、としているブラックスミスは常とは離れた荒い飲み方を繰り返している。ほぼアルコールそのままといえる透明な液体を立て続けに3杯飲み干した後、先の嗚咽交じりの泣き声をこぼし始めたのだ。

「俺のぷちつよ土スタナ……」

オリデオコンを使用しない、ブラックスミスの作成できる武具の最高峰スタナー。
オリデオコンの使用に関してはある程度経験・知識等によって熟練を望めるが、鋼鉄というどんなものにも変化する材料はごまかしのきかない正直な材料。
それに、属性という新たな力を封じ、なお星の加護まで練りこむというのはどれほど熟練したブラックスミスであれど躊躇いを禁じえない行為である。
鉄鉱石を鉄に打ち直し、その鉄を石炭と混ぜ材料にするまで丸一週間。
元の鉄鉱石を集めるところから換算した場合、挑めるまで相当の日数を費やしたことになる。
しかし悲しいかな、先ほど祝福の歌と、熱の篭る工房の中、ブラックスミスの集めた何よりも大切な鋼鉄たちは、見るも無残なくず鉄に姿を変えた。
自分の運と技量にブラックスミスは負けたのだ。

「そもそも無謀だったのではないか。お前は製造に秀でるわけでもなければ
 戦闘に秀でるわけでもない。」

グロリアを歌ったプリーストが残酷な真実を突きつける。
戦闘に秀でるわけでもなく製造に秀でるわけでもないブラックスミスは、俗に言う半製造。
戦闘も製造も、両者とも高みを極められるわけではない二極の中間地点にブラックスミスはいる。

「……まあ、お前がそうでなければ、私と会うこともなかろう……?」

プリーストの青い目が、ブラックスミスに合わせられたと同時に細められる。
言葉だけを聞くと男性のようなきつい話し方をするが、プリーストは女だ。

「完璧など、人にあっていいものではない。考えただけでゾっとする」

浮かべた笑みのまま、ブラックスミスと同じ透明な酒をあおる。
ごくりと上下した真っ白い喉に、酒のものではない赤みがブラックスミスの頬にさす。
法衣に包まれたその身体には、ブラックスミスでは適いようも無い力が秘められている。
彼女は俗に言う殴り型のプリースト。その細腕一本でどんな窮地も切り抜けていく。

「それで、納期はいつまでなのだ?お前のことだ。自分からそんなものに挑むとは思えない。」

「あ、ああ、納期ね……」

「無いのならばそこまで焦る必要も無いだろう。製造は賭けと一緒と笑い飛ばしていたお前らしくない。」

明確な納期は無かった。
どちらかといえば、極個人的なものに近かったから納期など無いといっても等しい。

「……一応、一週間後かな」

ブラックスミスが、最も神様に感謝する日。
目の前にいる愛しい彼女が、この世界に生まれた日。
完璧を厭い、自らの道を自らで切り開く。自らも、他人もとても厳しい人に。
自分にはあなたを守る力をもてないから、せめてあなたを守る武器を。

―――そのあなたに手伝ってもらったのに、失敗しちまったら言い出せるもんかよ!

「そうか。ならば一週間、お前のために空けておこう。」

笑んだ唇から零れた言葉は、一瞬アルコールの聞かせた幻聴かと思った。

「一週間後は私の誕生日だ。一本くらい、お前の銘の入った武器をくれてもいいだろう?」

細腕がブラックスミスのシャツを掴み、体ごと引き寄せる。

「女からねだるまで、受身でいるのでは一生もてんぞ……私以外には、な。」

強いアルコールに焼かれた頭はとんでもない幻覚を見せるものだ。
とてつもなくやさしくて、とてつもなく自分が惨めになる、夢を。
一体どこまでが本当で、どこからが幻覚なのかわかりゃしない。

「アンタに贈りたいから、作ってんだよ……っ」

幻覚に毒づくと、ぐるりと世界が暗転した。

ああ、やっぱり自棄とはいえあんなに強い酒に手を出すんじゃなかった。
夢とはいえ、あんな告白まがいのことを言っちまうなんて。
……まあ、後一週間への予行練習だとすればそう悪くない夢だったかな。

翌日、二日酔いの残る頭を無理矢理たたき起こされ炭鉱に連行された。
彼にとっては夢の話。
彼女にとっては現実の話。
以降の話はふたりの未来の話。

end


………えーと、酒場?ってどこのへんが?
なんかもうテーマがどこかにすっ飛んでしまいました、大変申し訳ありません!
他の皆様の名文に埋もれた駄文をお読みいただきまことにありがとうございました。
しかし、名文の「名」に比べ、駄文の「駄」は画数が多いこと多いこと……。
無駄が多いってことかな!アハハ!
……大変失礼致しました_| ̄|○
2004.04.18 猫木