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SS~たのしい家族計画

 
「い、いっかいくらいなら大丈夫だと思うぞ」

 ※ふーたん女の子注意 18禁

 
続き

 
 くちづけてぬがされてだきあってふれあって、さあこれからというところで望ちゃんが動きを止めた。
「ぬ?」
 望ちゃんは愛撫をやめるとズボンの尻ポケットを探り(いつも僕だけ脱がすんだこの人は)、ベッドの下にうち捨てられた上着をつかみあげ、そのなかをあさって、いかん、とつぶやいた。
「あれ忘れた」
 あれ。
 すなわちコンドーム、漢字で書くと男性用避妊具。
 特に頼んだ覚えはないのだけど、いつも望ちゃんが準備してくれてた。
 大事にされてる気がして、僕はうれしかった。
 切れてるのか切らしたのかは知らないけど、今はそれがない。
 望ちゃんは頭をガリガリ掻きながらジト目で僕を見る。
 僕の表情をうかがう。
「……なしでもよいかのう?」
 期待している。期待されている。
 深刻ぶってもほおがゆるみかけてるよ、望ちゃん。
 僕はどう答えていいのかわからなくてシーツをぎゅっとにぎる。
 こうして肌を合わせることすら、いまだに恥ずかしくてたまらないのに。
「ほらその、確率は低いし」
「……」
「い、いっかいくらいなら大丈夫だと思うぞ」
「……」
「ほれ、おぬしも危険日ではないはずであろう?だから特に問題は無いと思うのだ」
 沈黙を否定と受け取ったのか、望ちゃんの口数がどんどん多くなる。
 僕は内容の直球さかげんに耳まで赤くなる。
 恥ずかしくて涙がにじんだ。
「ふ、普賢?」
 望ちゃんはあわてて僕を抱きしめた。
 恥ずかしさに消えてしまいたくて、望ちゃんの腕があんまりあたたかくて、耳元で僕を呼ぶ声にうっとりして、胸がいっぱいで、あたまはめちゃくちゃで、気がつくと僕は声をあげて泣いていた。
「すまん普賢。すまん。悪かった、わしが悪かった」
 泣いていたのはほんのわずかな時間だったけど、望ちゃんを落ち込ませるには充分だったみたいだ。
 望ちゃんは普段の冷静さがウソみたいにおろおろしてて、僕はこっそりそれを小気味良く思う。
 ひとしきり謝り倒したあと、望ちゃんは体を起こして服を着込んだ。
 なんだか悪いことをした気がして、僕は望ちゃんの服の裾をひっぱる。
「買ってくる。しばらく待っておれ」
 僕は望ちゃんの服の裾をひっぱる。
「普賢……」
 望ちゃんは弱った顔で僕を見る。
 おあずけを食らった犬みたい。
 目のくりくりしたおりこうさんな顔つきの。
 ちょっとかわいい。
「あのさ、その……なくてもいいよ……」
 自分の言葉に、頬が火照る。
 きっといま、つま先まで真っ赤だ。
「……普賢」
「へいきだよ、僕。それに……」
 その先がどうしても言えなくて、僕は口をパクパクさせる。
 望ちゃんがおりこうな犬なら、僕は酸欠の金魚だ。
 うつむいてしまった僕のために、望ちゃんはひざを折って顔を寄せてくれる。
 やさしい。
 何気ない仕草に、僕への想いが宿ってるのがわかる。
 僕の言葉を聞きもらすまいと、むけられるまなざしは真剣そのもの。
 黒曜石のように、静かに澄んで光ってる。
 こんなにやさしい君に、僕は二度も巡りあえた。
 だったら僕も言わなくちゃ。
 察してくれるまで黙ってるなんて、フェアじゃない。
「望ちゃんとの子どもなら……ほしいな……」
 がんばって押し出したのに、僕の声は蚊の鳴くようだった。
 だけど、ちゃんと届いた。
 望ちゃんはおどろいた様子で、ぽかんと目を見開いている。
 半開きになったくちびるが、ゆるゆると笑いの形になっていき……
「ははは……はははははは!」
 望ちゃんは爆笑した。
「ははは!そうかそうか、はははははははは!」
 望ちゃんは勢いよくベッドにダイブして僕を押し倒した。
 突然の出来事に硬直してる僕に、キスの雨をふらせる。
「わしの子を孕むのはおぬし以外におらんわい」
 望ちゃんが僕の顔をのぞきこむ。
 息がつまりそうになったのは、ぎゅうって抱っこされたからだけじゃない。
「……0.000000003%だっけ」
「そのとおり。33,333,333,333回もすれば一人は身ごもる計算だな」
「まさかとは思うけど」
 おそるおそる聞く僕の言葉をさえぎって、望ちゃんはにんまり笑う。
「2人、いや3人はほしいのう。もちろんおぬし似の女の子だぞ」
「……0.000000000000000000000000027%の、さらに半分」
「理論的には可能だ!」
 心底愉快そうに、望ちゃんが笑う。
 0と3と9が脳を乱舞する。
 蝶のように渦巻く数字のその先に、こどもたちに囲まれてる僕らがちらりと見える。
 限りなくありえない未来。
 頭ではわかってる。
 なのに、どうしてこんなに焦がれるんだろう。
「なに、たったの2,000億回」
「それって”たったの”で済ませていい数字かな」
「あっという間よ。のう?」
 望ちゃんが、かつて望ちゃんだった想い人が、僕の頬をなでる。
 不老にして不死たる最初の人と、不死にして不老の神である僕。
 鵬の翼のような、黒いマントが僕を覆う。
「時間など腐るほどあるよ。わしの子の一人や二人、ゆうに望めるであろう」
「……そうだね」
 僕は望ちゃんを抱きしめる。
 望ちゃんが僕を抱きしめる。
「つきあってもらうぞ、へばるなよ?」
「そっちこそ」
 笑う、僕ら。

 何よりも楽しいうつつに遊ぼう。
 忙しくて夢など見る暇もない。
 限りない生を、終わりのない日々を、どうせなら面白おかしく。
 こころゆくまで。
 流転する万物の中、永久の孤独を共に往こう。