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SS~変ゼルとグレてる

 
 「うむ。おぬしと同じとは腹立つが、わしもそう思っていたところだ」

  ※童話改変ネタ。望と王天と。ちょいブラック。

   ↓

続き

 
 むかしむかしある古代中国に太公望と王天君という双子の男の子がおりました。
 双子の家は昔は大変な豪邸だったのですが、パパンこと紂王がママ母妲己を娶ってからは濁流に飲まれた泥の城のように落ちぶれていき、いまでは森の片隅にある粗末な小屋で親子4人細々と暮らしていました。
「紂王サマーん。これ以上贅沢ができなくなったら妲己死んじゃうん(ハァト)」
「そうだな!どうせ継ぐものもないのだからあの二人は必要ない!」
「さすが紂王サマん、思い切りがいいわぁん。ヒューホホホ!」
 かくして太公望と王天君は、ある晴れた秋の日に、固い黒パンひとつ持たされて森の奥に捨てられることとなりました。

「かーかかかか!ブドウの木発見!おおアケビもあるではないか!天国よのう!」
「おっと、かわいそうな子ウサギちゃん。悪いが俺らの晩飯になってもらうぜ……」
 森の奥に捨てられた双子は、無駄知識と無駄行動力を駆使してそれなりにサバイバル生活をエンジョイしておりました。
 しかし実りの季節の後には冬がくるものです。
 双子はそのことをよーくわかっておりました。
「なあ王天君よ」
「なんだ太公望」
「このままではわしらは冬を越すことが出来ぬな」
「ああ、大問題だ。こんなとこでくたばる気はねぇぜ」
「わしとて同じだ。しかしあの家に戻ったところでろくなことはないであろう」
「ここはひとつ森を抜けて人のいるところを探してみねぇか?」
「うむ。おぬしと同じとは腹立つが、わしもそう思っていたところだ」
 そんなわけで双子は日持ちのしそうな食料を集めて荷造りすると、さらに森の奥に分け入っていったのでありました。

 何日もかけて歩いているうちに、森の中に居心地のよさそうな場所を見つけました。
 鬱蒼とした木々の中でそこだけぽっかりとひらけており、緑の草原にかわいい花々、近くには小川が流れていて涼しそうなせせらぎが聞こえてきます。
 なにより双子の目を引いたのは、草原のまんなかにたっている小さな家でありました。
 なんとその家は、どこもかしこもお菓子でできていたのです。
「疾ッ!」
「奢ァ!」
 双子はどこからともなく取り出した宝貝で家屋破壊に走りました。
「う、うまい!うまいぞおおお!」
「ふん、これはゴディバだな。
 こっちのクッキーはステラおばさん、それにモーツァルトのマドレーヌか。
 なかなかいけてるチョイスじゃねぇか」
 次から次へ手あたりしだいにもっちゃもっちゃ食い散らかしていると、玄関らしきドアがひらいてだれかがあわてて飛び出してきました。
「こ、こら!僕が出てくる前に食べつくしちゃダメでしょ!」
 水色の髪のほそっこい人でした。
 黒くて長いマントを身に着けていて、頭にはとんがり帽子をかぶり、手には杖を持っています。
 双子を見つけると、めっとばかりににらみつけました、が。
「ああん?」
 逆に王天君にものすごいガン飛ばしをされて怖気づきました。
「なんだてめぇは」
「え、えっと、僕は普賢です。こ、この森で魔女をやってますっ」
 言われて王天君は思い出しました。
 ママ母妲己が、この森には人をとって食べる魔女がいるから子供を捨てるには絶好よん、と言っていたことを。
 なんだか頼りなさそうですが、目の前のこの人がそうなのでしょう。
 王天君はとなりの太公望に目配せをしました。
「……かわええの~……」
 太公望は口のまわりをチョコやバターやクリームでべたべたにしたまま普賢に見とれていました。
 当然王天君の目配せにはきづいていません。
 仕方なく王天君は普賢に向き直りました。
「おいアンタ、人食い魔女ってのはアンタのことか?」
「あ、うん。僕だよ。こないだ代替わりしたばかりだけど……」
「この家はアンタが作ったのか?何度でも作れるものなのか?」
「う、うん。この杖を使えばね」
「それってだれでも使えるのか?」
「修行すれば、まあ、一応……」
 やりとりを聞いていたらしい太公望が、王天君の肩をがしっとつかみました。
 そのまま普賢に聞こえないよう、小声で会話をします。
「なあ王天君よ」
「なんだ太公望」
「森を抜けるまでどのくらいかかりそうかのう」
「そうだなぁ、2~3週間はかかるんじゃねぇの?」
「抜けたとしても町に出れるかのう」
「保障があるわけじゃねぇなぁ」
「森の中にはまだまだたくさん食べ物があるのう」
「お菓子の家は何べんでも作り直せるみたいだなぁ」
「わしはここが気に入ったし、そこの魔女も気に入った」
「てめぇと同じってのはムカつくが、奇遇だな、俺もだ」
 ニタァと笑う双子はどう見ても悪役でした。

 一月後のことです。
 元森の魔女こと元始天尊が、弟子の様子を見に来ました。
 窓からのぞくと、お菓子の家の中ではちょいとばかり身の毛もよだつ光景が繰り広げられていて、かわいい弟子はすっかり骨抜きにされておりました。
『見なかったことにしよう……』
 元始天尊は薄情にもそう考えると森を後にしましたとさ。
 とっぺんぱらりのポーゥ!(マイケル)