「不敬者が」
※望普で木普・痛くて寒い裸エプロン 18禁
※禁断の望ちゃん女体化・ふーたんもおんなのこ・木咤マジかわいそう
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薄暗い部屋から寝台のきしむ音がしている。
掛布の下に師の体を引き込んで、夜目にも白い肌を木咤は味わっていた。
「……師匠、キスしていいでやすか?」
「だ……め……それより……きて……木咤……」
いつもと同じ失望が木咤の胸に広がる。
だがそれ以上に腕の中から聞こえるとろけた声が、木咤を煽る。
涙のにじむ師のまぶたを指先で撫でると、木咤は細い腰を抱え込んだ。
その時。
ダン!ダン!
門扉を無遠慮に叩く音が響いた。
「もく……たく……」
つい動きを止めた木咤に、師が涙ながらに続きを哀願する。
木咤は無視を決め込んで師匠の体を抱きしめる。
ノックの音がひと時やみ、さらに強い勢いで叩かれる。
「わしだ!普賢、今帰ったぞ!」
「望ちゃん!?」
門のほうから聞こえた声に、普賢は木咤を突き飛ばした。
「い、てぇ。師匠……」
抗議の声もどこふく風。
普賢は脱ぎ捨てられた道服をひっかけ、帯もせずに廊下へ飛び出す。
まっすぐに玄関へ向かって扉を開けた。
「おかえり、望ちゃん」
扉の向こうに立っていたのは、師に心を奪われた木咤でさえ、目を見張るような美少女だった。
整った顔立ちにふっくらとしたやわらかそうな頬。
ターバンになかば隠された黒髪は男のように短く刈られているが、手を伸ばしてみたくなるほど艶めいていた。
そのくせ底知れない暗い瞳が夜の海のようで、近寄りがたさを感じさせる。
並外れて明晰な頭脳に仙界すべての期待を受ける、封神計画の遂行者。
太公望その人であった。
太公望は寝室から姿を見せた木咤を見やり、半裸の普賢をながめて笑う。
「なんだ木咤と寝ておったのか」
「うん、待たせてしまってごめんなさい」
「かまわんよ」
そう言うと太公望は普賢の腰を抱き、深く口付けた。
舌のからむ水音が響き、木咤はあわてて目をそらす。
「ん、あいかわらずおぬしの唇はよい味だ」
「ありがとう」
「木咤、普賢を借りるぞ。おぬしはどこへでも行っておれ」
平然と言い放ち、太公望は普賢の腰を抱いたまま寝室に消えた。
残された木咤は面白くなさそうに寝室の扉をにらんでいたが、ため息ととも廊下の奥へ歩み去った。寝台の上に普賢を座らせ、太公望はその服を脱がせる。
もとが半裸だ、たいした手間もなくすぐに普賢は一糸まとわぬ姿になった。
白い肌の上には、木咤がつけた所有の印がいくつも浮いている。
数歩下がって値踏みするように普賢の全身を眺め、太公望はあごをつまんだ。
「いまひとつ育たんのう、おぬしは。ちゃんと木咤に揉んでもらっておるのか?」
「一応、毎晩……」
「もうすこし肉をつけろ。細いだけでは男は喜ばん」
「気をつける」
「なまぐさを食うのが一番だが、そうもいかんしな」
太公望は頭をふると普賢に近づいた。
その顔を上向かせ、接吻する。
遠慮なく狭く熱い口腔をむさぼる太公望に、普賢も懸命に応える。
「……よい味だ。男どもが皆おぬしのような唇ならばな」
普賢から離れると、太公望は満足そうに言った。
「それはいやだな」
「ん?」
「だってもしそうなったら、もう望ちゃん僕のところに来てくれないでしょう?」
太公望は声を立てずに笑い、普賢の頭をくしゃくしゃとなでた。
手早く自らの衣服を脱ぎ落とし、うすい下着の上下だけになると、寝台に寝転がる。
形のよい乳房やキュッとあがった小尻を、普賢はうらやましげに眺める。
「普賢、のどがかわいた」
「うん」
普賢は卓上の水差しからコップに水をくむと口に含んだ。
当然のように太公望が普賢を引き寄せ、唇を重ねる。
普賢の体温を含んだ水が太公望ののどを潤す。
普賢は太公望に水を与えながら、やはり卓上にあった菓子入れを引き寄せた。
ふたをあけて干菓子を取り出す。
太公望はさしだされた菓子をつまむかたわら、普賢の唇もついばんだ。
何度も何度も、触れるだけのものから深く長いものまで、キスを繰り返す。
普賢は求められるままに太公望に水と菓子と唇を与え、自分も菓子をつまむ。
「水菓子も食いたいな。桃はあるか」
「台所だね。とってこようか」
「頼む」
短い会話の後、普賢は体を起こした。
掛布のうえに脱ぎちらかされた道服を着込もうとして、その手を太公望に止められる。
「たいした道のりでもあるまい」
いたずらっぽい声の響きに、普賢は恥ずかしそうに目を伏せていたが、やがて腰を上げた。
「……すぐ戻ってくるから」
生まれたままの姿で普賢は太公望を振り返った。
そのまま扉の向こうへ姿を消す。
太公望はくすりと笑うと目を閉じた。暗い廊下を普賢はひとりで歩いていた。
明かりはなくとも自分の洞府、目をつむっていても歩けるが、今は夜気が直接肌に触れてどうも落ち着かない。
誰が見ているというわけでもないのに気恥ずかしくて、つい闇の先に気配をうかがってしまう。
『いじわるだなあ、望ちゃんは』
だけどこの後にはごほうびが待っている。
太公望は意地が悪いけれど、ごほうびを忘れたことはない。
抱きしめてキスをくれて、頭をなでてくれる。
いい子だとほめてくれる。
幼い頃、初めて会ったときから、太公望はずっとそうだ。
ぬくもりに飢えていた普賢にとって、太公望のくれるキスは甘露のようで、夢中で求めるうちに虜になっていった。
いいように使われているだけだと、木咤はいつも言うけれど。
『これが望ちゃんの愛し方なんだよ、きっと』
誰も信じられない孤独な少女の、おそらくは精一杯の。
その程度には自惚れていいと、思っている。
台所についたので明かりを探る。
触れるだけで光をともすランプに火を入れると、部屋の中が一気に明るくなる。
目をしばたかせた普賢は人影を認めて血を凍らせた。
「師匠……」
「……木咤」
蛇口をひねろうとしたまま硬直しているから、水でも飲みにきたのだろう。
ぽかんとして止まったまま、木咤は普賢の裸体を見つめている。
「あ、ご、ごめん」
頬に朱が上り、心臓が飛び跳ねる。
普賢はとっさに手近にあったエプロンを体に巻きつけた。
「……」
気まずい沈黙の中、普賢は戸棚を開けて桃を取り出す。
場違いに爽やかな香りが胸に痛い。
桃を抱いたまま流しに近付いたが、木咤はどいてくれない。
「……木咤、そこをあけて」
「……」
「望ちゃんに桃を持っていってあげたいんだ。食べやすいように皮をむいてね。だから、どいて」
「……」
怖い顔のまま木咤は普賢をにらんでいる。
しかたなく普賢は木咤を無視して流しに立った。
すぐとなりの体温が怒気をはらんでピリピリしている。
そちらに視線を向けないように気をつけながら、桃に包丁で切れ目を入れて、するすると皮をむく。
普賢の両手が桃の汁で濡れ、甘い香が広がった。
「……どうして」
ぼそりと木咤がつぶやく。
「どうして、そこまでしてやるんでやすか!」
「木咤!?」
うしろからきつく抱きしめられ、普賢は桃を取り落とした。
熱いからだが普賢の背中に押し付けられる。
「ありえねえでやすよ!いくらガキの頃からの仲だって、こんなのはありえねえ!」
「木咤……」
「目を覚ましてくだせえ、師匠!師匠はあいつに食い物にされてんだ!
あいつは師匠のこと、犬か猫ぐれえにしか思ってねえでやすよ!」
「木咤」
硬い声が木咤の耳を打つ。
「放しなさい」
「師匠……」
「聞き分けがいいのがおまえのとりえのはずだよ」
「師匠……!」
木咤は普賢の手から包丁を取り上げ、テーブルの上に押し倒した。
「俺にだって、俺にだって意地ってもんがありやす……」
木咤の顔が普賢に近づいてくる。
何をしようとしているのかは一目瞭然だった。
「木咤、ダメ!」
木咤の接吻から逃れようと、普賢は必死に顔をそらした。
この唇は太公望のものだ。
他の者に与えたりしたらどんな仕置きを受けるか知れたものではない。
だが抵抗しようにも両手は木咤によって捕らえられている。
ぬるつく桃の汁も、がっちりと押さえこんでくる若い腕にはかなわない。
「師匠……ちゃんと俺の恋人になってくだせえ、いまのままじゃあんまりだ……」
「不敬者が」
氷点下の声が鼓膜を叩いた。
「遅いから様子を見に来てみれば。木咤、いたずらが過ぎるぞ」
木咤の体の下で、普賢がほっとしたように望ちゃんとつぶやいた。
はらわたの底が嫉妬で燃える。
「あんたなんかに師匠はわたさねえ」
太公望は片眉を上げて木咤を見やった。
はすっぱな表情でも、この暗い目の少女ならば美しい。
だが今は見とれるわけにはいかなかった。
「師匠は渡さぬ、か。おぬし少し勘違いをしておるようだのう」
大げさにため息をついて、太公望は木咤に歩み寄った。
「これはもともとわしのものだ。今も、唇と魂はな。
ひとり寝の出来ぬ子どもの相手によかろうとくれてやったというのに。
妄言を吐くならいつでも返してもらってかまわんのだぞ」
「師匠を愚弄するな!」
「師を犯そうとしている弟子のセリフではないな」
「あんただって似たようなことしてるでやんしょう!」
太公望はあきれたように首をふった。
「誓ってやましいことはしておらぬよ。触れるのは唇くらいなもの。
なにせ普賢には、わしが欲しい男に嫁いでもらわねばならんからな」
「……最低だ、あんた」
「わしはわしなりに普賢の幸福を考えておるよ」
封神計画の次にな、と彼女はつけくわえた。
「文句があるなら玉虚宮へ来い」
冷えきった視線と熱に狂う視線がぶつかる。
しばしのにらみあいの後、そらされたのは熱をはらんだ視線だった。
ぎりぎりと歯噛みして、木咤は普賢を解放する。
「木咤……」
すれ違う際に、普賢は彼にだけ聞こえるようにつぶやいた。
ごめんね、と。
『そりゃ卑怯ですぜ、師匠』
木咤は苦い笑みで口元をゆがませる。
みじめだった。「望ちゃん」
「なんだ」
「木咤のこと、あまり怒らないであげて」
暗い廊下を太公望について歩きながら、普賢はその背にすがる。
太公望はふんと鼻を鳴らした。
「わしにケンカを売るとは骨のある道士ではないか。
向こう見ずだが馬鹿なふうでもない、よい戦士になるだろう。
もうしばらく相手をしてやれ」
「ありがとう」
普賢は胸をなでおろした。
「まったく。唇と魂以外は好きにさせてやっているというに、なにが不満かあの若造は」
ぶちぶちとひとりごちる太公望に普賢は笑みをこぼした。
「妬いた?」
「まさか。無理にでもおぬしをどうこうしようとしたのが気に食わんだけだ。
嫁入り前の肌に傷でも残ったら価値が下がるわ」
「いつもそういうこと言うけど、望ちゃんはまだ一度も僕を使ったことないよね」
「……」
「いいんだよ、遠慮しなくて。望ちゃんが決めた人なら、それが誰であっても僕は心から愛せる」
「……予想外にコトがうまく運んでいるだけだ。
最初は雲中子か楊ゼンに嫁がせようと思っていたが、雲中子は太乙がおさえてくれる事になったし、楊ゼンのほうは今わしに夢中だからな。
背後は固まった、おぬしを使うほどの相手もおらぬ」
「なんなら金傲島にいったっていいんだよ?」
「ほう、それは面白い案だな。考えておこう」
太公望の低い笑い声が闇に吸い込まれて消えていく。
やれとひと言命じれば、普賢は通天教主すらたぶらかすだろう。
出し抜けにふりかえった太公望は普賢の肩を抱いた。
普賢もまたその細腰を抱き返す。
「普賢、おぬしはわしの切り札だ。その時が来るまで、ここでわしを待つがいい」
「うん、望ちゃん」
寒気のする言葉を吐きながらも、太公望の体温は清潔で心地よい。
厚い鎧に覆われた彼女の魂の本質を、普賢は知っている。
孤独におびえて一人泣き続ける少女。
『僕は君が救ってくれたけど、君は誰が救ってくれるの?』
太公望の言うままに男のものになることは怖くない。
ただ、一人残された彼女がどうなってしまうのか。
こんなふうに、情欲からではなく、ただ抱きしめてくれる相手を失ってしまったら。
「望ちゃん」
「ん?」
「好き」
「わしも好いておるよ、普賢」
「僕がどうなっても、君がどうなっても。忘れないで、それだけは」
「……」
太公望は返事をしない。
無言のまま、普賢と唇を重ねた。