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SS~新年好!*シンニエンハオ!*

 
「まあ、雲中子師兄。太公望師叔をご存知ありません?」

 あけおめSS・なぜか雲中子がメイン

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「まあ、雲中子師兄。太公望師叔をご存知ありません?」
 本日6度目の問い。
 酔いのあらわな仙女の媚を含んだ物言いに、雲中子はけむたげに眉を寄せた。
「知らないね」
 本日6度目の同じ答えを返す。
 ぶっきらぼうな物言いだが、仙女は気を悪くした様子もない。
 きゃらきゃらと華やかな笑い声を残して去っていく。
 山の端にかかった太陽は蜜柑色。
 仰々しい新年の儀式は既に済み、玉虚宮ではそこかしこで宴がひらかれ騒々しいことこのうえない。
 歌に踊りに舞い散る花々、耳と目を惑わすきらびやかな美男美女。
 肴が散らばり、酒瓶と人影がそこかしこで寝転び、踏まないように気をつければ進むだけでも一苦労。
 普段は禁欲を絵に描いたような仙道らも、この日ばかりははめをはずす。
 不埒な笑みをかわしあい、手をつないで物陰に隠れるやからを雲中子は視界の端で見送った。
「あら、雲中子師兄。太公望師叔を……」
「知らないね」
 呼び止めた相手を振り向きもせず、雲中子は応えを返した。
 探しているのはこちらも同じだ。
 今朝の儀式で仙道名を賜った元始天尊の一番弟子、太公望こと呂望がさきほど姿を消した。
 宴の主役のひとりのくせに、玉座に座る師匠の脇で酒をかっくらっていたかと思えば、ふいといなくなった。
 かくして雲中子は、新年早々太公望を捜し歩くはめになったのだ。
 とっとと用件を済ませてラボに帰りたいというのに。
「ねえ、雲中子師兄。太公……」
「知らないね」
 酔いつぶれた道士をまたぎ越し、邪魔な小皿をつまさきで蹴飛ばしているうちに、雲中子は玉虚宮のはずれにまでたどりついてしまった。
 時折すれ違う花冠らも太公望を探しているようだ。
 酒の勢いを借りて、なにかと噂の一番弟子を口説き落とす腹積もりでいるらしい。
「これだけの人数が探して居ないとなれば、会場をあとにしているということかね」
 そうひとりごちた雲中子が何気なく視線を上にやると、中二階の箱席あたりに見慣れたからし色の道服がのぞいていた。
 どうやら彼は、かくれんぼが得意でないらしい。

 狭い階段を登って中二階へたどりつくと、ようやく望んだ姿を見つけることができた。
 誰もがうらやむ地位と才能と、ついでに容姿の一番弟子殿は、なぜかぶすくれた顔でひとり盃を傾けている。
「悪い酒を飲んでいるね」
 雲中子が隣に腰をおろしたが、太公望は返事もしなかった。
 迷惑そうに位置をずらして、雲中子から距離をとる。
「えーと、とりあえず昇格おめでとう、太公望殿」
 祝いの言葉にも太公望は無視を決め込み、黙々と桃をかじっては、手酌で酒をあおっている。
 だがこれでたじろぐ雲中子でもない。
「宴の主役が席にいないってのはよくないね。
 おかげで探すのに手間取ってしまったじゃないか」
「おぬし、愚痴を言いに来たのか?」
 長く息を吐き、ようやく太公望が雲中子に視線をやった。
 吐息は酒くさいが、酔っている風でもない。
 その眉間にはっきり刻まれた縦じわを目にして、雲中子は鼻で笑った。
「当ててみせようか」
「何を」
「不機嫌の理由を」
「ほう」
 太公望が盃をあげて不遜に笑う。
「ずいぶんと自信ありげだのう。おもしろい、やってみせよ」
 十二仙からはずれているとはいえ、仮にも先輩を相手にこの態度。
 さすがは仙界きっての腹黒ジジイが目に入れても痛くないほどかわいがるだけある。
 生意気な彼を雲中子は好ましく思い、早々に切り札を出すことにした。
「普賢がいないから」
 目の前の余裕の笑みが一気に引きつる。
 本人は取り繕ったつもりだろうが。
「な、何を根拠にそんな……」
「せっかく昇格したのに普賢が祝ってくれないから。
 式にもお披露目にも祝賀会にも来てくれないから」
 たたみかけると敵はあっさり黙りこんだ。
 盃に残った酒をがぶりとひとのみにしている。
「普賢なら乾元山だよ」
 太公望が手を止め、体ごと雲中子を向いた。
 目がらんらんと輝いている。
 策士のくせにこういうところは案外わかりやすい性格らしい。
 雲中子はこめかみをこりこりと掻きながら続けた。
「太乙の大掃除を手伝いに来てくれたのはいいんだけど、そのままふたりしてラボにこもっちゃってねえ。
 楽しみにしていた正月休みを邪魔されて、私としても非常に迷惑してるんだよ。
 君、とっとと引き取ってくれないか」
「うむ」
 あっさりした返事と裏腹に、太公望は盃を放り投げて立ち上がった。
「そういうことなら急がねばなるまい。さらばだ、雲中子」
 ひらひらと手を振ると、彼は宴の席へひょいと飛び降りた。
 下からいくつか悲鳴が聞こえるが、まあたいした問題ではあるまい。
「あのぶんだと乾元山直帰でよさそうだね」
 雲中子は残された大皿の上から、桃を3つ失敬し、懐に入れた。