「わー!」
「わー!」
※>>新年好!とリンク。バカッポーゥ。12禁くらい。
↓
「うーんやっぱり、私はここの回路があやしいとにらんでるんだけど……」
「でも、そこはさっきもチェックしましたよね?
もう少しとなりのチップについて調べたほうがよくないですか?」
乾元山は金光洞、宝貝オタク太乙真人のラボ。
洞府の主と道士普賢がテーブルを囲む。
長く伸びたコードの終点にでんと据えられたのは金傲島産新型宝貝だ。
すでに外壁を解体され、好奇心丸出しの二人の前に中身を晒している。
「ちょっとまって、普賢。このチップの奥にもうひとつ部屋があるみたい。開いてみるから記録しといて」
「了解、3枚とります」
普賢は手にしていた射影機をかまえ、真上と真横、ついでに斜めから写真を撮る。
シャッター音が消え去る頃、すでに太乙は作業に取り掛かっていた。
こんなときだけ流麗な手つきで次々と取り外される部品を、普賢が太乙から受け取り、ビニールシートの上に等間隔に並べて番号を振っていく。
「ふふふ、隠し回路のお目見えかなー」
「うふふふふー」
にたにた笑いながら宝貝をのぞく二人はとてつもなく楽しそうだった。
「オープン!せ!さ!みッ!」
掛け声とともに景気よく蓋をひらくと、そこには見たこともないような複雑な回路がずらりと並んでいた。
「わー!」
「わー!」
仙道二人、目をキラキラさせながら宝貝にかぶりつく、さながら子どもの如し。
「すごーい!わー、これいい!ああ、いじりたい!ばらしたい!分析したい!」
「解析しがいがありそうですね太乙様!」
「だねっ!」
太乙が新たな工具を手にし、普賢が記録のために射影機をかまえる。
いざ未知なる大陸へ、さらなる知識を得るために、と二人して意気込んでいたのだが。
「ふげーん!」
蜜月は大音響とともに破られた。
「あれ、望ちゃん。どうしてここに?」
壁にめりこんだ扉の向こうに立つのは普賢の同期で同室の想い人、呂望。
扉を蹴りあけて現れた彼の剣幕に不吉なものを感じて普賢があとずさる。
「どうしたもこうしたもないであろうが。
普賢、今日は何月何日だ。言ってみよ」
「え、12月27日、だよね?」
呂望の顔がひきつる。
「1日2日ならまだしも……4日も違うわダァホがー!」暦を見る、ちらりと。
1月1日。
何度見直しても1月1日。
いつのまにか新年、気がつけばあけましておめでとう。
何故こんなことに……。
普賢は眉間を押さえた。
師走、年の瀬、晦日の日。
他人より早く身の回りの整頓を終えた普賢は、いつも世話になっている礼にと乾元山の太乙を訪れたのだ。
大掃除の手伝いのために。
居住区を終わらせ、ついでにと倉庫にまで手を伸ばしたのがいけなかった。
気がつけば宝貝博覧会になり、希少サンプルのお蔵出しにつながり、そのまま太乙が新型機の解析を始めてしまったものだから……いや、人のせいにするのはよくない。ノリノリだった自分も同罪だ。
ラボの中は換気用のダクトしか通ってないうえに、外部からシャットアウトされている。
おまけに自分たちは仙道、飲まず食わずでもわりと平気。
時間の観念?なにそれおいしい?状態の普賢と太乙が遮蔽されたラボの中で楽しく過ごしている間、世間は新年を向かえていた。
そのうえ、嗚呼、あろうことか、新しい年を迎えると同時に呂望は道士としての力を認められ、正式に仙道名を賜ったのだ。
昇格。
力を求めて仙界へあがった呂望にとって、もっとも晴れがましい舞台。
なのにそれを、全力ですっぽかしてしまった。
「望ちゃんごめん……」
普賢は何度目かもわからない謝罪を口にした。
呂望(もう太公望だっけ、たしか)は長いすに寝そべってむっつりと押し黙っている。
「ごめんってばあ……」
呂望がぷいと横を向いた。
「ふん、どーせわしのことなんぞ興味ないのであろう」
「そんなことないよ。おめでとうって思ってるし、ごめんって思ってるよ。ほんとだよ」
「どうだかのう」
いつになくつっかかってくるが、今回ばかりは普賢が全面的に悪い。
とにかくこの重苦しい空気をかえなくては。
「えーと、あれだ。新しい名前。太公望っていうんだっけ?
今までと同じように望ちゃんって呼べるようにしてくれるなんて、元始様も粋なことなさるね」
「偶然であろうよ」
振った話題は一蹴された。取り付くしまもないとはこのことか。
何度謝っても御機嫌斜めな呂望のまわりを、普賢は落ちつきなく歩くしかなかった。
「望ちゃん、ごめんね。なんでもするから許して」
「ふむ」
呂望が顔をあげた。
なにやら頭をひねっている。
「そうだのう」
やがて身を起こすとひたりと人差し指を普賢の眼前に据えた。
「わしのいちばん好きなものを用意してみせよ。 さすれば今回のことは水に流してやろう」
普賢の顔がぱっと輝く。
それはとても簡単なことに思えた。
「うん、わかった!すぐとってくるから待ってて!」
ぱたぱたと元気よく普賢が走っていく。
行先はわかっていた、普賢の出した答えが違うことも。
「さて、今日中に正解にたどりつけるかのう」
意地の悪い笑みを浮かべて、呂望あらため太公望は目を閉じる。
小一時間ほどして普賢が帰ってきた。
「はい、望ちゃん!桃だよ!」
満面の笑みを浮かべて普賢はそれを差し出した。
藤籠の中には熟れたピンク色の果物が山盛り。
望がふだんからこれさえあれば何も要らぬと吹聴してまわる食べ物だ。
「ふむ」
長いすに頬杖をついたまま、望は差し出された桃を検分する。
品種は豊満。
秘蔵の木にしかならない希少種だ。
色、形、つや、熟れ加減も申し分ない。
頼み込んでとってきたのだろう、普賢の頭には葉っぱがついたままだ。
が。
「これではない」
望はそっぽをむいた。
普賢が落胆するのがわかる。
「そんなあ。望ちゃん、桃大好きじゃない」
「好きではあるが一番ではない。次」
「え、次?」
「当然だ。正解するまで許さん」
「うう、わかったよ……」
普賢は肩を落として部屋を出る。
簡単な問題だと思ったのに、桃ではないとすればなんなのだろう。
「……あれかなあ。元始様、黄巾貸してくれるだろうか」
ほどなくして格納庫から一体の黄巾力士が地上を目指して飛び出した。「好きではあるが一番ではない」
丼村屋のアンマンを前に望がそっぽを向いた。
普賢の肩が落ちる。
「無理言って買ってきたのに……」
「知らん」
「元始様に黄巾貸していただいて、玉鼎様に小銭貸していただいて、寝てる丼村屋のおじさん叩き起こして売ってもらったのにー!」
「違うものは違う、次」
「うう、望ちゃんのいじわる」
「誰のせいだ」
「……僕のせいです」
これではないとなると、さて?
普賢はむむむとうなりながら台所に飛び込んだ。
やかんを火にかけ、戸棚の中から次々取り出す。
小豆、砂糖、漉し機にてぬぐい、上新粉、白玉粉、油、白胡麻、とどめに中華鍋。
小豆を煮立ててつぶし、漉し機でなめらかにしたらてぬぐいでしぼる。
鍋に水と漉した小豆を入れ、砂糖をしこたま入れて煮沸。
焦げないようにかき混ぜて水分を飛ばしたら、お次は粉と砂糖をあわせ、しっかり練って少し寝かせる。
作りたての餡を包んで丸め、中華鍋に油をそそいで低温でじっくり。
「はい、僕特製ゴマ団子!」
どうだと胸を張る普賢に望が首を振る。
「違う」
「えー!」
「好きではあるが一番ではない。
というか、さっきから食い物ばかりではないか!
なんだ?わしはそんなに大食いか?」
「うん」
「……親友昇格のお披露目に顔を出さなかった挙句日付を4日も間違えてた普賢さん」
「ああもう!僕が悪かったよ!わかったよ、あれでしょ!」
そう叫んで隣室の押入れから普賢が持ってきたのは、米酒、馬乳酒、紹興酒、老酒、酒・酒・酒。
望が玉虚宮の厨房からちょろまかしては普賢にとりあげられてきた酒瓶の山だった。
「もー、今日だけだよ。今日だけだからね?」
乾元山に引きこもっていた普賢には、望が昼に樽酒かっくらっていたことなど知る由もない。
「ダァホ、わしは今日付けで正式な道士になったのだぞ。酒も煙草も解禁だ」
「の、飲みすぎると体に悪いもん」
「ごまかすな。酒でもないわ」
「もー、わかんないよ」
普賢は唇をとがらせると望の足元に腰掛けた。
「お酒じゃないならお茶?青茶が好きだよね。
今切らしてるけど、竜吉様に頼めばゆずってくれるんじゃないかな」
「違う」
「えーと、じゃあ、本?なんだっけ、こないだキミが読みたがってた歴史書」
「それでもない」
「昼寝?もう夜だけど」
「かすりもしておらぬわ」
もうよい、そうひとりごちて望はクッションを抱えこんだ。
「……もう少しわしのことをわかってくれていると思っていたが」
つぶやく様子がさみしげで、普賢は胸が痛んだ。
せめて頭をなでてやろうと、黒髪に手を伸ばしてはたと気づく。
『え……いや、でも、そんな』
思い至った考えは、ひどい自惚れな気がして、普賢の頬が熱くなる。
どうすればいいのかわからず、普賢は望を見つめた。
思い人はクッションに顔をうめたまま静かに呼吸をしている。
かすかに上下する望の背を見つめているうちに、心が水のように静かになっていく。
普賢はつと立ち上がり、浴室へ消えた。眠っていたらしい。
やさしく肩をゆすられて、望は目を覚ました。
寝ぼけ眼で見上げた先には、穏やかな笑みを浮かべる普賢がいた。
湯上りの肌には薄い夜着一枚。
空色の髪はまだしっとりと濡れている。
「昇格おめでとう」
望にだけ聞こえるように、普賢がささやく。
「お祝いに、望ちゃんのいちばん好きなもの、あげる」
まばたきする望に普賢の顔が近づく。
唇に柔らかい感触があった。
すみれ色の瞳がいたずらっぽく笑う。
「違った?」
「……正解」
望が普賢を抱き寄せ、肩口に顔をうずめる。
温められた細い肢体が心地いい。
高揚していく、心も、体も。
どちらからともなく口付けた。
何度も。
くすぐったげな笑い声が普賢の口からもれる。
「冷めちゃうよ、ゴマ団子」
「かまわん」
「出来立てが好きだって言ってたじゃない」
「おぬしの肌が冷めるほうが一大事だ」
深夜、玉虚宮の一室でふたつの影が寄り添い、やがてひとつになった。