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SS~きら

 
「下を脱いで足を開け」

 ※18禁 痛い 寒い 妊娠絡み
 ※妄想設定有 >>片恋(螺旋状)とリンク
 ※ふーたん女の子注意

 ※斜陽改題

  ↓

続き

 
「普賢」
 不機嫌な声に彼女の手が止まった。
 窓から夕陽がさしこみ、薄ら寒い執務室を赤く彩っている。
 配下の者らは既に下がり、玉虚宮のこの部屋にはいま太公望と普賢しかいない。
「ここ」
「……あ」
 書類を突きつけ、一部を指し示すと普賢は顔を曇らせた。書き損じ、単純な間違いだった。
「字もろくに書けんのか、おぬしは」
 容赦のないセリフに普賢はさらにうつむく。蚊の鳴くような声でごめんなさいとつぶやかれた。
「つくづく役に立たぬ奴よのう。こんなのが十二仙なぞ、世も末だな」
 わざとらしくため息をつき、太公望は手招きした。普賢が無言で席を立ち彼に近づく。
「座れ」
 執務机を指差す。短い命令を受けた普賢の瞳が揺らいだ。ちらりと動いた視線の先には仮眠室のドアがある。
「座れ」
 いらだちのままにもう一度くりかえすと普賢はおとなしく机に腰掛けた。机上に散らばった書簡や巻物をまとめて隅に寄せる。その唇は緊張で固く結ばれていた。
「下を脱いで足を開け」
 肘掛に腕を置いて頬杖をついている太公望の目の前で、普賢は身じろぎしシンプルなズボンを下着ごとひきおろす。ひざのあたりでひっかかったそれらを細い脚をつたって脱ぎ落とした。青い前掛けの下から白いふとももがのぞいている。
「足を開けといったはずだが?」
 普賢のひざをつかんで太公望は立ち上がった。邪魔な前掛けと羽衣を剥ぎとり、床に放り捨てる。羞恥にうなじまで染まりながらも、普賢はゆるゆると足を開いた。斜陽の中にあやしく花びらがうかびあがる。太公望は手袋をはずすと目の前のそれに触れた。外側をなぞり、敏感な部分をつまみあげる。何度かくりかえすうちに潤ってきた花弁の奥へ無遠慮に指を押し込むと普賢の喉が苦しげに鳴った。
「……望ちゃん……っ」
 すがるような目が一瞬だけ太公望に向けられた。気づかないフリをしてそこに唇を寄せる。吸い付いて蜜をすすり、わざと音を立ててなめあげた。普賢の息がしだいに荒くなり、ぴんと張ったつま先が小刻みに震えはじめる。
「ふん、これだけ濡れれば充分か」
 前をくつろげ、はりつめたものを露出させる。半ばとろけていた普賢の瞳におびえがはしった。逃げられないよう細腰を抱え込んで強引に押し入る。
「ん……く……う……」
 しめつけてくるのは快楽ではなくて苦痛のせい、異物を押し出そうとする生理的な反応。きつく眉を寄せるその表情は甘やかさなどカケラもない、歯を食いしばってひたすら受け入れるのみ。最奥にたどりつくと、ようやく普賢が息を吐いた。
「ぼ、ちゃん……」
「いつも言っておるだろう。普賢、力を抜け」
「うん、んっ」
 わずかな動きにも普賢は唇をかみしめた。脂汗さえにじませながら痛みに耐えている。それでも震える腕を伸ばし、太公望を抱きしめた。
「……望ちゃん、使って……僕の体」

 普賢を初めて抱いたのは、いや、犯したのは、まだ二人とも道士だった頃だ。
 考えてみれば長い付き合いで、2人の関係を表す言葉はいくつもあった。同期の幼馴染で親友、表向きは。けれど、実態は傀儡とその監視者。
 一族を失い、復讐だけを胸に刻んで仙界に上がった太公望に元始天尊があてがった玩具、それが普賢だった。そこそこの適正とまあまあの能力、元始天尊の目に留まらなければ、普賢はその他大勢の1人として表舞台へ出ることなくひっそりと生きていっただろう。しかし彼女にはひとつ、きらめくような才能があった。
 空間検索能力。
 ほんの少し集中するだけで、普賢は千里眼に似た力を発揮することができた。元始天尊の持つその能力よりも格段に劣るものではあったが、ふとしたはずみでふいと姿を消す太公望を、宝貝も使わずに探し出せるのは彼女だけだった。
 たったそれだけの理由で、普賢は元始天尊を師と仰ぐはめになったのだ。立場は太公望と同じ一番弟子、ゆくゆくは崑崙の幹部になることを約束された地位だ。一介の見習い道士から、突然きらびやかな場に引き出されてとまどう普賢に、元始天尊はこう告げた。おぬしの務めは監視だと。
『太公望の一挙一動を監視し、密告すべし』
 彼の憎悪が崑崙へ向けられることの無いように。彼が、『計画』からはずれてしまわないように。
 仙界に住まう数多の仙道も、はては十二仙も、元始天尊の前では封神計画という盤上の駒に過ぎない。ましてや王将に据えようと画策している相手ならなおのこと。念には念を入れて見えない網を張り巡らし、中に捕らえておきたい。そのためなら、とるにたらない道士の人生など紙切れ一枚よりも軽い。
 崑崙山教主の命を拒否できるはずもなく、以来普賢は太公望からどんな仕打ちを受けても離れることが許されない身となった。
 突如あてがわれた『親友』の役割を太公望は正確に見抜いた。見抜いたところで、何ができるというわけでもなかったが。
 教主の命令に否と言えないのは太公望も同じだ。せいぜいが普賢をいじめて憂さを晴らすくらいなもの。家族も友人もすべて理不尽に奪われた喪失感、途方もなく大きなカラクリに組み込まれた不快感、反発を感じながらも逃れることのできない無力感、足の下で蠢く陰謀がちりちりと肌を焼く玉座、そこに縛りつけられた苛立ち。太公望をすさませる何もかもが、衝動となって普賢に向かったのは至極当然の結果だった。それすら思惑の内だと気づきながらも。
 面白半分に普賢を抱いたあの夜から、乾いた関係は続いている。

「ん……ふ……んぅ……」
 律動のたびにうめく普賢の顔から険しさが薄れてきた。こころなしかすがりつく腕の力もゆるんできた気がする。
 対して太公望は限界が近かった。締めつけられたまま強引に動かすと否応なしに煽られる。わざと意識を逃して近づく絶頂を遅らせる。少しでも長く、つながっていたかった。
 
 それに気づいたのはいつ頃だっただろう。
 毎夜見る悪夢が、いつしか変わっていた。あんなにも自分を苛んだ血と炎の悪夢は潮が引くように消えて、代わりに訪れた闇色の夢。
 うなされて跳ね起きた自分を抱き寄せ包み込む細い腕、たまらなくなってその体にむしゃぶりつく。快楽で脳内を真っ白に塗りつぶして、つながって、つながって、つながってるこの瞬間だけは、失うことはないと。そう思い込んで。
 こんなにも心奪われていると気づかれるわけにはいかなかった。気づかれてしまえば、狡猾な爺のこと、取り上げてしまうに決まっている。
 ――あれをしてごらん、これもしてごらん、できるだろう、おまえのだいじなコレがほしければ。
 目に見えるように、手に取るように、思い描くことができた。だから気づかれるわけにはいかなかった。ほんのひと時離れていることすら、彼には我慢ならなかったから。
 夢の中、儚い微笑みを浮かべたまま底の無い暗闇へ吸い込まれていくのは。
 手を伸ばし声をからして叫ぶその名は。

 絶頂が近づいている。もうすぐそこまで来ている。全身の感覚すべてがつながったそこに集中していた。
 まだ、まだだ、まだだ、もっとつながっているのだ、わしは普賢と……。
 無我夢中で首を振った。子どもが駄々をこねるように。
 
 欲しいときに、欲しいように、欲しいだけ、普賢を汚してきた。
 どんな無茶な要求であっても、何も言わず応えてくれることにすがりついていた。
 白い肌が汗にまみれ、ふとももを白濁がつたって落ちていく様は太公望をひそかに喜ばせた。まぎれもない所有の証をわざと人目につく所につけたこともある。誰であろうと普賢に近づく輩は許せなかったから。
 やり場のない恋情は際限なく内圧を高めて自壊していく。

 孕めばいいのに。

 最奥へ突き立てるともう限界だった。短い悲鳴をあげてすべてそそぎこむ。
 全身を覆う快楽に思考を食い破られ、心わずらわす全てから開放される瞬間、すぐに押し寄せてくる現実を余韻の壁で差し止めて。
 だらしなくつながったまま机の上で抱きあう。荒い息をつきながら普賢の胸に頭を乗せた。上下する薄い胸は骨ばっていて柔らか味がない。頬にあたる肋骨の硬さに存在を主張されている気がして太公望は小さく笑った。
 この奥に心臓がある。この下に子宮がある。子を孕む器がある。今濁った自分の欲望が、宝石みたいな卵子を犯しているはずだ。
 孕めばいい、わしの子を宿せばいい。そうすれば自分はいくつもの言い訳を花束に普賢を我が物にできる。神前で契約を交わそう、『永遠にあなたのもの』。もう誰も引き離せない。花嫁姿はさぞきれいだろう。
 妄想の中で普賢はうれしげに微笑んでいる。

 接吻だけは、できなかった。

 

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