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SS~きらきら

 
「だから、だいじょうぶだよ」

 ※18禁 痛い 寒い 妊娠絡み
 ※妄想設定有 >>きらのわかりやすい続き
 ※ふーたん女の子注意

 ※宵月改題

   ↓

続き

 
「はい、体重終わり、と。次は身長計に乗って」
「面倒だのう」
「文句言わない。ふむ、あいかわらずチビだね。順調に休眠中……と」
「一言よけいだ」
 雲中子はバインダーのカルテに必要事項を書き込んだ。
 終南山の彼のラボでは、太公望が半年に一度の健康診断を受けているところだった。付き添いの普賢は太公望の上着を預かって椅子に座っている。
「仙道の健康診断なぞ100年に一度でよいというに。何ゆえわしだけこう頻繁に検査を受けねばならんのかのう」
「さあね、元始様の思惑なんて私ごとき若輩にはわからないからねえ。
 おおかた泥酔拳のやりすぎで肝臓を壊してないか見ておこうって腹じゃないかい?」
「そこまで飲んでおらぬ」
 太公望は唇をとがらせ、まばたきをして普賢に視線をやった。
「そういえば喉が渇いた、茶はないのか」
「ん、雲中子、台所借りていいかな?」
「かまわないよ」
 礼を言って普賢は席をはずした。仙界医学の大家と称される雲中子のラボへは諸々の用件で訪れることが多い、生活区の在り処も既に熟知している。部屋を辞するその背を見送ると、太公望は自分の両手を見つめた。
「……休眠中か、いまひとつ実感がわかんな」
「なんだい今さら。君がここへ来て既に40年が経過してるんだよ。本来なら顔が脂ぎって腹が出てきて、そろそろ毛髪も薄くなってきてるころだ」
「おぬしなど当の昔に骸ではないか」
 雲中子があさってを見やって口笛をふく。
「休眠のチェックは大事だよ、うん。各身体機能の休眠が不老不死の第一歩なのだから。
 生命活動を最低限のレベルに落とし込み、その状態を維持できるようになれば仙人になる器が整ったと言える」
「そのわりには活発な輩が多いのう」
「だから仙気を練ることが大事なんじゃないか。熱エネルギーに代わって精神エネルギーで身体を活動させるのが仙人だ。言うならば自分の体を念力で操ってるようなものだと、一般教養で習わなかったかい?」
「寝ておったわ、あんなたるいもん」
 太公望はふいと顔をそらした。独り言のようにつぶやく。
「妊娠……も?」
「……なんだい、やぶからぼうに」
「いや、その、身体機能が休眠しておるなら、妊娠はせぬはずだな?
 だが実際には仙人が身ごもった例もあるではないか、竜吉公主のように」
 そらされた視線が真剣味を帯びていることを、雲中子は見逃さなかった。
「……あれは例外中の例外だよ。馬鹿な夢抱いてるなら早めにあきらめたほうが得策だと思うね」
「なんの話だ」
 とがった声が雲中子に向けられる。
 やれやれ、若いねえ。
 声に出さず喉の奥で笑い、雲中子は大またで歩くと廊下に続く扉をあけた。盆の上に茶器を載せた普賢が立っているのを見て、太公望の顔に緊張が走る。
「どうしたの?」
 おっとりと微笑んで小首をかしげる普賢の様子に聞かれてはいないと判じたのか、太公望は安堵の息を吐いた。
「さあ次はレントゲンだね」
「待て。茶がぬるくなる」
「君が早く済ませればいい話だ。はい、隣行って脱いだ脱いだ」
 雲中子はかるく手を叩いて太公望を追いやった。ぶちぶちとひとりごちながら太公望は黄色いマークが描かれた扉の向こうに消える。
 普賢は茶器を机上に配置すると足音をしのばせ雲中子に近寄った。声をひそめて会話を交わす。
「雲中子、薬、いい?」
「そう言うと思って用意しておいた。はい、三ヶ月分。なるべく同じ時間帯に飲むんだよ」
「いつもありがとう」
 ラベルもない薬袋を取り出し、雲中子は普賢に手渡した。普賢は受け取ったそれをすぐに手荷物入れの中に隠す。太公望に体を開いた日から、普賢が利用している避妊薬だった。
「……聞いてたかい?」
「ううん。扉が邪魔して聞こえなかった。なんの話だったの?」
「身体の休眠について聞かれたから通り一遍等な解説をしておいた、益体もない話さ」
「そう。……元始様には報告しなくていいみたいだね」
「ああ、必要ない。それとこれは、君個人についてなんだけど」
 雲中子はおもしろくもなさそうにつけくわえた。
「痩せたのかやつれたのかは検査してみないとわからないところだけど、顔色がよくないね。
 乾元山の誰かさんも、君が遊びに来ないと心配していたけど、最近彼の御不興でもこうむってるのかい?」
 普賢は苦笑すると首を振った。
「回数が増えただけ。最近は書類仕事が多くて、望ちゃんいらいらしてるから」
「その分君に負荷がかかってるわけだね」
「でも、体力使うせいか、望ちゃん、夜うなされることが減ったんだ。それに前よりはひどいことされなくなったし。
 だから、だいじょうぶだよ」
「君のだいじょうぶは医者として信用できないね。あの薬も、常用を続けると発癌率が上がる。健康診断も兼ねて一度精密検査をしたいところだ」
「うん、わかった。でもしばらくは時間取れないよ」
 普賢はちらりと黄色い扉を見た。出し抜けに内側から扉が開く。
「早くせい、こっちは準備できておるのだぞ?」
 むくれた太公望が顔を出した。雲中子は首を振ってコンソールパネルをつつく。
「待ってるのはこっちだよ。君、ちゃんと所定の場所に立ってくれなきゃ撮るに撮れないじゃないか。
 扉に耳つけて盗み聞きでもしてたのかい?」
「しておらぬ!」
 音を立てて扉をしめた太公望に雲中子は肩をすくめる。すまなさそうな顔の普賢に笑ってみせる。
「放射線室の扉は分厚いからね。聞こえやしないさ」
「……ありがとう」
「普賢、さっきの検査の話だけど、前向きに検討してくれないか。君に何かあると私が誰かさんから被害をこうむるのでね」
 遠まわしな口ぶりで、彼なりに心配しているのだと知れた。率直な感情を言葉にするのは苦手な類の人であるから。
 普賢は微笑んで礼を言う。でも、と、その笑顔が曇る。
「検査して、悪いところがあったら、入院しないといけないかな」
「もちろんだ」
「……僕、望ちゃんの足手まといになりたくない。そうなったらきっと……僕は……」
 置いていかれる。
 言外にそう匂わせて普賢は口をつぐんだ。
 難儀なことだねと、医者はため息をつく。

 * * *

「やっほーう、雲中子」
 太公望の検査を終え、二人を帰して約一時間後。通信宝貝から能天気な声が聞こえた。呼ばれた彼は一見ゆっくり、彼なりにいそいそと受話器のスイッチを押す。軽い音ともに映像モニターが浮かびあがった。
「むふん、おつとめご苦労さま。苦しゅうない感じ」
 軽口と一緒にくりくりした緑の瞳をまばたかせるのは、宝貝オタクにして仙界が誇る引きこもり仙人、乾元山金光洞洞主太乙真人。これでけっこういい年なのだが、その事実はいつも横に置かれている。太乙はソファに寝転がったまま菓子をつまみながら雲中子をのぞいていた。
「普賢どうだった?」
「よくはないね」
 単刀直入な物言いに、同じように返す。
「やっぱり?前は月に2度は遊びに来てくれたのに、先月なんか全然来てくれなかったし。
 太公のボウヤがまたやんちゃしてるのかと思ったら案の定だね。なんとかならないかな」
「十二仙の君でさえ無理なのに私程度の地位じゃ元始天尊様の意向には逆らえないよ」
「むー、やっぱり静観するしかないわけだね。なんとかしてあの生意気な小僧の鼻っ柱をへし折ってやりたいんだけど。
 あーあ、またしばらく普賢と会えないのかあ、さみしいなあさみしいなあ。私の宝貝談義につきあってくれるのはあの子だけなのにぃ」
「私でよければ」
「やだ、君の生物学的ツッコミは聞いててつまんない」
「……君が出向けばいいじゃないか」
「やだよ、外出るの嫌いだもん。はあ、それにしても許せないね太公望は。
 わたしの、わーたーしーの、かわいい普賢を横からかっさらってくれちゃってさ。太公望がいなければ今頃普賢は私とめくるめく研究三昧の日々を過ごしてたはずなのに。
 あれだけの逸材はね、雲中子、なかなか出るもんじゃないよ?この私に弟子にさせてーおねがーい!って思わせるような子なんて1000年に1度いたらいいほうなんだから。
 というわけで雲中子、また太公望がそっちに行くようだったら、普賢の様子教えてね、よろしく!」
 一方的にしゃべりまくると太乙は通信を切ってしまった。コミュニケーション不全の傾向があるのは天才ゆえか。とりのこされた雲中子は彼なりにしょんぼりとスイッチを切った。

 * * *

 早足で歩く太公望を追う。
 玉虚宮の長い廊下を、普賢は小走りで進んでいた。日はとうに暮れ落ち、日付も変わろうかという頃合だった。
 検査が終わっても、太公望には平常どおり執務が待っていた。元始天尊から次々に任せられる仕事はどれもこれも行政に携わるものばかりだ。人手が足りないと教主は言い張っているが、異例の出世に面目を踏みつけられた仙人たちが少なからず影でくすぶっている。道士風情がと毒づかれたことも少なくない。
 3歩先を行く彼の背は、同じ年頃の道士に比べても低い。中途半端に時を止めた小さな体で、大人になりきれない貧弱な手足で、彼は大義を背負わねばならない。その重さを思って普賢は目を伏せた。
 私室にたどりつき、普賢は後手で扉をしめた。鍵をかける。
「普賢」
 予想どおりの硬い声に普賢は背筋を伸ばした。まっすぐに太公望を見つめる。
「昼間、雲中子となにを話していた?」
「何も」
 嘘をつくなと断定された。吐き捨てるように。
「大方席をはずした間のわしの言動を探っておったのだろう。仕事熱心なことだな」
「……」
「おぬしの務めはわしのそばにいることだからのう。そしてわしの行動は何もかもジジイに筒抜けというわけだ」
「否定はしないよ」
「ならばこれも務めか」
 肩をつかまれ、引き寄せられた。二人もつれあってベッドに落ちる。間近にせまった太公望の瞳がひたと普賢を見据えている。
「……うん……そうだよ」
 うまく笑えただろうか。胸の奥がちくりと痛んで、息が苦しくなる。不快そうに鼻を鳴らすと太公望はベッドの上に体を起こした。横になったままの普賢の髪をつかんで、己の腹に押し付ける。
「しゃぶれ」
 普賢は小さくうなづくと腕を動かした。とたんに両腕をとらえられ、掴みあげられる。無理な体勢に普賢の背骨がきしんだ。
 すぐに手を離すと太公望は普賢の腰帯を剥ぎとった。細い両腕を掴みなおし、ぐるぐると巻きつけて自由を奪う。
「口だけ使え」
 理不尽な命令にも、普賢はうなづいた。からし色の道衣のすそを食み、わきへどける。腰帯の結び目にかみついてあごを引く。両腕を背中側で縛られ意のままに体をまわせず、普賢は芋虫のように無様に動くしかない。結び目がうまくほどけなくて、普賢の頬は何度も股間を滑った。それが既に熱を持って立ち上がっていると布越しにもわかる。
 結び目は唾液で濡れるばかりで一向に埒があかない。太公望は舌打ちすると自分で腰帯を解き、前をくつろげた。熱いそれが普賢の顔に押しつけられる。
 オスの匂いのするものを口にくわえ、たっぷりと唾液を絡めて舌先で舐めまわす。どこかたどたどしい愛撫にも煽られてしまうのか、太公望は眉を寄せた。
「ん、ふ……んぐ!」
 汗ばんだ手が背をすべり、ズボンの端から中へ押し入る。尻をわしづかみにされて引き寄せられた、まだ潤ってもいないそこを指先がいじくる。
「んぅ、ん、ぐ……う……」
 引き寄せられたせいでより深く太公望をくわえこむことになった。喉にあたる質量に呼吸が苦しめられる。対して下肢はもっとも敏感な部分を押しつぶすように愛撫されていた。普賢は意識から雑念を追いやる。痛みの中に混じる甘いもののことだけ考えると、彼が触れる下肢と、彼をくわえこむ口、そこだけが自分を構成している、そんな錯覚に陥りそうになる。
『いっそ、そうならよかった』
 彼に奉仕するだけの奴隷ならよかった。微笑んで裏切り続けることが自分と彼をつなぐ唯一の絆ならば。まばたきするたびにこぼれる涙は、喉を突かれる痛みのせいだと、思いたい。
「んぐ……かはっ!」
 頭をつかまれ、持ち上げられる。急に解放されてえづく普賢のズボンが下着ごと引きずりおろされた。冷えた外気にさらされ、普賢の体がびくりと震える。足を持ち上げられ、潤いの足りないそこへあてがわれる。一気に貫かれた。
「――っ!!」
 割り裂かれる痛みにかすれた声で叫ぶ。逃げ場を探して体をよじっても苦痛が増すだけ。頭を振るたびに普賢の髪がシーツを打ち、小さな音を立てた。
「う、くぅ、ん、ん――!」 
 性急に穿つその動きに普賢の体が悲鳴をあげる。
「う、ぐ……」
 追い詰められていた太公望は絶頂が近い。あざになるほど足をつかんで、拒むように首を振っている。
「ふ、うぁ……!」
 太公望の背がそりかえった。ぶるりと震えると同時に普賢の奥に熱が広がる。
『あなたが、安らげるのなら。これで、安らげるのなら。
 うまく眠れないあなたに、僕の体で穏やかな眠りを与えることができるなら』
 苦痛の終わりを告げる熱に腹の奥を焼かれながら、普賢はぼんやりと彼だけを見ていた。