「ほれ、あーん」
※現代 バカッポーゥ! 12禁くらい シモネタ
※ふーたん男の子注意
※あれ?
↓
パチン。
洗濯ばさみにシャツをはさむ午前9時。風力2、降水確率10%、ごきげんな洗濯日和だ。夏の近い空には綿菓子みたいな雲。きらきら光る町並みの向こうには海が見える。
からっぽの籠を手にベランダから戻ると、いつのまにか起きてきた望ちゃんがテーブルについてあくびをしていた。ちゃんと着替えてるからよしとしよう。
「ごはんにする?」
「んむ」
望ちゃんがうなづいたので僕は朝食の準備を始めた。眠そうな目をしたまま望ちゃんはお皿を並べてくれる。
蜂蜜たっぷりの金色トーストにプチトマトとレタスのサラダ。なまぐさも食べるキミのためにベーコンエッグ(半熟)と粗引きソーセージ。にんじんのソテーと湯通ししたブロッコリーをつけて、デザートは桃のコンポート。ブランチならこんなものでしょう。
支度を終えた僕は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、席に着く。
「いただきまーす」
キンと冷えた清浄な水が僕の体を潤す。
「ほれ、あーん」
望ちゃんがフォークの先にプチトマトを突き刺して、僕にずずいと寄越してきた。お相伴にあずかるとにょほと満足そうな笑顔を見せる。
いまだに自分だけ食べるというのが落ち着かないらしい。そんなところがいとしくて僕も微笑を返す。
仙人の僕と莫大な力を持つただの人、始祖たるキミとでは食べ物も食べる量も違ってくる。起き抜けでも旺盛な食欲を見せる望ちゃんにつきあって、僕もレタスの切れ端をつまんだ。
ぺろりとたいらげると、望ちゃんは僕のエプロンをして流しで皿を洗い始めた。作るのは僕だからこのくらいはしてもらわないとね。最近は掃除もしてくれるようになった。僕より要領がいいのがちょっと悔しい。
部屋のすみのユッカとアイビーに水をやって、僕は椅子に座り太極符印を呼び出す。かすかな、虫の羽音のような音とともに相棒が手の中に落ちてくる。
神界とチャンネルをあわせようとしたところで名前を呼ばれ、顔をあげた。
皿洗いを終わらせた望ちゃんが、マガジンラックから雑誌を取り出すとソファに座ってぽんぽん隣を叩く。
「はいはい」
太極符印を抱えて、僕は望ちゃんの隣に腰掛ける。望ちゃんはさも当然のように寝そべって僕のももの上に頭を置いた。おでこを押しつけたり甘噛みしたり息を吹きかけたり、くすぐったくて身をよじる。
「もう、お仕事できないじゃない」
耳をつまんでひっぱってやるとにんまり笑われた。もそもそと居心地のいい角度を探して動いた望ちゃんは、安心できたのか雑誌を開く。
僕は太極符印を神界の情報野に接続した。僕宛の願いと依頼をダウンロードしていく。タイトルにざっと目を通す限り、【至急】も【緊急】も非常事態をあらわす赤文字も見あたらない。ひとつづつ開いてチェックしていくと、家内安全や学業成就といったほほえましい物が多かった。何故か交通安全もある。平和で何よりだ。
天窓から入ってくる風が望ちゃんの黒髪を揺らす。
あーきもちいいなー。こういうのを、しあわせって言うんだろうなー。
ぽかぽかの陽だまり、青空にひるがえるシャツ。
僕のひざの上でゲイ雑誌を読みふける君。
「……」
ガスッ。
「ぐは!な、なにをするふげんー!」
太極符印で殴打された後頭部を押さえて望ちゃんが僕を見上げた。
「なんてもの読んでるのさ!」
「普賢、差別はよくない。それにこれはためになる」
「うぐ。たとえば?」
「うしろの愛撫はどうしたらいいとか、準備のとき気をつけることとか、ローションはどこのがいいとか。ローションといえばこの新商品はどうだ?」
「なんでそういうことに全力投球なの、キミは。あと僕は、はじけるレモンの香りとか断固反対だからね。絶対しみるって、それ」
「ではいつものにするか。それと、こういうことは大事だぞ」
「……そうだね、大事かもね。3千年の歳月を経てもまだ枯れてないってあたりにキミの恐ろしさを感じるよ。でも僕はあんまりあからさまなのは嫌いなんだ」
「そうかのう、情人の体を深く理解したいと思うのは当然のことだと思うのだが」
真顔で言われると返答に困る。
望ちゃんは僕の腹に頭をすり寄せ雑誌をしげしげとながめた。
「それにしてもあれだ、やはりわしはおぬしだから恋うておるのだな」
「……な、なにを突然」
「男の全裸ピンナップを見てもピンとこぬ」
「そうだね、来ても困るね」
「しかしおぬしの裸は何度見ても飽きん」
「ふーん」
「大事なことだ」
「そうだね、大事かもね。わかったから、せめて僕のいないとこでお勉強してくれない?」
「いやだ。何ゆえ目の前の情人と壁を隔てねばならぬ」
「僕もいやだ。何が悲しくてゲイのポルノ雑誌をひざの上で読みふけられなきゃいけないのさ」
「それのどこが嫌なのかさっぱりわからぬ」
「恥ずかしいんだよ!思いだすじゃないか――て、あ」
しまった。
勢いで口にした本心を後悔しても後の祭り。輝くイイ笑顔が僕を見上げてくる。
「何を?」
「……」
「何を?」
「……」
「ナニを?」
「黙れ色ボケ」
雑誌を閉じて床に置き、望ちゃんは体を起こして顔を近づけてきた。逃げる暇こそあれ、頬をかすめるような軽いキス。
「あいわかった。勉強はやめよう。学びて思わざれば即ちくらし、思いて学ばざればすなわち危うし。そうだな?」
「異論はないけど」
「しかしわしはこうも付け加えたい。思いて動かざれば即ち無益なり」
「つまり?」
「実践にまさる学習はない!」
「やっぱりかこの色魔!」
「なんとでも言え!」
望ちゃんがわき腹をくすぐってくる。負けじと僕も宝貝をいったん消し、全力でやりかえした。部屋の中に響く笑い声はふたつ。広くないソファのうえで重なって、転がって、避けてはたいて触れるとこ手当たりしだいに。笑いすぎでぜーぜー言いながら抱き合う。
キスをもらった。
やわらかい唇が僕のそれに重ねられる。なまぐさを食べてるのに、どうして望ちゃんの唇はこんなに爽やかなんだろう。あたたかな舌が入ってきて、僕のを誘い出す。いつのまにかまわされた望ちゃんの手のひらが僕の耳をふさいで、舌を絡める水音で頭の中がいっぱいになる。
くやしいくらい上手なキス、体の芯で眠る予感と期待が目を覚ましかける。ちゅぱと水音がして望ちゃんが離れた。細い銀の糸がひいてぷつん、切れる。
浅くなった吐息に胸のうちでこっそり白旗をあげて、僕は望ちゃんの背中に両腕をまわした。
「普賢」
「なに?」
「全身タイツで局部を露出させると感度が上がるらしい」
「縁切っていい?」