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SS~枯れない花

 
「気に入ったの?」

 ※望普お初もの 誘い受け 18禁
 ※受くさい望注意
 ※ふーたん男の子注意
 ※おや?

続き


「普賢」
 呂望は風呂あがりの彼の手をとると、寝台へ座らせた。
 普賢は何も言わず白い夜着の帯をはずす。上着のすそがはらりとこぼれ、下衣がすべり落ちる。そのまま彼は寝台へうつぶせた。わりあてられた玉虚宮の一室は大人向けのつくりで、年端もいかない道士のふたりにはなにもかも少し大きい。普賢は敷布にうもれるようにして顔を伏せている。
 望は彼の上着のすそから手を入れ、衣をまくりあげた。普賢の腰があらわになる。そこには鮮やかな椿の刺青があった。肌に彫られた花の絵は、望の手のひらから少しはみだすほどで、形のよい葉が3枚添えられている。
 指先で輪郭をなぞる。あたたかくなめらかな肌の感触は、枯れることのない花の手触りに奇妙に符合していた。
 時折なぞる以外になにをするでもなく、望は普賢の腰に咲いた紅い椿を見つめ続けた。

 人前で肌をさらすことを嫌がる普賢を、面白半分に浴室へ連れこんだのが2ヶ月前。
 初めて舐めた酒も手伝って、同性のよしみだ裸のつきあいだと、勢いに任せて着衣を剥いだ。その下から目も覚めるような紅が姿をあらわすなどと思いもせずに。
 思わぬところに咲いた一輪の花を間抜け面さらして見つめる自分に、彼も怒りの矛先を失い、気まずい沈黙の中固まること小半時。
 浴槽から湯気もたたなくなったころ、普賢が聞いた。
「気に入ったの?」
 あの時、うなずいた自分をほめてやりたい。

 以来風呂あがりの彼の肌がさめるまで、望は普賢の花を愛でることを許された。
 愛でるといっても、思い出したようになぞる以外は見ているだけだ。
 椿の絵をただひたすら見つめる。食い入るように。肌に彫りこまれた花の形は、けして生けるそのままの姿ではない。だが独特の美意識をもって削ぎ落とされた線が、逆にすっきりと花本来の有り様を描きだしている。
 御仏を前にした修行僧のように、敬虔なひたむきさで望は紅い花を見つめていた。白い肌に浮いた椿は雪の中ひそやかに咲き誇る様を思い起こさせて、望はほうとため息をつく。
「毎日毎日、よく飽きないね、君は」
 吐息が肌にかかったのだろうか。普賢が身じろぎをする。一緒に花も揺れた。
「何がそんなに気にいったの?」
 退屈にうんざりした普賢が話しかけてくることは多々あった。だがこの問いばかりは答えられない。
 きれいだからと、口にするのはたやすくて、たやすさゆえに一番伝えたいことが抜け落ちてしまう気がする。
 どう言えば伝わるのだろう。この胸の昂ぶりを、自分の鼓動が聞こえるまでに張りつめた心地よい緊張を。何を口にすればいいのかわからず、望はいつもどおり沈黙を選んだ。
「……僕は嫌いだな、この刺青」
 珍しいこともあるものだと、望は花から視線をはずした。普賢は一言だって自分の体に触れたことはなかった。いつだって自分のことは話そうとしなかったのだ。
「みんなそうだ。こんな造花を。娼婦の息子と蔑んでいるくせに。気に入ったふりなんかして。嘘吐きばかりだ」
 普賢がこぼす繰言は脈絡がなく、だからこそ彼の本心に近いところからあふれているのだと知れた。誰からも何からも一歩引いた感のある彼にしては、ずいぶんと無防備な姿で、望は花に手を置いたまま彼の顔を見つめる。
「キミもそうなのかな……それとも、違うのかな」
 独り言のようにつぶやいて、普賢が望を見返した。紫紺の瞳はどこか熱っぽく潤んでいる。
「……きれいだと思ってる」
 散々言葉を探して、でも結局見つからなくて、もっとも凡庸な形容詞でしか語れない自分に失望を抱く。うまく言えないけどと前置きして、望は再び口を開いた。
「きれいだから。ずっと見てても飽きない。俺はこれが好きだ。
 おまえはこの花を嫌いかもしれないけど。俺は好きだから。嫌いにならないでほしい」
 普賢は吐息のような相槌を打つと自分の腰に手をやった。望の手のひらの上に自分のそれを重ねる。紅い花にふたり分のぬくもりが広がっていく。
「これが好き?」
「うん」
「これが好きなだけなの?」
「……うん」
 普賢が望を見上げた。不思議なほどまっすぐな、雪に咲く椿のように凛と涼やかなまなざしで。
「確かめてみようよ」

「楽にして。全部僕にまかせてればいいから」
 寝台に寝かされ、夜着の上から体を撫でられる。緊張で心臓が張り裂けそうだ。
 上気した望の頬にやわらかな口付けを降らせながらも、普賢の手はよどみなく動く。するすると撫でまわされるうちにいつの間にやら夜着がはだけられていて、いっそ感心してしまいたかった。すべて脱ぎ落とし、生まれたままの姿で抱き合う。じかに触れあう肌は熱くて、普賢も胸高鳴らせているのだと知る。
 下では家畜と寝起きする生活だったから、行為の意味は知っている。男同士でこんなことはしないということも。
 けれど触れてくる普賢の指先は、熱い唇は、確かな実感をもっており、体の奥でうずきはじめた初めての感覚に違和感を溶かされていく。気がつけば息が荒くなっていて、望は不安に襲われた。
「花……」
「ん?」
「花、見せて」
 普賢は手を止めると体を起こし、望に背を向けて座った。
 細い腰にからみつくように咲き誇る紅が望を落ち着かせる。望は向きを変えると普賢の刺青に唇を寄せた。舌を使って丹念に舐める。いつも指先でしていたように。
「ん……ふふ、上手だね。本当に初めて?」
 やんわりと制され、普賢が向き直る。視界から花が消えて望は残念に思う。身を寄せてきた普賢の腰を抱き、花のあるあたりを撫でた。
 望の胸をつたって普賢の手がするりとおりる。自分の腹の下で立ち上がりかけていたものをやわらかくにぎりこんだ、瞬間甘いしびれが走り望は小さなうめきでのどを震わせた。
「ここ、自分でさわったことは?」
 いやに冷静な普賢の声に現実へ引き戻される。浅い息の下でないと答えるとそのまま彼の頭が下がっていき、かすかな水音とともに口へ含まれる。生ぬるい口内で舌が意思を持っているかのようにうごめき追い上げていく。手でされるよりもはるかに確かな感触に、望は両手で口を押さえた。体中の熱がそこへ集まっていく。あっけなく果てた。
 体の芯がしびれたような感覚に望は放心していた。ぴちゃりと音がしたほうへ目を向けると、飲みこみきれなかった白濁を普賢が指先ですくいとってなめている。
「それ、何?」
 浮かんだ疑問を素直に口にすると、普賢は大きく目を見開き、ついで笑った。
「これはね、精液。知らないの?」
「し、知ってるよ」
 羊のなら見たことあったけれど、まさか自分にもおなじものがあるなんて思わなかった。いくぶんむきになって言い返すと、普賢は体を曲げて笑いをこらえた。
「ほんとに初めてなんだね。全部飲めばよかったな」
「うるさい」
 また笑われた。今日は普賢にしてやられてばかりでくやしい。
「大事なものなんだよ。これを女の人のおなかに入れると子どもができるの。僕は男だから、できないけれど」
 そんな当たり前のことを言う普賢が、何故だかひどくさみしげに見えて望は手を伸ばす。細い肩を抱いた。抱きしめて、それからどうすればいいのかわからなくて、望は椿を撫でる。
 普賢の手がまた下へ伸びて、望を包み込んだ。そのまま上下に動き始める。望は眉を寄せて彼が与えてくれる感覚に耐える。抱きしめがすがりつきになった頃、手が止まった。
 普賢がつと伸びをして寝台の下を探る。手ごろな大きさの桐の箱のふたが開けられ、白く薄い何かと香油が一瓶取り出される。
「……それ、何?」
 封を破りなかみをとりだす普賢に聞くと、避妊具だと答えが返ってきた。
「男相手なのにつけるのか?」
「男相手だからつけなきゃいけないんだよ」
 普賢は香油のふたを取り、避妊具の内側にひとたらしした。濃厚な麝香の匂いが立ち込めるそれを、屹立した望自身にゆっくりとかぶせていく。
「大人用だけど、まあ大丈夫だよね。キミけっこう大きいし」
 言いながら普賢は白い手にたっぷりと香油を取る。とろりとした液体に濡れた手をうしろにやると、自分で自分の中に塗りこめていった。香油が内に広がっていくほどに、普賢の息があがり、まぶたがふるえて熱っぽいまなざしを隠す。
 いま少し望が大人であったならば、その姿を目にしたとたん、自分の中に走ったうずきを言葉にできただろう。だが望は彼が思っているよりずっと子どもで、腹の底からせりあがってくる何かにかすかなおびえを感じながら彼を見守るしかなかった。
 普賢は避妊具の上からも香油をぬりつけ、望をひざ立ちにさせると自分は四つ這いになる。
「いいよ、来て」
 腰に手を添えたもののすっかり圧倒されていた望は、そこばかりはかわいそうなくらい猛ったまま、泣きそうな目で普賢を見る。普賢は小さくため息を吐くと腰をすりつけた。
「ここにね、キミのそれをいれるの。簡単でしょう?」
 うながされてようやく望は腰を進めた。先端が普賢の中に埋まると、ふたり同時に息を吐く。
「ん……いいよ、そのままもっと……」
 言われるままに奥へ、奥へ。飲みこまれ締めつけられ絶え間なく与えられる快感に漏れ出す声を止められない。気がつくと獣のように腰を振っていた。
 夢中になって中をうがつ。つながった部分でぐちゃぐちゃとかき混ぜられる香油から麝香の匂いが立ちこめ望をくらくらさせる。不明瞭な視界の片隅で、打ちつけるたびに普賢の腰の紅が揺れ、汗に濡れて光る。うっすらと笑いながら、望は花をつかむ。
「う、あ、……あぁっ!」
 耐え切れずはじけた。視界が真っ白に塗りつぶされる感覚。
 花をつかんだ手に力を込めた。すがりつくように。

「……ごめんね」
 行為の後始末を終えたあとも口を聞かなかった普賢が、ようやく音を漏らした。
「何が?」
「……いろいろ」
 寝台に並んで伏し、普賢を抱き寄せたまま腰の刺青を撫でていた望の手が止まる。普賢の瞳が不安そうに揺れたのを見て、望は花への愛撫を再開した。普賢は安心したように吐息をつく。
「みんなそうだった。抱きたいだけで……キミは違うんだね」
 何も言えず望は黙っていた。
 正直なところよくわからない。普賢は何がしたかったのか。あの行為で何を確かめたかったというのか。だが行為を通じて、たしかに望の中に芽生えた何かがある。まだ色も形も定まらないけれど。
「俺はこれが好きだ。だからおまえに嫌われてると悲しい」
 椿の刺青をなぞる。
「もしできるなら、俺以外の誰にも見せないでほしい」
「……何故?」
「わからない」
 そう、と普賢はつぶやいた。
「キミはこれが好きなんだね」
「うん」
「キミはこれが好きなだけなんだね」
「……うん」
 うなづいた、短いその言葉から、何かが抜け落ちた気がした。うまくつかまえられない。
「いいよ、それで」
 普賢が目を閉じる。何かをあきらめたように。
 それは抜け落ちて伝えられなかったものにとてもよく似ている気がする。
 今すぐに伝えなくてはならない、そんな使命感に駆られて言葉を探す。
 探す。捜す。さがす。見つからない。気ばかり焦る。
 もどかしい。
 望は低くうなると紅い花に爪をたてた。

COMMENT

■ノヒト ... 2007/04/04(水)05:55 [編集・削除]

 やおいはファンタジーとはいえこの時代に避妊具があるとは思えなかったので調べてみたら
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%A0
起源は、紀元前3000年頃
 殷/周/革/命よりはるかに前だったー!!(B.C11)

 ちなみに現在のゴムさんの原型を作ったドクター・コンドーム(人名)は、サーの称号をもらったそうです。なんてわかりやすいんだチャールズ。

んでいまさらなんですがアンケートとは関係ないですよ。ごめんなさい。