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SS~春風事情

 
「ネコさんなの?」

 ※ネコミミ馬鹿話 12禁くらい 読みにくい

続き

「ネコさんなの?」
「うむ、にぇこにゃにょにゃ」
 激しく聞き取りづらい。というかよく舌を噛まないものだ。
 普賢はいつもどおりおやつをたかりにきた半野良始祖様をまじまじと見つめた。光をはじく黒髪のうえに、見慣れないものが一対、どーんと鎮座ましましている。銀のやわ毛におおわれ、うすい耳朶の内側はほんのり桜色。春風に撫でられ、ぴこぴこと動く。その様は食肉目小型動物、学名フェリスシルヴェストリスカツス、狭義のヤマネコの一亜種の持つ聴覚器官に酷似していた。
 すなわち、ネコミミ。
 オレンジの長衣のすそから伸びたほっそりした銀色のあれは、あれもまたやはり、ネコ尻尾というヤツではなかろうか。
「風邪、ひいちゃったんだね」
「うむ、楊ゼンにょところでもらったにょにゃ」
 今年の仙界のインフルエンザはネコミミがはえるよと通達は受けていたが、ネコ語になるとは聞いていなかった。年中無駄に元気な伏義に症状が現れているのもいただけない。始祖でさえむしばむ強烈なウイルスなら今すぐレベル4認定して隔離したほうがいいんじゃなかろうか。
「ちにゃみに言っておくが、ただ語尾ににゃをつけるだけにょにゅるいにぇこ語ではにゃいにょ。
 にゃ行はすべてにぇこ語ににゃるおそろしい症状にゃにょにゃ。ただしにゃ行い段だけは通常通り”に”ににゃるにょにゃ。まちがえにゅようにするにょだにょ」
 とりあえず語尾の”にょ”は”ぞ”の変化形であるらしい。かるい頭痛を感じて普賢は眉間を押さえた。
「えーと、楊ゼンはどうしてるの?」
「雲中子に対策を任せて今朝から療養中にゃ」
「そうなんだ。今日来るはずだったデータが来ないと思ったらそういうことだったんだね」
「引き始めは変化でごまかしてたようにゃにょだが、高熱でそれもできにゃくにゃったにょにゃ」
「ずいぶんひどいみたいだね。お見舞いは後日のほうがいいかにゃ」
「おとにゃしくにぇておればよいもにょを無理してこじらせおったからにょう。今頃玉泉山で玉鼎と韋護が看病にせいを出しておるであろうにゃ」
「そっか。せっかくいいメロンもらったのににゃあ」
「わしらで食おうではにゃいか。この際だから目いっぱいやすませるがいいにょ。あやつにはいいクスリにゃ」
「もう、いつもがんばってる楊ゼンにそれはにゃいんじゃにゃいにょ?」
 我に返る。
「うつったー!?」
 とっさに頬の横に手をやる。ない。いつもの感触がない。耳がない。
 代わりに頭の上に別の感覚がある。
「ああっ!音が上から聞こえるにゃ!気持ち悪いにょにゃー!」
「にゃーはっはっは!うかつにゃり普賢!
 わしがわざわざ苦労してウイルスもらってきた理由をとくと思い知るがいいにゃ!」
「にゃんてやつ……!」
 まさに外道!
 ギリギリとはがみをする。犬歯がちょっととがってきたような……。
「ああかわいい……かわいいにょ普賢~!」
 感極まった顔で抱きついてくる伏義に肘鉄を決めて、普賢はにゃとにょとにゃんでうめつくされた頭をフル回転させた。
「インフルエンザには早めの治療が不可欠だよにぇ!」
 言うが早いか身を翻し、コンソールを叩いて終南山に一報を入れ、格納庫の黄布力士を遠隔操作でエンジン始動。手荷物をつかんで窓から逃げ出そうとしたところで黒マントの魔の手につかまった。
「逃がさんにょ!」
「とっとと離しやがるがいいにゃ、こにょ腐れ外道!」
「にゃーにゃー言われてもこわくにゃいにょ!ざんにぇんだったにゃ!
 おとにゃしくわしとにゃんにゃんするがいいにゃ!」
「……さむうい……」
「そこだけ素に戻るにゃー!」
 小指の先くらいはあった良心の呵責も、今の一言で吹っ飛んだ。手加減する気は毛頭ない。ふさふさした普賢の尻尾に手を伸ばし、付け根をむんずとつかむ。
「あっ……!」
 あげた悲鳴に艶が混じった。
「ふふふ、力がにゅけるであろう?」
「ぼ、望ちゃんにょ、ばかぁ……にゃん」
 付け根をつかんだまま細腰を抱き寄せ、ちょっと背伸びしてネコミミを甘噛みする。真っ白な長い毛足はふんわりしていて水色の髪とおなじ肌触りだ。
「あ、にゃん……はぅ、にゃん……ん、にゃん……」
「ふふ、ここか。ここがいいにょか」
「はぁっ!にゃん……やめっ、にゃん」
 あえぎ声にまでいちいちにゃんをつけなくても、普通ににゃーとかにゃあんとかにゃはーんで事足りるのではかなろうか。
 へんなとこで律儀なやつだと思いながらも手は止めない伏義であった。