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SS~LOVEノンストップ~あるいはキスもまだな2人の話~

「それはダイレクトメールというのだダアホがー!」

 ※アンケート1位SS
 ※現代パラレル アホい ふーたん女の子注意

 ※ホワイトフェスタに投稿しました。
 ファイル 158-1.gif

 ※男の子Verをこちらにて公開します。
 ※の、予定でしたが、男の子Verが別物になったので女の子Verもこちらで公開します。

続き

「よっしゃ!」
 担任の赤精子がHRの終わりを告げた瞬間、望は椅子を蹴飛ばして立ち上がりガッツポーズをとった。何事かとクラス中の視線が望に集まる。が、本人はそんなのどこ吹く風。いそいそと学生カバンに教科書一式を押し込むとさわやかな笑顔で言い放った。
「ではまた明日な、皆の衆!」
 喜色満面ってあんな感じだろうなあ。
 明日の国語の小テストはばっちりだ。クラスメートは暗黙のうちに見なかったことにすると、廊下を走り去る彼の足音を聞きながら粛々と終わりの挨拶をしたのであった。
「おーい、望!止まれ!止まれっつーの!」
「スース、忘れもんさ!プリント!明日提出の!」
 廊下を走るなって言われたってムリムリ。足に羽でもはえたみたいな望に発と天化がおいついたのは下校中の生徒でごったがえす下駄箱前だった。ようやく捕まえた望に灰色の紙切れを押し付ける。
「まったく、どういうことさ。今日何かあるんさ?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた。おぬしらには特別に見せてやろう」
 にやりと上機嫌な笑みを浮かべ、望はふたりに手招きした。連れて行かれたのは校舎の裏、何の変哲もない自転車置き場。すみっこにふたりを呼ぶと望はずらりと並んだ自転車のひとつを指差し、胸を張った。
「とくと見よ!わしの戦果を!」
 びしっと指差された先にあったのは!
 スーパーグレートデリシャスハイパーママチャリZボンバー、つまり、くたびれた奥様用自転車が1台。無計画にボディにはられたシールは大半がはげちょろけ。藤細工を模したビニール製の前カゴは長年風雨にさらされてパリパリになっている。
「おおおおおおおお!やりやがったなこいつぅ!!」
「すげー!すげーさスース!俺っち感動さ!!」
 だがぼろいママチャリを前にして、望の悪友2人は異様な盛り上がりを見せた。

「ほんとにあったんだな!100円の自転車!!」

 ことの起こりは一ヶ月前にさかのぼる。
 望の恋人、普賢が大学に進学した。
 となりの市にあるキャンパスまでの通学費4年分及び不規則になるであろう生活と増える勉強量その他もろもろの要素を天秤にかけた結果、普賢は大学近くのアパートで一人暮らしすることになった。
 だれもが首を縦に振る中、猛然と反対したのは望だった。若い女の一人暮らしなど危険極まりない男はみんな狼だ帰りの夜道で通り魔に刺されるぞと、実の親すらあきれちゃうような理由を声を大にして言い張ったのだが、本音を言えばなんのことはない。普賢に会えなくなるのがいやだったのだ。
 幼稚園時代に運命の出会いを果たして以来恋焦がれ続けた2つ年上の幼馴染、普賢を追いかけて転入した公立小学校、家族の反対を押し切って入った市立中学校、そして初めて思いを告げた私立高校。すべては普賢と居たいため。友達からでよければと、はにかんだ笑顔を見せてくれたあの幸福は、思い出すたびに胸が熱くなる。
 だがしかし、悲しいかな。6・3・3制の前に2年の年の差は非常に非情。せっかく入った中学も高校も、たった1年しか普賢とともに過ごせなかった。
 ましてや大学、となりの市。
 年とともに落ち着くどころかますます燃え上がる思いは、交換日記(普賢は携帯を持ってない)くらいじゃとてもとてもまかなえない。なにがなんでも花のかんばせを間近で見る方法を確保しなくては、ひからびて死んでしまう。
 だからこそ、望は祖父であり、後見人であり、姜家の実権を握る元始に直談判したのだ。『送迎は不要』、と。
 それというのも望は、全国5万の勢力を持つ茶道の一派、姜家流家元嫡男ゆくゆくは18代目太公望を受け継ぐ身であったから。
 実の息子夫婦を事故で失った祖父は、忘れ形見の孫をねこっかわいがりしていた。望が坊ちゃん嬢ちゃんうじゃうじゃの格調高い私立小学校から公立に転入できたのも、祖父の鶴の一声があったからだ。
 だがしかし、転入には3つの条件がつけられた。ひとつは車での送迎。朝はきっちり8時10分。夕はきっちり15時45分。部活のある日は終了時刻まで威圧的に待機。お目付け役に第一秘書の楊ゼン、護衛に秘書見習い韋護までつけられて屋敷に直行。
 家に着いたらふたつめの条件。祖父を相手に20時までみっちりお手前の稽古。火曜は華道、木曜は詩歌、土日は各種茶席、もしくは骨董市へ。稽古が終われば21時まで夕食兼小休止及び入浴。そこからみっつめの条件、学力考査満点を満たすため宿題と予習復習、月・水・金には家庭教師が来る。25時、枕もとの普賢の写真にちゅうして就寝。
 これが小学校からえんえんと続く望の日常だった。発も天化も担任もこのハードな日課を知っているから、多少のやんちゃはおめこぼしをもらっているのだ。慣れないうちは何度も倒れて寝込んだものだった。だが。
『望ちゃんはがんばりやさんだね』
 微笑む普賢のその一言で、すべて報われる気がした。どんな労苦も、目的があればつらくない。望にとって普賢は日々を過ごすためにもなくてはならない存在だった。
 小学校中学校そして高校1年、望は元始の出した条件を忠実に守った。その実績を前面に押し出し、望は送迎の不要性と門限の緩和を申し立てたのだった。討論は春休み2週間を通して行われ、ついに祖父が折れた。
「……自転車通学でなければならないと、言うのじゃな?」
「自転車通学でなければならないのです」
「小学校の時にも言ったと思うが、望よ、この世界でもっとも重視されるのは格式じゃ。おぬしはそれを蹴り、無名の学校を選んだ。世間を納得させるには、平均以上の働きをもたねばならぬ」
「わかっております。だからこそわしは勉学以外にも力を注いできた。小中ともに生徒会長になり、中学校では合気道部を率いた。全国にはおよばなかったものの、弱小から一気に順位を伸ばしたのはご存知の通り」
「うむ、その功績は認めよう。義務教育を終え高校生活にも慣れた今、この祖父の手を離れ一人の人間として見識を広めたいというおぬしの言い分はもっともじゃ」
「では!」
「もっともじゃが……」
「言いたいことがあるならはっきりと言うてくだされ」
「いやじゃあ~!ワシのかわいい望が、望が!おじいちゃんさびしいぞおー!」
 よよよと泣き崩れながら膝にすがる祖父に望は拳を握り締めて耐えた。
「ううっ、成長したのう望よ。おじいちゃん感激じゃぞ~。じゃがなぁ、じゃがなぁ、ううう、やっぱりおじいちゃんはさびしいぞー!」
 いつもこんな感じでなしくずしにされるが、ことが普賢がらみとなると望も負けてはいられない。年甲斐もなくめそめそしているジジイの襟首をつかみ上げ、ドスの聞いた声で決断を迫る。
「ううう、これも望が健やかに育ったゆえ。独り立ちはさびしいが、せねばせぬで困りものじゃ。天国の息子夫婦も喜んでおるじゃろう。
 望よ、よくぞ言うた。新しい世界に踏み出すおぬしにジジからはなむけをやろう。手を出すがよい」
「はっ!」
 望は両手を差し出した。まったくついている。あのジジイが折れた上に自転車購入資金を出してくれるようだ。
 しわだらけの手が望の手にかさねられ、ひんやりした感触が掌中に落ちた。元始が手を引いたあとには、にぶい銀色の硬貨が一つ。
「……これは?」
「見ての通り100円硬貨じゃ。由緒正しい日本銀行発行物じゃぞ」
「……ありがたく頂戴いたします」
「望よ。見た目に惑わされてはいかんぞ。獅子は千尋の谷にわが子を突き落とすという。祖父の苦しい胸のうちを受け取ってくれるな?
 我が孫にして次期当主ならば、必ずやこの100円を立派に使い切ってくれるものと期待しておるぞ」
 えーと。
 それはつまり。
 総額100円で自転車を買って来いってことだなクソジジイ。
 それができなければ自転車通学は儚い夢と化す、と。
 してやったりと言いたげに邪悪な笑みを浮かべる祖父を見ていると、俄然望の中に闘志が湧いてきた。
「お気持ち、しかと受け取りました……!」
 100円玉を握りつぶさんばかりの勢いで、望は祖父に勝るとも劣らない笑みを浮かべたのだった。
 かくして望は少ない自由時間とコネとツテを頼りに頼り、足を棒にしてリサイクルショップをまわり、ネットオークションにくびっぴき。最終的に発の知人の友人の3軒となりの李さんとこのお古をゆずってもらうことになった。
 それがこの。
「スーパーグレートデリシャスハイパーママチャリZボンバーだッ!」
「そりゃちょっと長すぎね?」
「舌かみそうさスース」
「む、ではおぬしらが考えてみろ」
 言われて発と天化はうむむと首をひねった。じっくりとっくり望の愛車をながめていると、白いカバのシールが目に留まる。
「お、なつかしー。封神演義さね」
「あー、あったあった、ジャンプで連載されてたやつだろ?なんだっけ、これ」
「スープーシャンだったと思うさー」
「いんじゃね、それで。スープーシャンな。はい決定」
「お、おぬしら、わしの努力と苦労の結晶をなんだと思っておるのだー!」
 叫んだ望がふと腕時計に目をやる。
「ぬう!だいぶたってしまったな。門限7時に間に合わぬかも知れぬ。よし、これはスープーシャンでいいことにする!ではさらばだ!また明日!」
 勢いよく手を振ると望はママチャリZあらためスープーシャンにまたがった。もうもうと砂煙を残し去り行く背中はあっという間に見えなくなる。
「あいかわらず元気いっぱいさね」
「つーかよー、普賢ちゃんの下宿てきらめき市のときめき台だよな?」
「確かそうさ」
「片道2時間はかかるんじゃね?」

 そんなこと望にはよーくわかっているのだ。
 学校から下宿先までゆるゆるいけば片道2時間、全速力なら1時間半。帰りの時間を門限からひいた30分。それが望に許された時間だ。
 部活で走りこんでおいてよかったと、望はペダルを踏みしめながら思った。
 年季の入った大学の校門を通り過ぎて、一路南へ。なんの変哲もない住宅街にアパートはあった。2階の角部屋の前で、なんとなく深呼吸。インターホンを押す。ぱたぱたと足音が聞こえてドアが開いた。
「望ちゃん!」
 半分開いた扉の向こうに夢にまで見た姿があった。色のうすい髪が春風にふわりと揺れる。
「ほんとに来てくれたんだね」
「おぬしとの約束だからな」
 通されたワンルームはきれいにかたづいていた。油の香りがする。
「小腹がすいてるかなって思って」
 そういいながらちゃぶ台のうえに揚げたてのゴマ団子をのせる。
「うれしいぞ普賢。ありがたくいただくとしよう」
 普賢の顔をながめながらほくほくしたお手製のゴマ団子を味わう至福。しあわせ過ぎて顔がにやける。
 じっと見つめてくるのは普賢も同じ。一ヶ月ぶりの逢瀬の喜びに言葉も出ない。目が合うたび、照れくさそうに笑う。
「普賢」
「望ちゃん」
 名前を呼んで。呼んだだけ。それだけで充分。
 望は普賢だけ見つめて、普賢は望だけを見つめて、そんな当たり前のことがまだむずかしい関係だから、ささやかだけど何よりも贅沢なひと時。にこにこしながらほんのり頬を赤らめて、2人向かいあってゴマ団子をつつく。あっというまになくなった。
 満足そうにため息を漏らし、望は部屋の中を見回した。パイプベッドに古びた勉強机。大き目の本棚いっぱいにぎっちりと本が並んでいた。勉強机には見覚えがある。普賢の実家にあったものだ。
「引越し、手伝えなくてすまんな」
「気にしないで。望ちゃんは僕よりずっといそがしいじゃない」
「春は行事が目白押しでのう。だが甲斐あってわしは自由を勝ち取ったぞ、これからはいつでもおぬしに会いに来れる」
 片目をつむって笑ってみせる年下の恋人はだれよりも頼もしく見えた。
「ひとり暮らしはどうだ?不便はないか?」
「ううん、平気。大学で友だちもできたしね。お昼ごはんとか多めに作ってわけっこしてるんだよ」
 はしゃぐ普賢にうなずきながら、望はとりあえず顔もわからぬ友人宛に嫉妬の念を送っておいた。
「でも、やっぱり全部自分でやるのは違うね。家事はひととおりできるから大丈夫だと思ってたけど、わからないことやとまどうことが多くてさ」
「ふむ、そういうものか」
「うん、そうだ。見て見て、こんなの来たんだよ」
 普賢は新聞のつまったマガジンラックから封筒の束を取り出した。そのうちの一枚を手に取る。安っぽい封筒に毒々しい赤色で『受取ったあなたが開封してください』などと書いてある。不吉な予感に眉をしかめた望をよそに普賢は嬉々として説明しだした。
「これねーすごいんだよ。懸賞にあたったから返事くださいって書いてあるの、返事出したら5千円もらえるんだって!」
 がん。
 望は盛大にちゃぶ台へ突っ伏した。脱力した両腕に力をこめ、ゆっくりと起き上がる。
「それはダイレクトメールというのだダアホめー!」
「そうなの?」
「反応を探るためのでっちあげだ!言うなればカモをひっかける撒き餌だ!」
「へえー、そうなんだ。おもしろいね。じゃあこっちもそうなのかな」
「どんなのだ」
「税金を払いすぎてるから還付します、指定の口座に手数料を振り込んでください」
「……それは詐欺だ」
「おもしろいね!」
「なんでもかんでも面白いですますな!なんでいいとこ出のわしより箱入りなのだおぬしはー!」
 だめだ、やっぱりわしがついておらねば!
 あっけらかんと笑う普賢を前に心の中で拳を握る。ちょっと古風な両親に大事に育てられた普賢は少々浮世離れしたところがあった。
「普賢、やはりおぬしに一人暮らしはムリだ。このままでは業者に食い物にされて欲しくもないあれこれを買わされ借金漬けの日々を送ることになるぞ!」
「もう、望ちゃんたら。僕だってやるときはやるんだよ」
「本当かあ?」
「うん、新聞の勧誘お断りしたんだよ」
「ほほう。どうやった」
「え?ふつうに家にあげて……」
「あげたんかい!あー、うん、続きは?」
「家にあげてお茶をお出しして話を聞いて、なんか途中から人生相談になっちゃって、僕ずーっと聞いてた。3時間くらいしたら黙りこんじゃったから、そんなに自分を嫌いになることないよって言ったんだ。そしたら号泣されちゃって」
「……」
「つらかったね、もう大丈夫だからって言いながら頭なでてたらさっぱりした顔で帰っちゃった。ときどき街中で会うけど、すごくいい笑顔を見せてくれるんだよ」
「……」
 もう望にはよかったなと返すのが精一杯だった。ある意味無敵かもしれない。無敵かもしれないが、ひょっとしなくても運がよかっただけではなかろうか。
 やはりこやつにはわしがついておらねば……!
 さきほどの決意をいっそう固くする。24時間四六時中普賢のそばに居てやりたい。だが時計はすでに帰りの時刻。初日から門限を破ったらあのジジイのことだから満面の笑みを浮かべながら自転車をとりあげるだろう。
「普賢」
 ぽんやりした愛しい人の肩をつかんだ。
「明日も来るからの」
「うん、待ってる」
 微笑む普賢はめまいがするほどきれいだ。ぜったい、絶対、普賢をこの世の悪意すべてから守り抜いてみせる。そのためには……。
 2年。あと2年の辛抱だ。
 高校を卒業したら普賢と暮らそう。18になったらすぐさま祝言を挙げよう。見合い相手を山ほど連れてくるだろう祖父と過保護気味の普賢の父親が気になるが、なんとかしてみせる。
 なんだかんだでやりたいようにやってきた。
 今までずっとそうしてきた。
 これからだってそうするのだ。

 卒業までの2年間、望はスープーとともに片道2時間を往復することとなる。

>『男の子Ver

COMMENT

■ノヒト ... 2007/04/15(日)02:55 [編集・削除]

書き上げた後で「男の子だとどうなるんだろう」とおもったのが運の尽き、みたいな。
本筋は変わりません。
途中の表現がちょこちょこと変わるくらい。

■ノヒト ... 2007/04/15(日)03:08 [編集・削除]

あきゃー!送った文章にケアレスミス発見!
3回くらい読み直したのになあ。とほほ。