「おまえが女だったらなあ」
※暗い 12禁くらい
※ふーたん男の子注意
※むむ?
「おまえが女だったらなあ」
コトが終わった後、望ちゃんはいつもそう言う。
僕は枕に顔をうずめて寝たふりをする。腰が痛い。
望ちゃんがため息をつく音がする。僕のほうを見た気配がする。
「あーあ」
望ちゃんは寝台へ乱暴に身を投げ出した。古くて頑丈な寝台はそんなことされてもびくともしない。せいぜい隣でうつ伏せてる僕に振動が伝わるくらいだ。
「せめて胸があればいいのにな。こう、でっかくてふにふにっとしてさ。きっとやわらかいと思うんだよ、アレは。俺一度でいいから女の胸触ってみたい」
暖かい手が僕の背を一撫でした。
「せめてもうちょっと食って肉つけろよ。ガリガリ過ぎるんだよ。骨あたって痛いんだよ」
僕は懸命に寝たふりを続ける。僕らの部屋は天井が高くて寒い。汗の引いた体を冷気が包んでく。
「ちぇ」
望ちゃんは舌打ちをして、寝返りを打った。
「女とつきあってみたいなあ」
いつもどおりそう言うと、望ちゃんは目を閉じた。
仙界に女は少ない。
いるのは既に心添わせた相手のいる人か高嶺の花だけだから、僕らみたいな新米の道士風情にお鉢がまわってくることはない。
だからつまり、これはそういうこと。僕とキミはお手軽で気楽な関係、肌を合わせる程度には。
始まりは、なんだっけ、もうよく覚えてない。好奇心だったんだろう。望ちゃんが触ってきて、僕は特に抵抗しなかった。声を殺すのに必死だった気がする。
終わった後なんだかすごくみじめな気分になって僕はすぐ風呂場へいってシャワーを全開にしてこっそり泣いたんだけど、望ちゃんは味をしめたらしくて、以来毎晩僕の中に入りたがるようになった。
望ちゃんにはこれがすごく気持ちいいらしい。だけど僕はこれをいいものだなんて思ったこと、一度もない。
口の中を舐められたり、胸やあそこの先っぽをいじくられたりするのはちょっと気持ちいいけど、それ以上はただ痛いし苦しいだけ、だいぶ慣れたけど。でも望ちゃんはこれを気に入ってる。だから僕も最後には結局肌を許す。
腰が痛い。ズキズキする。望ちゃんはすぐ僕の中に入りたがる。中に全部出して満足したらおしまい。すぐに離れてく。待ってるのはお決まりのセリフ。
たしかに僕は小さい。僕は背が低い。僕は痩せてる。僕は目が大きい。僕は女の子みたいだねって言われる。だけど僕は女じゃない。だから望ちゃんはいつもこう言う。
「おまえが女だったらなあ」
僕がどうしてあの時抵抗しなかったのかなんて、きっとキミにとっては一生どうでもいいんだろう。
それから月日は流れて、僕らもいっぱしの扱いを受けるようになった頃。
僕は花冠の一人から告白された。
「すきです、つきあってください」
僕は彼女を知らなかった。彼女も僕を深く知らないようだった。どうして知らないもの同士が交友関係における優先権を保持しあわなくてはならないのかは正直よくわからなかったけれど、OKした。
その晩望ちゃんはとても機嫌が悪かった。眉間にたてじわを刻んだまま一言もしゃべらなかった。そのくせ僕の中には入ってきた。いつもは1回なのに3回した。その晩望ちゃんは僕を抱きしめて眠ろうとした。
「ねえ」
「……」
「どうして今日はそんなにくっつきたがるの?」
「別に、いつもどおりだろ」
望ちゃんが僕と目をあわせようとしない。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ、どうして望ちゃんは僕を抱くの?」
「……」
「どうして望ちゃんは僕を抱くの?」
「……どうって、そりゃ、気持ちいいからだろ」
「僕は女の子じゃないよ?僕は痩せすぎだから骨があたって痛いよ?」
望ちゃんが押し黙る。僕はもう一度くりかえしてやる。僕よりもっと気持ちいい人が他にいるよって言ってやる。
「うるさいな、眠いんだよ俺は」
「寝るのなら離してよ、いつもどおり」
「たまにはいいだろ」
「いやだよ、いつもどおりにしてよ。でなけりゃ僕の質問に答えてよ。
僕は女の子じゃないんだ。そんなに抱きしめられても苦しいだけなんだよ」
望ちゃんの体がこわばる。やがて早口でしゃべりだした。
「だっておまえがいちばん手軽なんだよ。いつも一緒にいるし、寝るときも一緒だし。どこをどうすればいいか大体わかるし、中の感触だってわりと気に入ってるし。いまさら遠出してあたりつけて一から口説くなんてかったるくって」
やってられないんだよって望ちゃんは言った。
僕はそうってそれだけ言って、体の力を抜いた。目を閉じた。そのまま眠気が訪れるのを待つ。
「……普賢?」
ちいさい、蚊の鳴くような声で望ちゃんが僕を呼んだ。
僕は答えなかった。口を開けたら喉元まで来てる嗚咽がそのまま飛び出ていきそうだった。僕は懸命にそれをこらえた。平静を装おうとしたけど、下唇を噛むのだけは我慢できなかった。
望ちゃんが僕に触ってきた。そおっと、触ってはいけないものに触るみたいに。僕の顔を見つめてるのがわかる。僕の表情をうかがってる。僕は目を閉じたままぜんぶ無視した。
望ちゃんが僕を触る。おずおずと撫でまわす。入ってくる。
普賢、普賢って、望ちゃんは僕の名前をいっぱい呼んで、短く叫んで僕の中に出した。
ぜんぶ無視した。
その日から望ちゃんは僕に触らなくなった。
しばらくたって、僕は望ちゃんが女の人と一緒に居るところを見かけた。年上の仙女だった。
化粧がよく似合っていて高く髪を結い上げてて腰がきゅっとくびれていて、もちろん胸も大きかった。仙女様は楽しそうに何やかやと望ちゃんに話しかけていたけど、望ちゃんはあまり楽しそうじゃなかった。
「いやだわ普賢様ったら、私がいるのに他の女の人を見つめないで」
僕の隣に居た花冠の彼女は機嫌を損ねたようだった。彼女に袖をひっぱられて、その場を離れる。
うつむいて相槌を打つ望ちゃんを、僕は振り返った。望ちゃんは僕に気づいてなかった。それをいいことに僕は何度も振り返った。
「普賢様ったら!」
彼女の声が奇妙に遠く聞こえる。
僕はもう一度振り返った。柱の陰になって、もう望ちゃんの姿は見えなかった。
>>望ver
■ノヒト ... 2007/06/17(日)04:52 [編集・削除]
ちょっと前後しましたが、50本目のSSを書くにあたってあれとかこれとか長編とか短編とか色々考えてたんですが、結局思いつきとパトスだけで書き上げたものになりました。
まー、とっても、自分好みで、自分らしーんじゃないの?と思える出来なのでまいっか。
今後も質より量より気まぐれでやっていきます。