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SS~無題*頂き物

 いただきもの。
 
 by>>LOVE∞ えび子さま THX A LOT

 ※血ィ カキ氷 食人 BR指定 自己責任でどうぞ
 
 
続き
 
 

言いつけられた1週間の山ごもりの修行を終え、
洞府に戻ると、なにやらゴリゴリと音がした。
リズミカルとは言いがたくも、規則的なその音は
台所から聞こえてくる。
夏場、ごりごり、台所、とすればアレだ。
それから連想される氷菓は、甘い物に目のない師匠と、
シュガージャンキーと目されるその恋人、
そして自分の大好物だ。
乾いた咽がなった。

「ただいま帰りやした!」
勢いよく台所の戸を開けた。

ごり

音が止んだ。
師匠がゆっくりと振り返り、
天使のような顔で微笑んだ。
「おかえり、木タク。」
その天使の横には器に盛られたカキ氷が見える。
色は真っ赤だ。
「イチゴ味っすね。
 頂いてもいいすか?」
「ごめんね、木タク。
 これはあげられないんだ。」
やんわりと断られた。
とすると、これは自分のためではなく
師匠の恋人に用意されたものなのだろう。
お預けをくらって肩を落とすと
師匠はにこりと、やはり天使のように微笑んで
別の案を提示してきた。
「その代わりに
 君のカキ氷を作ってあげるから
 メロンシロップを借りてきてくれるかな?
 太乙の洞府にあると思うから。」
太乙の洞府、乾元山―は近いと言える距離ではない。
修行帰りの身には堪えるが、師匠の手作りカキ氷が食べられるなら
頑張れるような気もする。
「わかりやした!行ってきやす!」
行くと決まれば善は急げ、挨拶をして
台所から駆け出す。
「いってらっしゃい。」
小さく送り出す声が聞こえた。
そして再びごりごりという規則的な音。

*

「メロンシロップ?
 そりゃあるけどさ。なんでまたわざわざうちまで?」
乾元山の主、太乙真人は突然の木タクの来訪を
温かく迎え入れたが、その来訪の理由を知ると
不思議そうな顔をした。
「へえ、普賢師匠がこちらにお邪魔して
 借りてこい、とおっしゃるものですから。」
「?なんでだろう。
 終南山特製カキ氷シロップ詰め合わせセットが
 普賢の所にもお中元で行ってるはずだけどなー」
シロップの出所を知って、木タクはほんの少し食欲が失せた。
「太公望のダンナが全部食っちまったんじゃないすかね。」
「あは、それはあるかも。
 甘いもの見境なしだからねー。
 ちょっと待っててメロンシロップ取ってくるから。
 他にイチゴとかレモンのもあるけどいる?」
「いえ、メロンだけで結構す。」
「そうだね、あげたところで君じゃなくて
 あのシュガージャンキーのおなかに入るだろうしね。
 ええと、確かこの辺に…
 そういえば太公望最近見ないよね、
 おなか壊して寝込んでたりして…
 あ、あったよ、はい。」
「ありがとうございやす、太乙師姉。」
「どういたしまして。
 食べすぎには気をつけるんだよ!」
「へえ、失礼しやすー」
「普賢によろしくねー」

*

長い道のりを越えて、
やっとの思いで帰ってきた洞府は
何か違った。

特に、何がおかしいというわけではないが
修行で研ぎ澄まされた感覚が、
違和感を訴えている

「師匠ー?」
師匠を呼ぶ声が洞内に響いた。
やけに静かだ。
ごりごりという音も、聞こえない。

台所に戻ってみると、
そこにいるはずの師匠の姿は見えなくなっていた。

食卓の上にガラスの器に盛られた
カキ氷が残されている。
雪のように真っ白だ。

真っ赤なカキ氷、笑顔の師匠、いなくなった太公望、
『とすればアレだ』
脳裏を過ぎった連想を慌てて打ち消した。

考えてはいけない。

今、自分がやるべきことは
メロン味のカキ氷を食べることだ。

寒くないのに震える手で、カキ氷にメロンシロップをかける。

食卓の上にガラスの器に盛られた
カキ氷が残されている。

COMMENT

■ノヒト ... 2007/08/08(水)01:29 [編集・削除]

夏らしいSSをいただいちゃいました!やったー!ラブリー!
白鶴洞の冷蔵庫にはメロンシロップがちゃんとあるらしいよ!

たまらんですね、江/戸/川/乱/歩読み返したくなっちゃうなあ。日本の夏。