「普賢、普賢なのか?」
※現代
※どう見ても日本です。本当に(略
「普賢、普賢なのか?」
「望ちゃんなの?久しぶりだね!」
なんて会話を街角で交わしたふたりは、2千年ぶりくらいの再会になる。
すったもんだの末、蒸発同然に姿をくらました始祖と、死んだのだか生きてるんだかよくわからないままのんびり過ごす菩薩はこれで無二の親友だったりするわけで、積もる話は既にヒマラヤ山脈を形成し化石掘り放題もってけドロボウ状態。100年単位で行動するせいか、ものめずらしげに辺りを見回す普賢の手を引き、招いた先は赤のれんだった。
「わあ、うれしい。望ちゃんとの飲むの何年ぶりだろう」
「なまぐさ以外も多い店だからのう。おぬしも楽しめると思うぞ」
とかなんとか言いながらおしぼりで手を拭きつつメニューを広げ、まだ迷う普賢を尻目に店の女性に矢継ぎ早に注文する。食べたいものをあらかた指名し終えると、望は改めて親友を振り返った。
「割り勘な」
「……」
去り行く店員の背中に目をやり、先ほどとはニュアンスの違った微笑を浮かべた普賢は、向かいから来た別のウェイトレスに向かって手を上げた。
「すみません、酔心と賀茂鶴と松縁。ああ、全部2合づつで」
「……」
「割り勘ね。ちゃんと2人分だよ」
今度は望が薄く笑う番だった。卓上の呼び鈴を押し鳴らし、店員を呼びつける。
「大根サラダと、湯豆腐、生麩の田楽、それと刺身こんにゃくもつけてもらおうか」
かしこまりましたと頭を下げる相手を普賢が引き止めた。
「二階堂と黒閻魔、やき麦と魔界、あと、この夢想仙楽ってのもお願いします。全部ロックで」
「追加で枝豆とフライドポテト、ネギ皮の旨炒め、ししとうとしいたけの串焼き」
「薩摩白波と白鯨と、あ、泡盛あります?じゃあ照島と珊瑚礁もお願いします」
「釜飯に茶碗蒸しと赤だしつけてくれ、かっぱ巻きも頼む」
「ジャックダニエル、ワイルドターキー、アーリータイムス、エバンウィリアムス」
「エビとアスパラのペペロンチーノ風、あんかけ竜田、揚げ餃子と水餃子と焼き餃子と蒸し餃子全部」
「ここに載ってるお酒全部お願いします」
「このページの食い物全部持ってきてくれ」
分厚い注文表に復唱するのも忘れて厨房にとって返したウェイトレスを見送り、彼らは再び顔をあわせた。『ほんと変わっとらんなこやつ……』
『ほんと変わってないね望ちゃん……』
喜ぶべきか悲しむべきか。時を駆ける野郎どもは、複雑な表情のままとりあえずお冷で乾杯したのだった。