普賢は鼻歌を歌う時がある。
※原作準拠
※なのか?
太極符印をいじりながら、普賢は鼻歌を歌う時がある。
歌詞も旋律もでまかせのでたらめもいいところで、歌としての体裁をなしていないが、本人いわく単純作業の傍ら脳を休めているのだからそれでいいそうだ。宝貝をつかった崑崙山のシステムチェックも、普賢にとっては退屈でつまらない作業であるらしい。
歌うのはたいてい、独りでいる時だ。言ってみれば脳内データだだもれ状態であるから、非常に恥ずかしい行為なのだそうだ。まあ確かに、あんなトンチキな歌とも呼べないものは、人前で披露するには難がある。
だから、自分がそばにいる時に普賢が鼻歌をくちずさむのは、それだけ自分を身近な存在として認識してくれているからだ。太公望はそう思っていた。
「む」
いつもどおり白鶴洞へごろ寝をしに来た太公望は、窓枠の隅に身をひそめた。
普賢が歌っている、しかもけっこう大きな声で。
相当機嫌がいいのだろう。太極符印から照射されたパネルが、リズムを取るように次々と処理されていく。複雑な計算式と言語を操る手つきはいつも以上に鮮やかだ。入っていけばお楽しみの邪魔をしてしまうことは間違いない。太公望は気づかれていないのをいいことに、様子を見ることにした。うすく開いた窓から、普賢の歌声が聞こえてくる。
「タークマラカーンからやってきたー、ぼくらのみーかたタイコーボーゥ
めーつぶっし、きんてき、なんでもごっざっれー
やーみうっち、ふーいうっち、すぅー巻きでGO!(裏声)
むーねにきーらめっく、卑怯のにっもっじー
(セリフ:ってか、望ちゃんってやってることガチで陰険だよね)
勝ーてば官軍、勝ーつまで官軍、勝ーち逃げばんざいタイコーボーゥ」
「…………」超ノリノリで作業を進める普賢の背中をじっとりと眺め、とりあえず人の出生地を捏造するなと、あとタクマラカンじゃなくて、タクラマカンだタクラマカン、と。少なくとも左記2点を問い詰めるため、時間を置いて改めて白鶴洞を訪れ、何食わぬ顔を装ってさてどうしてくれようかと。
考える気力も湧かなかったのでとりあえず庭の木に登ってふて寝することにした昼下がり。