(徳+雲)×乙ベースの望普
by えびこさま THX A LOT
神々の住まう地では、ふわふわと天使が団子を作っている。
甘い匂いにひかれて、相伴に預かろうとする者がやってくる。
天使は彼等にあらかじめ作りおいているクッキーを渡した。
団子はダメなのだという。
そうしてクッキーを手にした者は、その団子が
妻が夫に作るものということに気付く。『BetterMan』
仙人たちが蓬莱に移り住んで、何十回めかの正月、
空と海が綺麗に見える岬の家から魂魄がひとつ飛んだ。正月中も休まず見回りの勤めを果たしていた赤毛の少年は
血相を抱えて家に飛び込んできた。
そして、住人の科学者の姿を見とめて
安堵の表情を浮かべる。
それから科学者の隣に医者が渋い表情で立っているのに
気づいて、首をかしげた。部屋の隅の『必勝!』『努力!』『根性!!』などと書かれた神棚の白い皿から
団子がいくつか床に転がり落ちている。
正月が近づくと科学者が、愛と力を込めて作る団子だ。
非常に硬く、常識外れの粘度を備え、異常にパサパサして、
飲み込むのにも相当な労力を要する、通称『根性団子』。食べ物と言うよりはそれは正月に行う一種の力試しで
それを食べることができたのは
自分を除けば一人だけだったと、少年は記憶していた。正月になると毎年どこかの家で餅や団子が
無くなる事件が起きていたことも少年は思い出す。証拠こそ残さなかったが、犯人が誰なのかは皆知っていた。
ぶらぶらとしている彼に口々、所帯を持って落ち着くように
勧めたものだった。
積極的に料理を用意して彼を迎えようとする仙女もいたが
彼は仙女の好意には感謝の言葉を述べても受け入れず、
毎年、餅や団子を盗み続けていた。それを受けて、各家では正月の餅の警備は厳しくなっていたが、この岬の家は全く無防備だった。
この家の食物に敢えて手をつけようとする者がいようとは
当の住人も予測していなかったためである。おそらく、毒やショックではなく、
団子が咽に詰まったのが死因だろう。少年は、そうまで追い詰められた賊に同情の念を抱いて黙祷する。
科学者は声をあげてすすり泣いている。
医者は科学者に「君は悪くない」と慰めの言葉をかけつつも
迷惑そうな表情だ。
蓬莱の宝貝の調査で忙しそうに働きたがる科学者を
なだめすかして、ようやくゆっくりとした正月に持ち込んだ医者の苦労を
少年は知っていたが、
「この正月は二人きりで過ごすから年始参りは来なくて良いよ」
と言われていたので医者に対しては同情の念は湧かなかった。程なく、もう一人の見回りの任についている少年が駆けつけてくる。
幾分か青い表情で現われた少年は、
師である医者と目が合うと、なんだよ、いよいよくたばったかと思ったのによ、
と小さく悪態をついた。
医者は悪態を無視して団子を床から拾い集めて神棚の皿に置いた。
そうしてふうと溜息をついて
「そっちに行ったから」
と誰にともなく呟く。
続きの言葉は、そっちに行ったからよろしく、ではなくて
そっちに行ったから懲らしめてやってくれ、
なのだろうと、漠然と少年は考えた。ホウ酸団子を誤って食べてしまっただとか
世を儚んで、わざわざあの研究所の団子を口にしただとか
妻と不倫中に夫に見つかって撲殺されただとか様々な噂が流れたが、真相は明らかにならなかった。
「まあ、本当の所はまた会った時に本人に聞けばいいか」
今頃は神の住まう地で、ようやく所帯を持って
団子を食べているかもしれない。お供えを盗み食いされた男は笑いながら
アッパーの一つでもくれているかもしれない。真相は特に、誰も明らかにしようとはしなかった。
■ノヒト ... 2007/03/30(金)18:16 [編集・削除]
ふーたんの団子が食えるなら芯でもいいかもしれんよとわりと真剣に考えている自分が恐ろしい。
でもクッキーもらえるんなら引き下がる。