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SS~ウィンプ

 
「郵便でーす」

※一応18禁 エロ本ネタ
※望ちゃんがすごくかっこ悪い
 
 
続き
 
 
 

 
 
「郵便でーす」
 軽やかな音とともに届いた大小の包みの山から、太公望は大きく平べったい包みを引き抜くと、脱兎の勢いで玉虚宮の自室へ戻った。ぬかりなく周囲の気配をうかがったうえで、扉に鍵をかける。
 今日はサボリでなく正式に休暇を取り付けてある。同室の普賢は乾元山で修行と称して宝貝実験、夜になるまで戻ってくることはないだろう。桃も菓子も飲み物も用意した。準備は完璧。
 太公望はガラにもなく緊張した面持ちで机に向かい、包みを開けた。中から出てきた大判書籍に身もだえする。
「やった、やったぞ……。ついに手に入れたぞ……!」
 本の表紙には素肌に薄絹をまとっただけの少女の姿。俗に言う写真集というやつである。――わいせつなほうの。
 
 事の起こりは3カ月前、いやいや本当のところは5年前か。
 暗い気持ちで仙界へあがった太公望の気持ちを、ときほぐしてくれたのが普賢だった。以来普賢と自分は、自他とともに認める親友兼ライバルでいる。だがある日、太公望はふと気づいてしまったのだ。
『わし、普賢のこと、好きかもしれない』
 好きかもしれないが、好きだ、に変わるまで時間はかからなかった。だがいまだ想いは伝えていない。思い立ったらすぐ行動に出るのが太公望のいいところであり未熟なところであったが、この件に関してだけは彼は問題を先送りにすることにしたのだ。
 何故なら彼と普賢は同門で、さらに同室で、とどめに同性だった。
 そう同性だった。
 普賢は男、自分も男。これが異性だったなら、せめて轟沈して気持ちを切り替えることも出来たのだろうが。なんでこんなことになったのかと煩悶すること3年、もういいじゃん諦めようよ墓の下まで持っていこうよ、で、2年。悟りを開きかけていた彼をなまぐさの道に叩き戻したのが、目の前の写真集だった。
 3ヶ月前、物見遊山がてら文殊にくっついて下界に降りた太公望は、自由行動の際本屋に立ち寄った。その店の奥の成人向けコーナーに平積みされていたのがこの本だったのである。けばけばしいんだか詩的なんだかよくわからない表紙で恥ずかしげに微笑む少女は、髪と目の色こそ違え、普賢にそっくりだった。
 以来太公望は師匠の目をかいくぐっては血眼になって小遣い稼ぎ。危ない橋を渡ること数度。ようやく手元不如意から解放された時にはとっくに本は売り切れ、お取り寄せサービスまで利用して、やっと、やっと。
 感涙にむせび泣きながら机に突っ伏し、直後に本が汚れることに気づいてがばりと跳ね起きる。幸い表紙は濡れていない。指先で少女の輪郭をなぞる。
「……きれいだ普賢」
 いや正確には普賢じゃないのだが。恋する男の脳内変換能力をなめてはいけない。とりあえずズボンを脱ごうか、うん。下履きごとベッドの上に放り投げ、人には見せられない姿になって、あらためて少女と向かい合う。
 見れば見るほど顔がにやける。いやしかし、と太公望はぶるぶると首を振った。表紙が美人なのはお約束だ。問題は中身である。最悪表紙だけ使えばいいかとか不穏なことを考えながら、おそるおそる本を開いた。
 期待にたがわぬ美人っぷりだった。表紙の少女が目を伏せて前をはだけている。儚げでいて艶っぽい。もうそれだけで太公望はボルテージ急上昇、さっそく昇天してしまってもよかったのだが。
『いやまだまだ!一通り目を通すまでは!』
 ページをめくるごとに少女は一枚、また一枚と衣服を落として行き、ついに本の中ほどで全裸になった。
 太公望は本をよけて机の上に崩れ落ちた。拳を握って机を叩き、肩がふるえて軽くむせている。気分は座ったままスタンディングオベーション。あまりの興奮っぷりに今日はこの辺にしておくかとの考えが、ちらりと脳裏をかすめた。まあ実際そのへんにしておけばよかったのだ、次のページを開かなければ。だが彼の手は意思とは裏腹に動き……。
 雷が落ちた気がした。
 見開きいっぱいを使って、少女が寝台に横になっていた。しみひとつないシーツの上に白皙の肌、そこに、ぎっちりと食い込む紅い縄。
 
 彼の性的嗜好はこの瞬間決定されたと言ってよい。
 
 頭は真っ白。息をすることすら忘れて。
 家畜と寝起きする生活を送った身、性についてのイロハは知っている。が、そこまでだ。仙界での生活にそれ以上は必要ない、だから太公望の知識はその頃で止まっている。そこにこの刺激は強すぎた。理性も欲望も吹っ飛ばすほどに。
 完全に呆けた状態で、でも手だけは勝手に動いてページをめくっていく。細い体が身をよじるたびに食い込む紅縄、蝋をたらされ、ムチで打たれる少女、苦悶と恍惚が入り混じった表情のなんと甘美なことか。ひとつひとつが、写真でも写すように太公望の脳内にプリントされていく。
 ページが進むと白を基調にした責め図から、今度はうって変わって地下牢のような暗い部屋。少女の衣装も素肌に紅縄から、胸と秘所だけを露出したアダルトなボンテージに変わっている。首輪をつけられ、壁につながれ、複数の男になぶりものにされる。最後はまた全裸に戻って、白濁をまとわりつかせたまま陶然と微笑んで〆。
『な、なんだなんだ?なんなのだ、これは?』
 当初の目的も忘れて太公望は混乱していた。よくわからないがとんでもない世界をのぞいてしまった気がする。唯一わかるのは少女の痴態が彼の本能を直撃したことだけ。全身が冷や汗で濡れて異様な胸の高鳴りを全身を支配する。
 ……これが、これがもしも普賢だったら?
 自分の想像を振り払うように太公望は必死で首を振る。だがしかし、頭は勝手に妄想を展開していってもう止められない。冷えていたはずの体がうずいてきて、どうしようどうしよう、泣きそうになっていたところに。
「望ちゃん……何それ?」
 氷のような声が耳を打った。自分の血の気が引く音を聞く。
 おそるおそる振り返ると、いままさに普賢その人が戸口に立っていた。手に持っているのは自分宛の書状だろう。
 普賢はつかつかと太公望に歩み寄ると、止める暇もなく机上の写真集を取り上げた。無言のままざっと中身を検証する。眉間の縦じわがさらに深くなった。
「あ、いや、その、あの……」
 言い訳しようのない状況で、なお太公望は言い訳を試みようとしてやっぱり失敗する。わたわたと両手を意味もなく動かすも次の言葉は出てこない。
 大きな音を立てて、太公望の目の前で、本が二つに裂けた。
「あ、あ、あ、あああああ……」
 苦労して手に入れた本が目の前で紙くずに変わっていく。無言のままページを引き裂き終えると、普賢はそれを床に叩きつけた。
「望ちゃんのバカ」
 地獄の底から響いてくるような声音に凍りついたまま、太公望は部屋の中へ取り残された。もはや後を追う気力どころか立ち上がることすらできず。
 
 普賢は玉虚宮の廊下を足音高く歩く。胸の内にある怒りに似た感情のままに。
『なんなのさ、あのエロ本は。しかもあんなディープなの買っちゃって。いや別にいいけどさ。キミが何買おうとキミの自由だけどさ。欲をもてあますのもわかるけどさ。なんでよりによって僕に似た子なんだよ!キミは何を求めてるんだよ!ああ女の子だろ!?わかってるよ!悪かったな女じゃなくて!でもなんで僕に似た子なんだよ!何で僕じゃないんだよ!』
 普賢は欄干をがっしりつかむと、喉も割れよとばかりに蒼穹に向かって叫んだ。
「望ちゃんのバカアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
 
 その頃部屋の中では太公望がめそめそと泣きながらセロテープで本をなおしていたそうな。
 
 

COMMENT

■ノヒト ... 2010/04/18(日)03:07 [編集・削除]

なんかこのSS、エロネタ書くより恥ずかしかったんですけど……