「ちょ、っと、やめ……っ!」
※普望です。普望です。普望です。
※よし、こんだけ書いときゃ大丈夫だろ。
※18禁 望ちゃん女の子注意
「ちょ、っと、やめ……っ!」
耐えきれず、僕は望ちゃんの口の中に熱を放った。焼けるような快楽の余韻が全身を支配して、ひざが崩れそうになる。
「相変わらずよい反応だのう」
望ちゃんは喉を鳴らして笑うと、口の端からあふれた白濁を指先でぬぐって、僕に見せつけるように音を立ててなめる。
「……やめてよ」
「おぬしはわしのものなのだぞ、わしのものをどうしようとわしの勝手であろうが」
さて続きをと、おもむろに僕のものを再度くわえこもうとした彼女を、ため息をつきながら押しとどめる。
「せめて場所を変えようよ……。あっちに倉庫があったからさ」
「それは良い案だ。そこでたっぷり楽しませてもらおう」
大きな目を猫のように細めて望ちゃんが笑う。僕はもう一度ため息をつきながら首を振った。
逆らうと彼女がかんしゃくを起こすのは目に見えていたし、おまけに怒る気にもなれないほど微妙かつ陰険ないやがらせを延々とされる。望ちゃんと根競べをするくらいなら素直に負けを認めたほうが楽だ。
それに、さっきの彼女に見つかるかもしれないし。
『普賢』
背後から声をかけられた瞬間、僕の首がしまる。道士服は襟元が詰まっているから、ひっぱられるとかなり苦しい。
『望ちゃん、何?』
いやな予感とともに振り向いた先には、はたして同期にして元始天尊様の一番弟子、太公望こと望ちゃんが立っていた。僕の隣を歩いていた花冠があわてて頭を下げる。そうだね、仮にも十二仙と同格だもんね。僕もだけど。
『ちとこやつに用があるのだ、ではな』
まったく悪びれもせずそう言うと、望ちゃんは僕の襟首をつかんだままずるずるとひっぱっていき、あろうことか角を曲がってすぐに僕の下衣の前をはだけたのだった。以下、冒頭に戻る。
倉庫の最奥で物陰に隠れると、僕は観念して自分で服を脱いだ。
幸いにも花冠の彼女が追ってきた様子はない。いや、追ってきてたのに気づかなかっただけかもしれないが。どちらにせよ、僕はおつきあいまで持ち込んだ人をまた失ったわけだ。目の前の悪友のせいで。昔はもっと、すなおで人の良い性格だったのだけれど。
だいたい不公平だ。望ちゃんは誰にでもついていくくせに、僕の行動は制限する。こんな風に気の向いた時に強引に呼びつけて相手を務めさせる。
「恨むからね」
「何をだ」
「人の恋路の邪魔をして」
「わしの許可をとらんからだ」
「冗談でしょう、なんだってそんなこといちいちキミに言わなきゃならないんだ」
「だからおぬしはわしのものだと言っている」
「僕はものじゃない」
「ほう」
望ちゃんが満面の笑みを浮かべた、ただし目は笑っていない。僕は地雷を踏んだことに気づいた。
「酔った勢いでわしの処女を奪ったのは誰だったかのう」
いちばん痛い刃物を突きつけられて、僕はうなだれるしかなかった。
そうなのだ。僕が彼女に逆らえないのはそういう理由なのだ。
数年前、宴の席で先輩方に絡まれてしこたま飲まされた僕は、自室の手前で力尽きてしまった。倒れる音を聞いてあわてて部屋から出てきた望ちゃんは、哀れ、灰色の青春で性欲をもてあましてる悟りきれてない未熟者の餌食になった、と。謝っても謝りきれないことをしでかしたのは確かに僕だ。
でもね、キミもちょっとさ、無用心すぎるんじゃない?バスタオル一枚で出てくるかな、普通。
薄目を開けた先に、風呂上りのほんのり朱を帯びた肌もそのままで、ふんわりと石鹸のいい香りのする、そんな美少女が心配そうにのぞきこんでいた。濡れた前髪が揺れて、艶っぽくて、あとはお察しください。
あの日から、望ちゃんは変わってしまった。
「……悪かったよ」
「ふん、わかればよい」
言いながら彼女も服を脱ぎ落とす。形のいい乳房やキュッと上がった小さな丸いお尻。スレンダーなのに出るところは出ている、魅力的な体があらわになる。
僕はその太ももに白い液体が一筋つたっているのを見て取った。……せめて後始末ぐらいしてから来てほしかったな。
僕の視線に気づいたのか、望ちゃんが鼻で笑う。
「これか?ああ、大ハズレでな。下手だわ早いわで話にならなくてな、どうにも体が納まらんからおぬしを呼んだのだ。前戯の手間が省けてよかろう」
あまりにあけすけな発言に僕は閉口した。もう反論する気力もなくして僕は床に仰向けに寝転ぶ。男の上に乗るのが彼女の好みだからだ。
ぴちゃりと水音がして望ちゃんが僕の中心に触れたのがわかった。舌先で舐めあげ口に含んだかと思うと、頬ずりされ手でしごかれる。気まぐれな愛撫に翻弄されて体中の熱がそこに集まっていく。僕は目を閉じて顔をそらした。強姦相手を慰み物にするのは彼女なりの復讐なんだろう。ならば僕の贖罪はキミの言いなりになることだ。
「ふん、そろそろ頃合か」
望ちゃんが僕にまたがり、腰を落とす。ぬかるんだ感触が僕を包んだ。ひときわ強い快楽に僕は背をそらす。時にやわやわと時にちぎれそうなほど強く、濡れた内側が僕を苛む。
「ふっ、う……いいぞ、普賢」
なんてね。
「普賢、もっと腰を……ああっ、そう、そこだ……!」
本当は僕が。
「普賢、あ、はあっ、あ……もっと、強く、もっと」
キミから離れられないだけ。
「あ、ああっ、あああ……!」
絶頂を迎えた望ちゃんが、崩れるように僕の上に倒れこむ。僕は彼女を両腕で力いっぱい抱きしめてそのぬくもりを味わう。
慰み物でいい。精一杯気のないそぶりをしていれば僕はキミを抱ける。愛しいキミを。この想いを伝えたい。叫びたいくらい伝えたい。でも僕にそんな資格はないから。
ずるりと、望ちゃんが僕から離れていく。まだ荒い息のまま、衣服を身に着けだした。
「まったく、体の相性だけはよいな」
望ちゃんは蔑んだ目で僕を見て最後のボタンを留めた。
「またな、強姦魔。次の男もハズレだったら誘ってやる」
そう言うと望ちゃんは出て行った。
言われなくたって、わかってるよ。なんて歪んだ片恋。世界で一番キミが大事なのに、僕にできるのはキミを傷つけることだけ。
時は流れ、流れに、流れて。
僕は十二仙に。そして神に。キミは封神計画遂行者に。そして始祖に。
まあそんなわけで神界の自室で僕は飲んだくれていた。
いやあ本当にここは極楽だね、僕みたいな魂魄体でも肉体があるかのように振舞うことができる。さすが望ちゃんが設計しただけはあるなあ。
枕詞に”僕の”をつけようとして、やめた。
明日になったら、口が裂けてもそんなこと言えなくなる。婚礼があるからさ。誰のって?決まってるだろう、望ちゃんこと伏羲と楊ゼンだよ。お互いに信頼し背中を預けあった、文句のつけようがないくらいお似合いの二人だよ。
瓶の底に残った酒をグラスに注ごうとして、面倒になって直接飲んだ。口の端からあふれた火酒が服を濡らして不快だった。空になった酒瓶を放り投げて、また新しいものを手に取る。投げ捨てた酒瓶は、転がっていた別の瓶にあたって耳障りな音を立てた。部屋中に酒瓶が散乱している。こんな姿、木タクに見せられたもんじゃないから、部屋には鍵をかけてある。
ため息と一緒に飲み下す、いわゆる自棄酒。未練たらしいのは百も承知だ。
やっとキミに、身も心も許せる相手が見つかったんだ。僕はそれを喜びこそすれ、呪う筋合いはない。ましてや嫉妬などという見苦しい感情など断じて抱いてはならないのだ。
ということになっている、建前はね。うん、ちゃんとにっこり笑って祝福したよ、おめでとう望ちゃんって。
前々からそうなるだろうってのは噂されていたし、見るからにふたりは親密だった、だから人の世から戻ってきた望ちゃんが楊ゼンと結婚するって言い出すのも想定の範囲内だった。ただ自分が受けるダメージ量の目測を誤っていただけの話だ。我泣き濡れて酒と戯る。
婚礼が近づくにつれて僕は深酒が増えていった。心配する木タクを邪険に扱いそうになって、我に返り部屋に閉じこもる。自分でもうんざりする日々。
十二仙になってからはつきあいで宴に顔を出すことも多く、おかげさまでめったなことでは酔えなくなってしまった。それが逆に深酒に拍車をかける。体はもうどっぷりとアルコールに浸っているのに、頭は覚めたままだ。
明日になったら、僕は平気な顔して部屋から出て行かなくてはならない。そして神仙のひとりとして、婚礼の席でキミを祝うんだ。問題ない。大丈夫だ。僕ならできる、きっとできる。
また一瓶空にして、そいつを卓に転がす。そろそろ眠らなくちゃ。壁の時計をにらみつけながら、僕はこいつを壊せば時が止まるだろうかと馬鹿なことを考えていた。
そのとき、控えめなノックの音が聞こえた。
「木タク?」
扉の向こうから、しばしの沈黙の後、いいえと応えが返ってきた。
「花冠の者でございます。神仙普賢真人に共寝を願いまして忍んで参ったしだいでございます」
「帰ってくれ、気分じゃない」
「後生でございます、どうかお慈悲を垂れてくださいませ」
扉を叩く音がだんだん大きくなる。僕は体面を取り繕うことも忘れて舌打ちをした。早いところ追い払わなくちゃ木タクが起きてくる。扉を少し開けて様子を伺うと、そこには長い外套に身を包んだ小柄な女性が立っていた。フードをすっぽりかぶっているので顔はわからない。
「もう一度言うけど気分じゃないんだ。帰ってくれ」
「後生でございます、どうか、どうか……!」
「帰ってくれ」
「普賢真人!」
扉を閉めようとすると、その花冠は悲痛な声で僕の名を呼んだ。そんな声出されても不愉快なだけだ。間が悪い、あまりにも。なんでこんな時に下位道士を抱かなきゃいけないんだ。でも放っておいたら居座られそうだ。それはそれで困る。
逡巡して、僕は扉を開いた。部屋の荒れ具合に花冠は少し引いたようだった。
「見てのとおり僕は酔ってて女を抱くなんて面倒だからさ。キミのほうで全部してくれるんならいいよ、それでいい?」
普段の僕なら絶対に言わないセリフ、ところが花冠は大きくうなづいて、はいと返事をした。こころなしか喜色をにじませている。てっきり尻尾を巻いて逃げ帰ると思い込んでいたのでこの反応は予想外だった。
僕は仕方なく彼女を迎え入れた。
「明かりを落としてもよろしゅうございますか?」
「好きにすれば?」
夜に男のところへ押しかけるような女が、初心な小娘のようなことをとは思ったのだけれど、正直どうでもよかった。僕は寝台へごろりと横になる。部屋が暗くなって、花冠が近づいてくる気配がした。暗闇の中、おずおずと伸びてきた手が僕の頬に触る。
手に続いて唇が降ってきた。触れるだけのキスを何度もくりかえし。花冠はいとおしげに僕に口付け、髪を、頬を、首筋を撫でた。僕はただわずらわしく、うざったかった。
「さっさと終わらせてくれない?眠いからさ」
「あ、はい……申し訳ありません」
あたたかな手が顔を撫でたので、僕は目を閉じる。手はするすると僕の服をはだけさせていく。そして彼女は、僕の鎖骨をそっと舐めた。
「痕つけないでよ、面倒だから」
「かしこまりました……」
彼女は唇での愛撫をやめると、手のひらで僕の輪郭をなぞった。だんだん下へ降りていき、やがて僕の中心にたどり着く。そっと、壊れ物を扱うかのように両手で包む。先端に口付けられるのを感じた。舌を使って、ゆっくりゆっくりじわじわと追い上げてくる。むずがゆいような感覚が下腹部から全身へ広がっていく。気がつくと息が上がっていた。ちゅぱと音がして、愛撫がやむ。
「あの」
「何?」
「気持ち、いいでしょうか?」
「まあ悪くないんじゃないかな」
僕はそっぽを向いたまま答えた。事実僕のものは巧みな唇によって天を向いている。うれしいと、彼女はつぶやいて僕のものに頬ずりをする。やわらかい感触が甘い刺激になって、僕はつい熱い息を吐いた。
そのとたん、まるで糸が切れたように彼女は口淫を始めた。むしゃぶりつく、そんな形容がふさわしい激しさで喉の奥までほおばられ、強く啜られる。舌がまるで別の生き物みたいに絡みつき、奥歯の硬さが刺激を強める。見事な手管にほだされ、僕はたまらず彼女の口内へ大量の精を放った。
「ん、んう……」
口中に僕をくわえたまま、彼女は一滴残らず飲み干して満足げな吐息をこぼした。
「甘露でございます……普賢真人……」
荒い呼気をおさめるのに手一杯な僕の耳に彼女の声が届く。残滓を舌の上で転がしているのか、陶然とした声だった。
「うれしい、まだこんなに……」
その声のまま、彼女は僕のものを撫でた。あれだけの精を吐き出したにも関わらず、熱はまったく去らずに、いまだ痛いくらい主張している。彼女が衣を脱ぎ落とす音がして、体勢を変える気配がした。先端に濡れそぼった入り口が押し当てられる。
「普賢真人……私の処女を捧げます。どうかお受け取りくださいませ……」
なんだって!?
驚愕して、同時に僕は異変に気づいた。まぶたが開かない、声が出せない。何千本もの細い糸で全身を寝台に巻きつけられたように指一本動かすことができない。
「くっ!うう……!」
苦悶を押し殺す声が降ってきて、僕が少しずつ彼女の中に飲みこまれていく。破瓜の血がぬるりと僕を濡らした。根元まで強引に押しこむと、彼女はつらそうに細く長く息をした。そして無理やり動き始める。
やめろ、もういい、よしてくれ!これ以上キミを傷つけたくない!
そんな胸の内とは裏腹に僕のものは追い詰められてますます張り詰めていく。男を知ったばかりの未熟な内壁が僕にきつく噛み付いて頂点へひきずっていく。
どうしてこんなことをするんだ、望ちゃん!
絶頂に放り出され、急速に遠のいていく意識の下で、僕は必死で彼女をつかもうとしていた。
「楊ゼン!」
駆けこんできた僕の剣幕に、一同驚いているようだった。朝、婚礼の儀式まではまだ数刻、会場は最後の仕上げに追われており、伏羲と楊ゼンは親しい仲間に囲まれて談笑していた。いつもの漆黒の衣装とは対照的な白い花嫁姿が目にまぶしい。
「望……伏羲とふたりきりで話がしたいんだ。いいかな」
あたりがざわついた。楊ゼンが戸惑い、伏羲に制される。
「話があるならここでもよいではないか」
「ふたりきりでなきゃダメなんだ」
「話すことなどない」
「僕にはある!それとも本当にここで話そうか?」
伏羲は眉根を寄せ、楊ゼンにすぐ戻ると伝えた。僕は何事かと遠巻きに見つめる数多の視線を無視し、会場の裏手の控え室に伏羲を連れ込んだ。
「どうしてあんなことしたんだ」
開口一番、僕は疑念をぶつけた。伏羲は僕に背を向けて軽く肩をすくめた。
「何のことだ」
「昨日のことだよ、望ちゃん」
「だから何のことだ。それと、その望ちゃんというのはやめろ。夫を持つ身を相手に、あまりになれなれしかろう」
「とぼけないでよ。状況から言ってキミしかいないんだ」
僕の動きを封じることができるのは僕と同格かそれ以上でなくてはならない、少なくとも下位道士の花冠には不可能だ。何より、僕の部屋に鍵がかかっていたように、洞府の入り口にも錠前がかけられている。そして、入り口の鍵を管理している木タクは眠っていた。空間を自由に行き来する能力を持つのは、王天君のいない今、始祖たる目の前の人しかいない。
「何故あんなことをしたのさ」
「何のことやらさっぱりわからぬ」
「こっちを見てよ!」
伏羲は一瞬だけ振り返っていらだたしげな一瞥をくれるとまた僕に背を向けた。
「普賢、おぬし酒臭いぞ。またぞろ酔って馬鹿をやらかしただけではないか?」
「それはない。キミの痕が残った敷布も確かにある」
「だから共寝をしたのはわしではない」
つかまえた。
「誰が共寝の話だって言った?僕は何も、具体的なことは言ってないはずだよ」
伏羲の肩が強張る。その肩をつかんで無理やり振り向かせた。あせりの滲んだ大きな瞳が僕を映している。
「人を呼ぶぞこの強姦魔!」
「呼べばいい!僕に止めを刺せ!」
朝焼け色の瞳がひるむ。僕はもう抑えきれずまくし立てた。
「気が狂いそうなんだよ望ちゃん。僕はキミが好きだ。キミが好きなんだ。ずっと、初めて会ったときからキミを見てた。キミに本意でない行為を強いてしまった時から、どうやってキミを諦めるかそればかり考え続けてきた。キミが素晴らしい相手と巡り会うことができて、やっとこの想いに終止符が打てると思ってたのに、あんなことされて僕は気が狂いそうなんだよ!」
始祖としての新しい体を得たキミは、初めての相手に僕を選んでくれた。声は変えても、姿は変えなかったのも、きっと……。
「教えてよ、キミは僕をどう思っているの。頼むよ、お願いだ……止めを、刺してほしいんだ……」
時間にしては短く、しかし永遠のような沈黙が落ちた。僕は処刑を待つ罪人の面持ちでうなだれる。やがてかすれた声が、空気をふるわせて僕の耳に届いた。
「わしは……うれしかったのに……」
意外な言葉に、僕は恐る恐る顔を上げた。望ちゃんの、大粒の宝石のような瞳に、ゆっくりと涙の膜が張っていく。
「うれしかったのに、わしは。わしは、うれしかったのに、おぬしが謝るから。なかったことにしようとするから。片恋なのだと……諦めようと……諦めきれなくて……わしは、わしは……」
ぽろぽろと、透明な涙がこぼれていく。なんてことだ、とうの昔に僕はキミのもので、キミは、僕のものだったのだ。
「普賢……」
「望ちゃん……」
「わしは、わしはもう望ではない。それでもいいか?それでもかまわぬか……!?」
答えの代わりに、僕は細い体をきつく抱きしめた。望ちゃんもまた、僕の首に腕を回してひしと抱きついてきた。心がほどけていく。ぬくもりにうっとりとしかけたその時、扉が壁に叩きつけられる音がした。
「どういうことですか師叔!」
振り向いた先には楊ゼンが立っていた。怒りで顔を真っ赤にしている。もうちょっと待ったら頭から湯気も出そうだ。その後ろに大量の野次馬がひしめいて固唾を呑んでいる。
僕は望ちゃんを見た、望ちゃんが僕を見た。それで充分だった。
望ちゃんを抱えあげ、胸を張って叫ぶ。
「婚礼は取り止めだ!望ちゃんは僕がもらっていく!」
同時に望ちゃんが指先から飛ばした風で背後の壁を壊す。僕は瓦礫を越えて走り出した。たくさんの足音が僕らを追いかけてくる。意地とか恥とか見栄とか義理とか義務とか地位とか外面とか体裁とか、その他もろもろたくさんの、今まで築きあげてきたものがどんどん遠くなっていく。
知るもんか。知るもんか。僕はもう絶対にこの愛しい人を離したりしない。
腕の中僕にぎゅっとつかまってくるぬくもりを抱きしめて、僕は走った。
■ノヒト ... 2010/04/27(火)04:51 [編集・削除]
ど う し て こ う な っ た orz