「御主人、暑いっス。今すぐボクの上から降りるっスよ!」
※健全コメディ
※一応オールキャラ
日差しが針のように落ちて、地に足を縫いとめる。
ねっとりとした水滴がこめかみを流れ落ちる感触がして、影で染まった大地に円を描いた。
荒野を行く周軍は猛暑に見舞われていた。身を預ける木陰も涼やかな水辺もなく、口をあければ砂埃が飛び込み、地平線を逃げ水があざわらうように駆けていく。
「御主人、暑いっス。今すぐボクの上から降りるっスよ!」
「わっ!ちょっと待て暴れるな、落ちる落ちるー!」
とうとう四不象が音をあげた。じたばたする背中から、振り落とされてなるものかとしがみついたせいで、太公望はたてがみに頭をつっこむ羽目になる。もこもこしたたてがみにはたっぷりと熱気が……。
「だー!わしのほうから願い下げだこのダアホが!顔洗って水浴びもして氷積んで出直して来い!」
太公望は勢いよく飛び降りた。器用に着地し首をめぐらすと、武吉を呼び寄せる。
「ひとまずここまでだ、休憩を取る。日が落ちたら行軍を再開すると伝えてまわってくれ」
自称一番弟子は元気よく返事をするとさっそく走り出した。とはいえさすがにこの暑さの中では動きが鈍って見える。武吉が隊に言付けを伝えるたびに安堵がこぼれる。やはり皆この暑さに疲れていたのだ。少し先を急ぎすぎたのかも知れぬと、太公望は反省した。そして脇に立つ青い長髪の美丈夫を手招きする。
「水と食料はどの程度まで融通が利きそうかのう」
「干物や乾物の類はまだまだ余裕がありますが、なま物は2日前に備蓄が尽きました。水はあと6日分といった所ですね。次の目的地まで4日もあれば着きますので問題はありません」
「あまり大盤振る舞いは出来んようだな」
そうですねと楊ゼンは顎に手を当てて首をひねった。
「西に54km戻ったところに泉がありました。僕の哮天犬なら1時間で往復できますので、水だけなら補給は出来ます」
「ふむ」
報告を受けた太公望はなにやら考えこんでいると、嬉しそうな表情になった。
「おぬし、水を凍らせることはできるか?」
「はい?ええ、まあ、僕は天才ですから当然できますけど」
「では氷を作って運んできてくれ。とびきりでかいのをな。兵たちに涼をとらせよう。スープー、おぬしも手伝うのだぞ!」
やがてやってきた氷の大きさに、誰もが歓声を上げた。
小山のような氷塊が悠然と兵の上を進んでくる。落ちてくる冷気に喜びが広がっていく。氷塊の上部2カ所には杭が打ち込まれ、長い縄が取り付けられていた。哮天犬と四不象がその縄を引っ張っている。
「オーライオーライ!」
着地点に一歩出て、天化が両手で合図を送っている。
「んぎぎぎぎぎ……」
余裕の表情の哮天犬に比べ、四不象は今にも重さで腕が千切れそうだ。
「かっかっか。あと少しだ、がんばれスープー」
「このアホ!後で覚えてるっスよー!」
上空から叫びながら四不象は哮天犬と動きをあわせて少しずつ高度を下げていく。これだけの大きさだ。一気に降ろしてしまっては大事になりかねない。ましてやあたりには周の兵が密集しているのだし。
だがしかし、地面まであと1mといったところで、誰かが飛び出した。
「ああ~、もうダメッ!がまんできないー!氷原はアタシのものよー!!」
叫ぶなりセン玉は五光石をちからいっぱい投げつけた。雷鳴のような大音響。混乱した周軍の上にキラキラと光り輝く破片が降りそそいだ。「かちわり氷を作る予定ではなかったのだが……」
大群で右往左往すれば大ケガをしかねない。点呼をとって安全確認して、一息ついた頃には氷は溶けはじめていた。あわてて各自拾い集める。太公望は手のひらほどの欠片を布にくるみ、頬に押し当てて涼んでいた。
「水分補給は大事だけどな」
同じように額に当てていた飛虎が苦笑した。視線の先ではことの元凶のセン玉が天化に叱られている。そのまたうしろでは氷原の上でナタクが天祥に遊ばれている。兵たちも思い思いに突然現れた白い敷布を楽しんでいるようだ。結果よければ全てよし、と太公望はいつもの結論を出す。
「せっかくだから頂こうや。真夏に氷なんざ、それこそ仙道でもないとできない贅沢だ」
「確かにのう」
布をほどいて氷を割った。向こうが透けるほど薄いそれは、日差しを受けてまるで宝石のようにきらめく。太公望は自然と渇きを覚えて喉を鳴らした。
五光石効果でクドイ顔になるから食べちゃダメと伝言が回ってきたのはその直後であった。
■ノヒト ... 2010/08/20(金)16:48 [編集・削除]
暑いんじゃああああああああああああ!!!!!