「いいや、キミは知らない。その覚悟もない」
※12禁 封神計画ちょい前?
虫が鳴いていた。
秋ももう終わりに近いのに、細い音が。窓から。
開け放したそこから夜気とともに流れこみ床に沈殿した。
「何かを手に入れるには、何かを手放さなくてはならないんだよ望ちゃん」
虫が鳴いている。りぃりぃと不可思議な音色。
いつもなら空にまぎれる癖の強い髪が今は真珠のごときまろやかな光沢。
「キミの手を見てごらん。ふたつしかないでしょう。両の拳を閉じたままで、キミは何かを成し遂げられると思う?」
りぃりぃと啼いている、たぶん虫。耳鳴りかもしれない。
普賢の瞳は静かで月光を受けて藍に近い。
白すぎる頬にまつげの影が落ち青ざめた気色。
「知っている」
「いいや、キミは知らない。その覚悟もない」
はっきり断言すると、普賢はその両の肩をつかんだ太公望の手をふりほどこうとした。握力にあかせて抵抗する。10指が普賢のうすい肉に食いこみ、彼は眉根を寄せておとなしくなる。
「キミがキミを真綿にくるんでおきたいのなら、僕は僕を投げ出そう、何度でも」
「ありえん、そんな未来は阻止してみせる」
「気づいていないんだね、だけど仕様のないことかもしれない。僕はとうに魅了されている、喜んで生け贄になろう」
「よせ普賢、戯言とて口に出せば真言になる」
「本心だよ」
そう嘯いてあきらめたようにひっそりと微笑む普賢に、否応なく獣欲をそそられた。
夜着を無理にはだけ、寝台へと押し倒す。
こんなに大事なのに、わかってほしいのに、いつもあと少しのところで突き放される。一尋か、一歩か、紙一重か、あいまいな微笑の向こう、うやむやにされる。
狂おしさに白磁の肌へところかまわず噛みついて歯形を残した。
耳鳴りがする。
冷気が蛇のようにからみつき這い登る。
体温がほしい。
愛撫を深めても普賢の瞳は冷めたまま。
「僕を使い潰せ、望ちゃん」
耳鳴りが。