「なーんでシャカにこんなものあげなきゃいけないんだよ、兄さん」
※乙女羊 射手と獅子が友情出演
※迷いっぱなしのシャカさんとによによムウ様
※のーてんき
※乙女羊祭2011に寄せて
これはとある13年前、わりとみんな仲良しだった頃。
聖域の中央から西にはずれた野原をよく似た兄弟が歩いていた。
すこし年が離れているらしく、兄は弟より頭二つは高い。兄が大またに歩いていく隣を弟はすこし急ぎ足でちょこちょこついて行く。日に焼けた健康そうなその子の手には緑のリボンでくるんだプレゼントボックス。
「なーんでシャカにこんなものあげなきゃいけないんだよ、兄さん」
弟が口を尖らせる。
「誕生日だからだ。おまえだって祝われるとうれしいだろう?」
「そりゃ、そうだけど…あんなヤツどうせムウくらいしか相手してないって」
「だからなアイオリア、苦手な相手だからこそ、こういう機会は逃しちゃダメなんだ。アイツも俺たちも黄金候補生、例え選に漏れても女神のために戦う戦士の一人としてここに残るだろう。もしかしたら命を預けあうことになるかもしれないぞ、そんな時に好きだの嫌いだの言ってられるか?」
「だってアイツめちゃくちゃえらそーだし、すぐどっか行くし、訓練にも参加しないし、肉とか魚とか切れっぱし入ってるだけで全部残すし、この間だって」
「大事なのは?」
「……おはなしすること」
「よくできました」
弟の頭をぽんぽん叩いてやるとアイオロスは立ち止まった。首をめぐらせて風の中、気配を探る。
「今は十二宮のはずれに居るみたいだな」
「え、そっち!?」
「今日はえらく小まめに移動してるな、何かあったか?」
「もー勘弁してよ、せっかくここまで歩いてきたのに…」
「ま、そのうち会えるだろ」
にへと笑ったアイオロスは、短く口笛を吹いた。
「近くに来たぞ」
粉っぽい風が舞うここは石切り場。良質な大理石が採れるこの場所は聖域の長い歴史と人の手による営みが、白く輝く幾何学的なオブジェが見渡すかぎり続く不思議な光景を造りだした。
そのひとつが、てっぺんに子どもを乗せている。座禅を組んでいるがお得意の瞑想タイムではないようだ。強い風になぶられる長い金髪など気にもせず彼は眉間に縦じわを刻んで手元の何かを見ている様子。
「ほら、出番だぞ」
「えー…?お、おーい、シャカ!」
兄に促され、アイオリアは崖の下から手を振った。
「誕生日おめでとう!降りて来いよ、渡したいものがあるんだ!」
「……なにかね?」
シャカの姿がまたたきほどの間消え失せ、次の瞬間には目の前に立っていた。これみよがしに瞬間移動なんか使いやがって、たまには普通に歩けとアイオリアは思う。
「ほら、プレゼント」
「……」
また一段と眉間のしわが深くなったような。
シャカは受け取らない。口をへの字に曲げ両手を組んだまま無言で突っ立っている。アイオリアは心の中で首をかしげた。こんなに表情出すヤツだったっけ?いつもスかした薄笑いを浮かべてるくせに、ずいぶんと腹立たしげだ。
次の言葉を探してうつむいてしまった弟の代わりに、アイオロスがしゃがんでシャカと視線の高さを合わせる。
「誕生日おめでとう、今日はどうしたんだ。ムウは一緒に居ないのか?」
シャカの顔が朱に染まった。叫ぶ直前のように空気を吸い込んで、思いとどまったらしく背を向ける。その肩が震えていることにアイオリアは気づいた。
「なあシャカ、どうしたんだよ。ケンカでもしたのか?」
「…一般的にはそう称する状態かもしれんな」
何があったんだと口に出そうとしたが、何故か兄の手が背にあてられ、待てと無言で伝えてくる。そのままシャカの肩の震えが治まるまでリボンの付いた小箱を抱えて所在無く過ごした。風の響きが気持ち穏やかになってきた頃シャカがぼそりとつぶやく。
「……アイオリア、私は確かにこの地に溶けこもうとしてこなかった。それは事実だ、認めよう」
「あ、うん」
「だがしかし、それは私の意志だ。私の行動理念に則った結果なのだ。栄光ある孤立なのだ。その結果生じる不利益は甘んじて受けようではないか、この世は所詮苦界なのだ」
「もしもし?」
「結果的にムウには世話をかけている、それも事実だ。教皇の命とはいえ、私の教育係としてここでの習俗、過ごし方、テーブルマナーにいたるまで教示しているのは彼だ。いやでも私の行動結果が彼に降りかかる。内心うんざりしているのだろう。ましてや私はこういう性質なのだからな。それもわかる」
「…で?」
「だからといって!誕生日の朝一番に意趣返しに来なくてもいいとは思わないか!プレゼントと称して…」
シャカが振り返る。
「こんな雑草を!」
突き出した右手に、四葉のクローバー。
「ぶっ」
「あはははははは!」
「なんだね君達は!失礼な輩だな!」
「兄さん、こいつ面白い!」
「な、だろ?ぷ…くくっ」
アイオリアが得意げに人差し指をぴっと立てる。
「あのな、教えといてやるから、よーく聞けよ。それはめったに見つからないクローバーなんだぞ。幸運の、えーとなんだっけ、象徴なんだ。ムウはそれをおまえのために探してきたってことだぞ」
シャカがぽかんと口を開ける。
「わかったら今すぐムウのとこ行け、んで謝って来い」
「…馬鹿な!」
「おまえいーかげん謝り方覚えろ、でないとほんとにムウにもおまえ嫌いってされるぞ」
「……ぐ」
「大事なのは、おはなしすること」
「……」
シャカのほっぺたがみるみるうちにふくれていく。限界になったところで、あかんべえされた。初めて見た彼の瞳はひんやりソーダ色、次の瞬間影ごと消える。つい今しがたまで彼が立っていた場所へ、風が白い小石をころり転がした。
「あ、これ渡してない」
「にーちゃんが後で宿舎のほう届けとくさ」
それに、おまえはもっともっとステキなものをあいつにプレゼントしてみせたよって風の王様は、にへと笑った。
聖域北、スターヒルの森。昼なお暗く陰鬱な影漂うが、入り口は案外明るく開けている。
そこのクローバーの絨毯に座りこみ熱心に花冠を編む姿があった。姿は小さな子どもだが、相当手先が器用らしい。金のリボンを編みこみアクセントにアカツメクサを配した花冠は大人顔負けの華やかさ。花は大きさや咲き加減は無論のこと、茎の太さにまでこだわって選び抜かれている。
その子が右手をひょいと上げ、宙を掻くしぐさをすれば手の中にはかぎ針が落ちてくる。彼はそれを使って裏側の茎の偏りを念入りにならしていく。ふいにため息をついた。
「紅が弱いな、やはりもう一つ刺し色を入れたほうがいいような…でも今日中でないと意味がないし」
しばらく首をひねっていたが。
「とにかくこれを完成させてから考えよう」
何事も途中で気を変えてしまうとしっちゃかめっちゃかになるからやめとけと言う師の教えに従い、彼は続きに取りかかった。黙々と作業を続ける彼の前、空間が揺れる。
「おや、シャカ」
顔を上げれば探していた姿があった。両手を組んで、仁王立ちだ。右手に握っているのは、彼が今朝手ずから渡し、不興を買った事の元凶。きついやり取りを思い出してムウの気持ちが重くなる。現れたきり、シャカは押し黙っている。沈黙に耐えかねムウは腕を下ろした。
「今朝はごめんなさい」
「……」
「私が浅慮でした。あなたにはそのクローバーだけでなく、それが持つ伝承もプレゼントしたいと思っていたんです」
「……」
「言い訳になってしまいますが、説明しようとしたらもうあなたはいなくなっていたので私も驚いてしまって、追いかけても話を聞いてくれませんし、つい口調が荒くなってしまいました」
「……」
「本当に…」
「すまなかった!」
ムウはちょっとびっくりしてかぎ針を落っことした。
「アイオリアに聞いた、これは幸運の象徴でめったに見つからない縁起物だと。私としたことが異国の風にあてられて六根が曇っていたようだ」
「はあ」
「それから、この際だから言うが、私は君にそれなりに感謝している。私が揉め事を起こすのは私なりに考えての結果であってべつに君の責任ではない!」
「…どうも」
「よって!これらから導き出される結論は!……今朝はすまなかったということだ」
ムウの右手がゆっくりと口元に添えられる。小さく吹きだす音が響いた。
「笑うな」
「ごめんなさい、ちょっと…」
押し殺した分長くなった笑みが森の入り口に広がった。ようやく笑いをおさめると、憮然とした表情のシャカにムウは優しく微笑みかける。
「もう怒ってませんよ、ひとまずお座りなさい。この花冠を仕上げてしまいますから。それと」
おとなしく座ったシャカの前で、ムウは白い手を伸べてクローバーの茂みを撫でた。
「覚えていてくださいね。四葉のクローバーは、傷ついた三葉から生まれるんです」
+ + +
さてもとある13年後、かなりまるくおさまった頃。
白羊宮の一室でムウは行儀悪くテーブルに足を置いた。ゆらゆら揺れる椅子の不安定な感覚が少し楽しい。誰もいないのだ、たまにはこういうのも新鮮でいい。
今日は久しぶりのオフ、まるっきり予定無し。修復無し、会議無し、行事無し、滞留も無し、遅延も無し、星々はのんきに光り凶相どこ吹く風、女神は健やかにお過ごしになられ、教皇シオンは外交と言う名のサボリで聖域不在、アイオロスも不要不急の雑事でスケジュール埋め尽くして高飛び、たぶん今頃十二宮の頂上ではサガがぶっ倒れそうになっている、が、まあがんばるがいいですよあなた13年分実績あるでしょ。
貴鬼はというとさっくり課題を終わらせて宣言どおり日本に遊びに行ってしまった、水族館に連れて行ってもらうそうだ。素直と元気と機動力がウリなせいというかおかげというか、あちこちにコネ作りまくりで正直我が弟子ながら舌を巻く。でも修行はもう少しがんばりましょうね、帰ってきたら小言を言ってやらねば。
濃い目に入れたミルクティーで喉を潤し、昨日シャカから借りた本を手の中に呼び出す。眠たくなりそうなのをとリクエストしたら『やさしい東洋哲学講座』がチョイスされてしまった。確かにどうでもよすぎてよく眠れそうだ。
何気なく本を開くと左手に違和感を感じた。ページをめくれば、はたして一枚のしおりが挟まっている。古い。そしてちゃちい。どこから見ても手作りだ。しおりの中央に陣取る四葉のクローバーは、一葉が折れてしまっている。
だがムウが目を留めたのはぺたんこの茎に沿って記された日付。
その時、白羊宮の領域に馴染んだ小宇宙を感じ取った。ムウは何事もなかったかのようにしおりを元に戻し本を消す。
「やあシャカ」
「ムウ、昨日君に貸した本のことなのだが」
「あれがどうかしたのか」
「野暮用でな、返してくれたまえ」
「ああ、かまわない」
ムウはテーブルから足を下ろし、さも興味なさげに何気なく本を返す。
「読んだかね」
「いや?」
「そうか」
そっけない返事を返すと処女宮の主は部屋を出て行く。その背に向かってムウはにっこりと笑いかけた。
「さあシャカ、今日は押し花作りのおさらいをしましょうか」
■ノヒト ... 2011/11/14(月)06:22 [編集・削除]
乙女羊ばんざーい!ばんざーい!
初めてはまったCPです。
乙女羊ばんざーい!ばんざーい!