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SS~独白

もし願いがかなうのならば!

※ついった投下分
※妲己の独白
 
 
続き
 
 
 

 
 すべてを思うがままにと、支配のため破壊の力を求め続けた自分すらも、尊き始祖たちの愛情と献身の賜物として生を受けたのだと知ったとき妲己の夢は反転した。
 自らは何もなさず、しかしいつも傍らに存在する慈悲の手の平の上では、この世の王などお山の大将。いつか崩落する玉座よりも、静止した永遠の安寧を。
 胸をよぎるのは誘惑の罠に落とした愛し子達。裏切りを突きつけ罵詈雑言を吐いても、なお自分を求めて手を伸ばした、ただ年を経ただけの愚かな子ども達。
 一縷の望みを託してこびへつらうその姿を高笑いと共に踏みにじってきた。胸のうちにくすぶるわずかな痛みを麻痺させるために。
 生あるものは醜い、子どもならばなおさら。捨てないでとひたすらに見上げてくるひねこびた眼が妲己は嫌いだった。空っぽの両手は灯りを取ることができるのに、どこまでも行ける二本の足がそこにあるのに、何も行動を起こさずただお情けを求めるロバのような愚直さが妲己は嫌いだった。
 けれども彼女が、そのたっぷりした羽衣の繭にくるんだ者は、皆そうなってしまう。骨抜きになった男に、してやったりと微笑みかけながら、そのくせ腹の奥には落胆が溜まっていくのだ。美貌と甘言を駆使して対象を篭絡し、一方で簡単に落ちていく相手に失望した。ひざの上、無防備に眠りこける彼らの寝顔はぞっとするほど醜い。
 だけど生を歌う装置になって、緑色の竪琴の音色になって、この星すらくるむ穏やかな毛布になって、私が私を手放し私から孵化したなら、すべては許せるだろうか。短絡で愚鈍で醜悪な、そして力強い直線を描くあまたの生の伸び行く先を、肯定も否定もせずに、いることができるのだろうか。
 もし願いがかなうのならば! ただ見守るだけの存在に、あたたかな眼差しだけの何かに。
 反転した夢をしっかりとつかまえて妲己は動き出す。すべてを思うがままに。
 

COMMENT

■ノヒト ... 2012/09/14(金)02:52 [編集・削除]

妲己ちゃんは庇護の対象としての我が子が欲しかったのかな、と